「ユニクロ嫌い」を巡る冒険
「知のヴァーリトゥード」 という本宅サイトを始めて間もない頃、もう 8年半以上前になるが、"「隆(りゅう)とした」 身なりはお好き?" という短いコラムを書いた。要するに、高級そうできちっと決まった服を、私はできることなら着たくないというお話である。自分の文章からちょっと引用してみる。
元々、「隆とした身なり」はあまり好きではないのだ。高級ウーステッドのスーツに、襟に硬い芯が入ってびっしりとプレスされたドレスシャツ、ブランド物のタイ、ピカピカに磨き上げられた靴 …… 。それに大体セットになっている高級腕時計に、高級皮革のクラッチバッグ …… 考えただけでも肩が凝る。勘弁してもらいたい。
いくら金があっても着たくない。現実に、お仕立券付きシャツ地をもらって某百貨店で作らせたはいいが、その襟の硬さに恐れをなして、一度も袖を通さずに捨ててしまったこともある。
私のファッション感覚はかなり徹底した「アンチ・エスタブリッシュメント」なのである。まあ、簡単に言えば、要するに「カジュアル志向」ということなのだが。
なんでこんなことを書いているのかというと、このブログで昨年の今頃に書いた "ユニクロの「過剰品質」" という記事に、昨日になってから思い出したように、miyakowasure さんという方から否定的なコメントが寄せられたのがきっかけである。否定的コメントは、昨日ばかりでなく、ご覧いただけばわかるが、それ以前にも 2件付いている。
これら計 3件の否定的コメントのうち、 infor さんのものを除く 2件は、私には少々偏見がすぎるんじゃないかと思えるのである。
ユニクロは駄目さんは、次のように書かれている。
ユニクロの通販で防寒用パンツを買った
なんじゃ?これ? 寒冷地じゃ使い物にならない。
比較的温暖な西日本でも駄目だ。
股下が余りにも、余りにも浅くて、座ると尻が出る
尻が出るのですよ。
そのくせモモのあたりはダブダブ、内側のフリースはオブラートのようにペラペラ。
防寒パンツをはいてラップダンスか?ヒップホップか?
ここで「股下が余りにも、余りにも浅くて」というのは「股下」ではなく「股上」(またがみ)の誤りだろうが、多分、これは「ローライズ」を意識したデザインなのだろうと思われる。元々意識して股上を浅く作ってあるのだろう。
「防寒パンツをはいてラップダンスか?ヒップホップか?」と書かれておいでだが、企画サイドのイメージとしては、まさにそんなところだったのではないかと想像する。冬季五輪のスノーボードなんかでも、あの通りの「腰パン」なのだから、あり得ないデザインというわけではなく、むしろ十分に「あり」だと思う。
デザイン、好み、テイストといった、多様な価値観が存在して当然の分野に属するファクターを、高いか低いかという単純な価値観しか存在しない「品質」という視点とごっちゃにして語るのは、いささか乱暴すぎる。
しかもユニクロ商品の「品質」に関しては、「大変いい」とは言わないが、「決して悪くない」というのは、アパレル業界で品質管理に携わる人たちにとって、ほぼ常識となっている。むしろ「よくまあ、あの値段であの品質を実現しているものだ」と、感心している人もいるほどだ。
昨日コメントしてくださった miyakowasure さんは、次のように書かれている。
私はいまだに一枚も買ったことのない者です。
何度か足を運びましたがどの商品も質が悪いのがすぐにわかりました。
手のひらですーっと撫でるとわかるんです。
ゴワゴワ、ペラペラです。
アパレル業界でメシを食う者として、はっきり言わせて頂くと、「手のひらですーっと撫でる」 だけで衣料品の品質がわかるというのは、荒唐無稽である。超能力者というなら別だが、そんな単純なものなら、誰も目が飛び出るほど高額な検査測定機器を買ったりはしない。
そしてこの「ゴワゴワ、ペラペラ」という風合いだが、それをとってすなわち品質が悪いと断じるのは、上記の理屈で、いかがなものかという気がする。品質の視点よりは、「好み」の視点で論じられるべきファクターなので。
確かに、高品質の衣料品には「ゴワゴワ、ペラペラ」の風合いのものがほとんどない。しかしだからといって、「ゴワゴワ、ペラペラ」イコール低品質というのは乱暴過ぎる。
公平にみれば、いわゆる「高品質」の服を好むリッチな消費者層は、ファッション的にはやや保守的で、「ゴワゴワ、ペラペラ」を好まない傾向にあるので、ハイエンドのゾーンには滑らかで、しかもしっかりとした風合いの服が多く、これまでの素材開発や品質向上努力のほとんども、その方向で行われてきたというだけのことである。
ところが今や、ファッションは昔よりは多様化していて、技術の粋を尽くして「ゴワゴワ、ペラペラ」の風合いを追求するなんてことも生じている。実際、私自身も「ゴワゴワ、ペラペラ」の風合いは嫌いじゃない。冒頭で触れたように、「りゅうとした身なり」よりはむしろ、「ゴワゴワ、ペラペラ」でいきたいと思う。
