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2010年9月27日

煙草の値上げを巡る冒険

ジョンソン・エンド・ジョンソンの調査によると、今回のたばこの大幅値上げを機に禁煙を決意した喫煙者は前回値上げ時の調査より 2割以上も増えて、57,9%に達したという。禁煙の理由は、圧倒的に 「お金のため」 のためだそうだ。なんだかなあ。

禁煙を決意した理由について、MSN 産経ニュースは次のように伝えている (参照)。

禁煙理由で「お金」を挙げた人は前回の 37.0%から 57.9%に増加し、「健康」を挙げた人は 45.7%から 26.2%に激減した。お金と健康以外で多かったのは「喫煙しにくい環境が増えたため」(7.1%)と「家族、友人などに勧められたため」(4.9%)だった。

ということは、多くの喫煙者は、これまで経済的負担が比較的小さかったから、副流煙で周囲に大きな迷惑を垂れ流しすのを気にせずに喫煙し続けてきたが、ここにきて経済的な理由でそれを断念したということか。つまり、値上げさえされなかったら、これまで通りに迷惑をかけ続けるつもりでいたということだ。

日本人の美徳は「人に迷惑をかけない」という意識が高いことだといわれるが、こと煙草に関しては、全然当てはまらないのはなぜだろうか。喫煙者は自らが周囲に迷惑をかけ続けているということを、ほとんど意識していないみたいなのだ。

しかし、煙草の煙って、本当に迷惑なのだということに、そろそろ気付けよ。私なんか、煙草の煙が流れてくるたびに、心ならずも息止めてやり過ごしてるのだ。喫煙者は、他人がまともに呼吸するという、生物として当たり前の行為の邪魔をしているのである。

森永卓郎 という人は、今回の値上げについて、「ライフスタイルの多様性を認めないという政策。イジメだと思います。格差社会の助長はやめろ! 民主党は弱いものへの目配りをするといって政権とったのに、真逆のことをやってる」と、テレビ番組で公言したという(参照)。

なんで喫煙者が「弱いもの」なのか、私にはさっぱりわからない。現状では受動喫煙被害に悩む非喫煙者の方が、ずっと弱い立場にある。喫煙者で「煙草吸っていいですか?」なんて聞く人はものすごく少ない。私は聞かれたら「吸わないでください」とはっきり言うんだが、聞きもしないでいきなり吸い出すので困るのだ。

誤解のないように言っておくが、私は喫煙者に対して「煙草を辞めろ」と無理強いしているわけじゃない。吸いたければいくらでも吸うがいい。ただし、非喫煙者に迷惑がかからないように、隔離された場所で。そして、吸い終わっても嫌な臭いはつきまとうから、あまり気安く近づかないでもらいたい。

私はよく、電車の中でのウォークマン(最近は iPod かな)のシャカシャカ音の迷惑を、煙草の迷惑の例えに出す。 「あいつら、困ったもんだ、少しは人の迷惑も考えろ」という人は、喫煙者の中にも多い。

しかし、シャカシャカ音も煙草の煙も、「垂れ流し」ということでは一緒なんだよと、私は言いたいのだ。「あんただって、本質的には同じ迷惑を垂れ流しているんだよ」と。それがわかっていない喫煙者は、とても多い。

さらに言えば、極論に聞こえるかも知れないが、私は健康が急激に悪化してドクターストップがかかって初めて煙草を止めたという人を、むしろ内心軽蔑する者である。他人の健康被害にはまったく無頓着なくせに、自分の身が危なくなったらすぐに煙草を止めるという態度に、かなり醜いエゴイズムを感じるからだ (詳しくは こちら) 。

今回の煙草の増税について、「禁煙する人が増加すれば煙草の消費が減るから、税収が減少して、逆効果だ」と批判する人がいて、私は驚いた。逆効果じゃない。そもそも今回の増税の目的は、税収を増やすためではなく、喫煙者を減らすためなのだ。厚労省主導なのだもの。

昨年度のたばこ関連の税収は国・地方合わせて約 2兆 291億円だった。それに対して、02年に発表された厚労省研究班の調査によると、99年度に喫煙や受動喫煙に起因する疾患のために要した医療費は推計で約 1兆3000億円で、入院や死亡で失われた労働力も含めた社会的損失は約 7兆円にも上ったという。

喫煙者が減少した今では 10年以上前ほどの大きな金額にはならないだろうが、それにしても、煙草の税収が相当減ったとしても、社会全体ではかえっておつりが来るのだ。喫煙者には「俺たちゃ、税金払ってるんだ、文句あるか」と言う人もいるが、実際には、まだまだ応分の負担をしていないみたいなのである。

 

