蚊を巡る冒険
夏になったが、我が家の周囲の蚊が激減しているような気がする。寝ていても、耳のそばでうなりを上げる羽音が聞こえない。
28年前にこのつくばの地に移転してきたときは、あまりの蚊の多さに仰天した。とくに我が家の裏は川の土手に面していて、その土手際は葦が背丈より高く生い茂っていたから、蚊の巣窟だった。そこから我が家めがけて蚊の大群が押し寄せてきた。
越してくる前は東京杉並区の西荻窪というところに住んでいて、会社から帰ってから近くの (といっても 2キロ以上あったはずだが) 善福寺公園までジョギングで往復していた。ところが、このつくばの地で暗くなってからジョギングなんぞしようものなら、蚊を吸い込んでしまって口の中が蚊だらけになるので止めた。
蚊が少し減ったのは、散々苦労して裏の土手際を耕して、葦が生えないようにしてからだ。葦の地下茎をすっかり取っ払うのに、2年かかった。3年目からは普通の雑草しか生えなくなったから、蚊の住処も減ったようだ。しかし、それでも夜になると、我が家に押し寄せる蚊が根絶されたわけではない。
ところが、昨年にこの辺りの下水道工事が完成し、我が家もついに下水道を引いた。そうなると、地域内に蚊の幼虫であるボウフラのわくドブとか側溝とかいうものがなくなったのである。これで本当に蚊が減った。これなら夜にジョギングできそうだ。
若い頃は蚊に対して、「血ぐらい少しはくれてやるから、かゆくするのは止めてくれ」と思っていた。蚊というのは子孫を残すために人間の血を吸うことが必要らしいので、だったら少しぐらい吸わせてやらないでもないから、あのかゆみの元になる物質をこちらに残していくのだけは勘弁してくれと念願していたのだ。
しかし、それは間違いだと気付いた。蚊が血を吸った後に、かゆみの元になる物質を残していってくれなかったら、人間は蚊に対して無頓着になってしまう。寝ているうちに蚊の大群に血を吸われまくっても、かゆくなかったら気付かない。失血死まではしないだろうが、目が覚めたら貧血になっていたなんてことがあるかもしれない。
かゆくなるからこそ、血を吸われまいと思うのだ。とすれば、それもまた福音である。蚊の方でも、貴重な血の供給源である人間がちゃんと健康で生き残ってくれるように、吸い過ぎたらぴしゃりと叩きつぶしてくれるように、かゆみの元になる成分を残すのだ。個の命と引き替えに種の命を獲得するのである。
世界はかくまでも微妙なバランスでできているのだ。
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