フォーマルな場に出席するときは、仕方なくそれなりの格好をするが、用が済んだらさっさと堅苦しい服を脱いで、自分自身に返りたいという欲求で一杯になる。
miyakowasure さんは、さらに続ける。
ケチケチ、キチキチに仕立てるから着心地も悪いです。
それに染色も悪くて色がくすんでます。
お店全体をざーっと見回してご覧なさい。
煮しめたような服が陳列してあるでしょう。あれをみただけで気が滅入ってしまいます。
「ケチケチ、キチキチ」の仕立ても、「タイトフィット」と言ってしまうと、それはデザインの話になる。私自身はタイトフィットは好きではないが、それが客観的にいいとか悪いとかいう不毛な議論はしたくない。
染色が悪くて色がくすんでいるという問題に関しても、染色がよければ色はくすまないのかというと、決してそうではない。染色技術の粋をこらして「くすんだ色合い」を追求している人もいるのだと言えば、それで十分だと思う。
「煮しめたような服が陳列してある」というのも、あれもウォッシング処理で、わざわざああいう風合いを出している。「煮しめたような」見かけは、企画サイドの狙い通りと言っていいのだ。なんでわざわざそんな見かけにするのかと、信じられない思いの人もいるだろうが、ファッションとはそんなように「好きずき」なのである。
さらに、私がちょっと理解できない気がしたのは、miyakowasure さんのコメントの、次の 2行に関してである。
自分があんな洋服を買うのはとても惨めです。
買っている自分を友達に見られたくない。
申し訳ないが、それまでの文脈からどうしてこの 2行が出てくるのか、わからない。
惨めな思いがするほど嫌いならば、買わなければいいだけのことである。単純な話だ。どうせ買わないのだから、買って惨めになることも、買っているところを友達に見られることもあり得ない。
ところが、つい 「買っている自分を友達に見られたくない」と書いてしまうというところに、ちょっと複雑な思いが見て取られる。こういうのを心理学では「コンプレックス」と称する。大変申し訳ないが、もしかしたら、あなたの潜在意識の中には「買ってみたい」という思いもおありなのではないですか? と聞いてみたい気がする。
「そんなことはない。それは単なる言葉のアヤだ」というのなら、あえてそれ以上追求しようとは思わないが、もしかして「誰だって、あんなものを買っているのを、友達に見られたくないでしょう」という意味合いで言っているのであれば、それはちょっと失礼なことになる。
ユニクロの洋服着て楽しいですか?幸せな気分になりますか?
ユニクロがいいとおっしゃる方は着心地や気分などを教えて下さい。
miyakowasure さんのこの最後の問いかけは、こう言ってはなんだが、ほとんど喧嘩を売っていると思われても仕方ないようなところがある。真っ正直なユニクロ・ファンがいて、それに対して丁寧に答えたとしても、多分通じないと思う。だからまともな対応としては、「余計なお世話だ、ほっといてくれ」 というだけのことになるだろう。
あえてもう一言加えるとすれば、「ユニクロはあなたのような人を満足させるためのマーチャンダイジングをしているわけじゃないから、妙に意識しないで、安心して遠離っていてください」ということになる。スズキやダイハツのディーラーでメルセデスを探す人はいない。
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コメント
私は、日本に帰国して、ユニクロがあったことを、ありがたいと思っています
ユニクロでは
◎私のサイズである、「XL」と言うサイズがほとんどの商品に用意されているし
◎C/Pが非常に高い つまり、値段が安いが、tak shonaiさんのおっしゃるように、それにしては品質も値段にしては十分
◎この頃は、若年層、特に若い女性にターゲットを絞っているようですが、私のような年配の人間が着ても不自然ではないものがある
まあ、あまり世代を問わない商品でもある
さらに
◎商品のセンスも、悪くは無い
と、思っています
したがって、アンチ・ユニクロの人達のコメントは、ちょっと理解に苦しみますね
ただ、やはり、もし、ユニクロのフラッグシップ店に行けば、それなりにいろいろなバラエティーに富んだ商品があるのでしょうが、ユニクロの一般の店舗では、毎度おなじみの定番商品ばかりで、愛用し続けていると(笑)、そうそう消耗するものでもないので、あまり買うものが無くなります
ただ、一点、これは、無い物ねだりでしょうが、ユニクロのブレザーなどについては、ブレザーという商品がカジュアル低価格商品と言うユニクロの枠を越えているのか?『安物』という感じが否めません
この辺の商品は、高級ユニクロと言うべきブランドを作って、別店舗にしてはどうでしょうか?