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コメント

はじめまして。いつも楽しく拝見しています。
タバコ!! 世の中から消えて欲しいものベスト10に入るほど、嫌悪しております。
我が家の人間(五人家族です)は、自分のテリトリーにタバコの煙が流入することを決して許しません。
飲食店などに入った瞬間、もしもタバコ臭かったら、その店が禁煙を謳っていなくても、夫は
「たばこ臭いっっ!!!」
と、よく響くバリトンで怒鳴ります。
するとタバコを吸っていた人は、ぱっと灰皿にねじりつけて火を消し、そそくさと退散してくれます。
皆様も、お試し下さい。
ただし、逆ギレされるリスクも覚悟しておきましょう。

投稿: ベロニカ | 2010年9月28日 09:47

ベロニカ さん:

>飲食店などに入った瞬間、もしもタバコ臭かったら、その店が禁煙を謳っていなくても、夫は
>「たばこ臭いっっ!!!」
>と、よく響くバリトンで怒鳴ります。

それはすごいですね (^o^)

私なら、入った瞬間に煙草臭かったら、「うっ、煙草くさ!」 と言って、そのまますぐにきびすを返して退出します。

入ってしまったら、いずれにしても煙草臭さに悩まされるでしょうから。

入るときに気付かず、食べている時に隣から煙草の煙が流れてきたら、すぐに店員に
「席を移動しますよ! 煙草臭いから」
と言って、移動します。

移動する余地がなかったら、
メニューでばたばたとあおぎ返します。

投稿: tak | 2010年9月28日 11:22

税収より社会負担のほうが大きい、というのは私も聞いたことがあります。
灰皿だの喫煙所だのを設けなければならないのも負担なら、ポイ捨てによる清掃も負担ですね。

私は、煙草の害は身体以外にもあると思っています。たとえば、
1、煙草の灰を路上に落とすのが平気になる
2、煙草の吸殻を路上に落とすのが平気になる
  (少し気にして側溝に隠したりする)
3、ちょっとしたごみなら路上に落としても平気になる
というプロセスを経て、人はモラルを削っていくこともあるんではないかなあと思うわけです。
極論と言えば極論ですが、もともと人前で平気で煙草を吸えるような人たちなわけですし。

それにしても頭にくるのは、
「席を移動する」「抗議をする」「煙を扇ぎ返す」
といった行為を、「こちらが」やらなければならない、ということですね。

投稿: キセ | 2010年9月28日 13:08


 多分、煙草について語るときに功利主義を持ち出すのは、分かりやすいけれども正しいことじゃないような気がします。

 私たちは得をしたいからとかいう理由で煙草を吸ったり禁煙したりするんじゃないのだと本来は思うんですね。金銭的な問題で煙草を辞める事になったという調査結果について、それは嗜好品(これは煙草に限ったことじゃなくお酒にしても発泡酒やリキュール類のようなビールもどきが売れている状況で同じ事が起きているのろうし)を諦めざるを得ないような家庭内の経済的な逼迫を物語っているんだと思います。
 まぁ、逼迫してきたときに教育費が優先順位が非常に高い所にあって塾やなんかの費用が削れないという価値観も功利主義的ではあるけれど。

 私は統計ってのは参考にはするけれど、盲信しちゃいかんと思っている人なのでtakさんが上げた統計的な数値は間違いはないだろうけれど、それは必ずしもフェアーな数値ではないかもしれないと考える人です。

 マイケル・サンデルの本では、チェコでの喫煙による政府の損得を計算したときに、禁煙させるよりも喫煙させていたほうが国家予算的には損失が少ないという調査結果を米国の大手煙草会社が導き出した例をあげています。(高齢化率が下がり、早死して相対的な医療費や高齢者対応住宅に要する政府の負担などが減る結果総合的には喫煙していただいたほうが社会的負担は小さいという調査結果だった) もちろん、日本での調査結果という話ではないので、これをもって云々言うつもりはないんですが、統計データは、自分が導き出したい結果についてのみ有効に働くものじゃないかと思います。そして統計データを持ってくる人というのは自分の持っている結論に至るに必要な統計データを持ってくるものじゃないですかね。

 税収がどうこうという事を抜きにして、分煙は必要でしょうし、マナーの問題も話しあうべきですが、喫煙・禁煙の話題の時に、税収云々ってのは数字を傘に来て持論に説得力を持たせたいという政治家的なナンセンスかと思います。

 調べ方によって、どちらに有利な統計データも出すことが可能な気がしますから。

 喫煙しているから税金を収めていて云々という喫煙者の主張も愚かならば、実際は損失が大きいんだという禁煙車の反論もほめられたものじゃないと思います。

 takさんが文中に書かれた「他人に迷惑をかけない」という”モラル”の話であり、問題なのは”モラル”が低下して他人の事よりも自分の事しか考えないという利己的な人が多くなってしまっている現実なんじゃないでしょうかね。

