英語の冠詞 "a" と "an" を巡る冒険
英語では不自然な発音を避けるために、母音の前の冠詞は "an" で通してるのに、日本人のおそらく 8割以上は、"an apple" を 「アン アップル」、あるいはせいぜいよくて 「アン ナポー」 などと、かなり窮屈に発音しちゃう。ネイティブで英語を話すアメリカ人のほとんどは、そんな器用な発音はできず、フツーは 「アナポー」 みたいになる。
日本語には「リエゾン」という概念がないからだという人もいるが、それは正確ではない。日本人も「因縁」は「いんえん」と言わずに、「いんねん」とリエゾンする。歌舞伎の『勧進帳』でも、「額に戴く兜巾(ときん)は如何に」を、「ときんないかに」と発音する。やっぱり日本人も、リエゾンする方が楽なのだ。
これって、「慣れ」の問題なのだと思う。ただ一口に「慣れ」と言っても、原理を頭で理解しておくと身に付きやすいということはある。
英語教育で言えば、「実は、元々は "an" しかなかった」ときちんと教えれば、少しは理解しやすいんじゃないかと思う。ほかのヨーロッパ語の冠詞を考えれば、「なるほどね」 と納得するだろう。英語の "a" は、"un" だの "une" だの "ein" だの "eines" だのに比べると、究極的な短縮形だ。
元々は "an" ("one" の弱音)だったのだが、子音の前でもいちいち "an" と言うのがうっとうしいので、さくっと省略して "a" になったのである。中学生の時にそう聞いたことがあって、ただ生半可なうろ覚えで書くとエライことなので、さっき Wisdom 辞書で確認したら、間違ってなかった。
今の英語教育だと、冠詞は "a" が基本で、母音の前でわざわざ "an" に変化させるなんていう面倒な手続きを踏むのだと、日本人のほとんどが思っているはずだ。これだと身に付くはずがない。本当は母音の前で面倒になるのではなく、子音の前で楽になっているのだ。
この辺りをきちっと理解すれば、ひいては乗り物に乗っても「うぃ るっく ふぉあわーど とぅ しーいんぐ ゆう あげん」なんて、へんてこりんなアナウンスを聞かなくて済むのだが。
それにしても、英語以外のヨーロッパ語の冠詞って、英語と比べると、ホンのちょっと長いだけなのに、気が遠くなるほど面倒くさい印象がある。英語みたいにさくっと省略しなかったからで、さらに男性形と女性形なんていう面倒な変化がある。
このあたりのシンプルさは、英語が世界共通語になる大きな武器になったんだろうと、実感で思う。そのかわり、「ニュアンス」という宝をかなり切り捨ててもいると思うが。
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コメント
知らなかったですね。
自然な流れに驚きました。
tak様はどんな英語の勉強をされたのでしょうか?
またいつか機会があれば聞かせていただけると嬉しいです。
投稿: fn.line | 2010年7月17日 21:14
fn.line さん:
あまり買いかぶらないでくださいね ^^;)
最近は英語とあまり接してないので、英語力はずいぶん落ちてると思います。
ちなみに "an" の方が原型だというのは、多分中学生頃にどこかで聞いたんだと思います。
(記憶は定かでありません)
投稿: tak | 2010年7月18日 00:07