・・・と、私がユニクロに進言する筋合いもありませんね(笑)
投稿: alex99 | 2010年10月 4日 21:29
alex さん:
>ただ、一点、これは、無い物ねだりでしょうが、ユニクロのブレザーなどについては、ブレザーという商品がカジュアル低価格商品と言うユニクロの枠を越えているのか?『安物』という感じが否めません
>この辺の商品は、高級ユニクロと言うべきブランドを作って、別店舗にしてはどうでしょうか?
私が柳井社長なら、これは大いに乗り気になっちゃう提案ですね。
ただ、ユニクロはまともなテイラード・アイテムに手を染めたことがないので、むずかしいでしょうね。
あるいは、どこかの企業を買収すればいいかもしれません。
投稿: tak | 2010年10月 4日 22:17
私もユニクロを利用することがありますが、あえて批判的なことを言わせてもらえば、定番商品での「かぶり」でしょうか。
無地のTシャツ、ポロシャツあたりはまだいいのですが、普通のシャツで知人・友人と柄がかぶるとバツが悪い。
かつて会社のカジュアルなイベントで、もろに同僚とシャツがかぶってしまったことがあります。あれは居心地が悪かった。
それから、会社のイベントに着ていくことはなくなりました。
その時に思い付いた川柳のようなもの
ユニクロで 見知らぬあなたと ペアルック
おそまつです。
投稿: garaika | 2010年10月 4日 22:50
garaika さん:
>ユニクロで 見知らぬあなたと ペアルック
これは確かに、大問題なんですよ (^o^)
同じ低価格専門店でも、しまむらは、同一店舗で同品番の品物は 1点しか置いてないことが多いです。
ですから、女性は安心して買えます。
少なくともワンマイル圏内では、同じ服を着ている他人に会う確率は非常に低くなるので。
ところが、ユニクロは同品番の品物がどっと重ねて置いてあるので、どうしてもかぶっちゃいますね。
最近はユニクロも品番をある程度チラすことで解決しようとしているようですが、それでも、かぶるときはかぶります。
逆にしまむらでは、同品番の色違いやサイズ違いを欲しい客がいても、対応が困難です。
いずれにしても、しまむら店員のオバサンは単にレジ打つだけで、商品知識皆無だし。
投稿: tak | 2010年10月 4日 23:05
たまたまの通りすがりです。
miyakowasureのような人いますよね。
金は持ってないけど、ユニクロなんて着れない。
それが自分のファッションセンス&ポリシーだなんて思ってる人。
というか、コメント見る限り
「よく恥ずかしくないな」
って思ってしまいました。
ユニクロをさりげなく使いこなすなんて芸当ができないお馬鹿さんなのかなと。
まぁ適当なブランドで固めとけば、センスの無さはカバーできますからね。
私は全身ユニクロなんてことはしませんが、ユニクロ好きです。
管理人さんの考え方に賛同して、ついついコメントしてしまいましたm(_ _)m
迷惑でしたら削除してください。
投稿: 通りすがりです | 2010年10月23日 01:03
通りすがりです さん:
>miyakowasureのような人いますよね。
います。
>金は持ってないけど、ユニクロなんて着れない。
金を持ってるかどうかは別として、ファッションの考え方が偏狭ということなんでしょうね。
>ユニクロをさりげなく使いこなすなんて芸当ができないお馬鹿さんなのかなと。
>まぁ適当なブランドで固めとけば、センスの無さはカバーできますからね。
お馬鹿さんかどうかは別として、ちょっとこぎれいな服を着てさえいれば、無難なのは確かですね。
でも、最近はユニクロでも 「ちょっとこぎれい」程度の服は出してますね ^^;)
投稿: tak | 2010年10月23日 06:28
いいちこ っていう焼酎を
ユニクロは真似したかも?
投稿: otto | 2011年9月 2日 23:12
otto さん:
>いいちこ っていう焼酎を
>ユニクロは真似したかも?
方向性に共通点はあるにしても、「真似した」かと言われれれば、「う~ん???」 と言うしかないです。
投稿: tak | 2011年9月 3日 11:05