投稿: きんめ | 2010年9月28日 14:44

キセ さん:

キセさんの挙げられた「体の害以外の害」は、本当にあると思いますよ。

多くの喫煙者は、煙で迷惑をかけ、(自宅以外で吸った煙草の)吸い殻の始末で人の世話になってます。それで当たり前だと思っています。

投稿: tak | 2010年9月28日 15:27

きんめ さん:

>私は統計ってのは参考にはするけれど、盲信しちゃいかんと思っている人なのでtakさんが上げた統計的な数値は間違いはないだろうけれど、それは必ずしもフェアーな数値ではないかもしれないと考える人です。

確かに私としても、かなり後ろめたい思いをしながら、数字を紹介しました。

というのは、その動機が

「てめえら、税金払ってるからってことが、免罪符になるわけじゃねえんだ!」

と言いたいがためだけということだからであり、それ以上の深い意味はあまり込めてないということだからであります。

つまり、単に、「売り言葉に買い言葉」ってことで ^^;)

まさに痛いところのご指摘、ありがとうございます。

投稿: tak | 2010年9月28日 15:31

今回のタバコ税引き上げは、当初予想されていたよりも小幅であったことや、たばこ会社に対しては引き上げ幅を上回る値上げを認める方針となったことから、発表直後の株式市場ではたばこ会社の株価が上昇しました。
いろいろな経緯を見ると、やはり財務省も中心的なプレーヤーだったようです。
ただ、皆さんもおっしゃっているように、世間がどちらかというと歓迎ムードなのは、税収の問題ではなく喫煙そのものに対する考えからですよね。
昔に比べると森永氏のようなタワゴトをいう人が減ったことや、社会的コストに関する認識が高まったことはご同慶の至りです。

投稿: きっしー | 2010年9月28日 15:52

(連投すみません…)
私は酒飲みですが、飲酒の社会的コストも相当大きいので、酒税も他の税金に対し優先的に引き上げるべきだと思います。
森永氏は「貧乏人のささやかな楽しみを取り上げるのか」と言うでしょう。が、飲酒の結果社会の底辺に落ち込んだり立ち上がれなくなっている人が多数いることを考えると、むしろ脱格差社会政策言えるんじゃないですかね。
ただ、飲酒の場合は被害があった場合に加害者が色々な意味で直接コストを払うケースも多く、罰則も強化されています。たばこを吸う人は加害者であるという認識がきわめて低く、被害に対して直接責任を持つことはまずないでしょう。そんなこともあり、せめて税金くらい応分に払えと風当たりが強いのだと思います。

投稿: きっしー | 2010年9月28日 15:55

きっしー さん:

>いろいろな経緯を見ると、やはり財務省も中心的なプレーヤーだったようです。

あまり税率を上げすぎないように、厚労省と虚々実々の綱引きしたという意味でしょうか?

>昔に比べると森永氏のようなタワゴトをいう人が減ったことや、社会的コストに関する認識が高まったことはご同慶の至りです。

まさに。

>私は酒飲みですが、飲酒の社会的コストも相当大きいので、酒税も他の税金に対し優先的に引き上げるべきだと思います。

こんなものわかりのいい酒飲みは、珍しいです (^o^)

>ただ、飲酒の場合は被害があった場合に加害者が色々な意味で直接コストを払うケースも多く、罰則も強化されています。たばこを吸う人は加害者であるという認識がきわめて低く、被害に対して直接責任を持つことはまずないでしょう。そんなこともあり、せめて税金くらい応分に払えと風当たりが強いのだと思います。

これは本当にその通りだと思います。

ガンにならないための最高の対策は、近くで煙草を吸われたらダッシュで逃げることだと言ってる医者もいるぐらいですから。

投稿: tak | 2010年9月28日 17:02

値上げを機に行われたアンケートなら、意を汲んで「お金」を理由に選ぶ喫煙者も多そうですが、あくまで「喫煙を決意した」理由のアンケートなんで、各理由での禁煙成功率の違いなども気になるところです。

実際に健康被害にあった自分としては金額などに換算出来ない不満があるけど、もう一つ。
会議などで一人でも喫煙者がいると休憩の回数や長さが増えてしまう事が良くあるけど、そういった意味などでの労働力がどれだけ削られてるかも気になります。
アルコールは余程の中毒で無い限り仕事中には呑まないですものね(翌日に持ち越したりはするけど)。

投稿: clark | 2010年9月29日 08:22

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