Guest と customer は別の単語
"emi's" というブログをやっておいでの emi さんが、「日本式サービス×アメリカ式の客」というのは、本当にいいコンビネーションだと思うと書いておいでだ。なるほど、「幸福とは、アメリカの家に住み、イギリスの給料をもらい、中国の食事をとり、日本人の妻を持つこと」というジョークに匹敵するくらいのレベルの、究極の組み合わせだ。
もっとも、件のジョークは 「不幸とは、日本の家に住み、中国の給料をもらい、イギリスの食事をとり、アメリカ人の妻を持つこと」と続いて完成するのだが、emi さんのテーゼは「アメリカ式サービス×日本式の客」になっても、最悪の組み合わせにならないというのがおもしろい。日本人の客は、外国に行くととたんに「神様」でなくなる。ブランドに極端に弱いし。
emi さんの記事から、少し引用させて頂く。
日本では 『お客様は神様』 が基本だけど
アメリカではどちらかというと提供者優位。
だからアメリカの客は最低限のサービスにも
とりあえず満足できるし
それ以上のことを提供されれば大いに賞賛する。
確かにその通りで、アメリカのサービス業の従業員は一般論として、日本では考えられないほどワイルドな態度なのだが、それについていちいち腹を立てる客はいない。むしろ、店と客は対等なんだからという基本理念の元に、そんなもんだとして、疑問すら抱かない。
それは、ものすごい作り笑顔で気持ち悪いほどの接客をする日本のスチュワーデスと、肘掛けにおいた乗客の腕にお尻でボンボン体当たりしながら歩くアメリカのスチュワーデスとを比べてみただけでわかる。そして日本人の客は、日本人のサービス提供者には些細なことで文句を言うが、相手が外国人だと何も言わない。
emi さんは 4年前の記事で、「guest と customer は別の単語だ」(参照)と指摘しておいでだ。なるほど、「ゲストと顧客」は別というのは、当たり前と言えば当たり前だが、日本人の多くがまったく気付いていないポイントである。日本人にとっては、どちらも「お客様」であり、本質的な区別はないのだ。
つい最近、某衣料チェーン店(ユニクロではない「し」のつく方)で、何か店員にクレームを付けた女性客が次第に興奮して、「何なのよ、その態度は。それがお客様に対する態度なの? 私はお客なのよ、お客様なのよ!」と金切り声を上げるのを目撃して、私はぞっとしてしまった。
「し」のつく店の名誉のために言っておくが、その店員はとくに失礼な態度を取ったわけではなく、私の目からはごく普通の対応をしているように見えたのだが。
客が自分で自分を「お客様」と言って、安物衣料品店の店員にぬかづくことを要求する国というのは、世界中でも日本だけかもしれない。他の国では、下にも置かぬおもてなしをしてもらいたかったら、それなりの高級店で常連客になるしかないと考えるのが常識だろう。
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コメント
私が、その現場にいたら、その女性客に「あんたは何様なんだ?」「ここはあなたの専用店じゃないんだから、私たち他の客の迷惑にならないように、行儀良くふるまいなさい」と、言うと思います
私は、女性のいる飲み屋でも、トラブルを起こす客には「うるさい! 迷惑だから出て行け!」としかって、トラブルになる事も多い(笑)
このごろは、なるべく、そういうおせっかい・危険な事はしないように心がけてはいますが
そういう異常な女性客のような人ほど、海外では(欧米では)、猫のようにおとなしいはずです
しかし、東南アジアなどでは、日本語で(笑)大いばりしたりする
日本人って、二面性がある
いやらしいですね
外国では、客と店の使用人は原則、対等ですが、チップ次第で、力関係がガラッと変わってきます
日本では、チップなどいっさい払わないくせに、高い買い物でもないのに、まるで王様のようにふるまう人がいる
平民の天国ですね、日本は
日本のデパートで「顧客」なのは、外商のお得意でしょう
投稿: alex99 | 2011年1月10日 21:11
alex99さんの話に反応して。
>日本のデパートで「顧客」なのは、外商のお得意でしょう
alex99さんがよく行く百貨店で大昔バイトしていたことがありますが、自称「顧客」を大量に製造してしまったのは百貨店でもあります。
C級品を買った客から品質についてクレームがあると、A級品を持って謝罪に行きます。そんなことが何回もありました。百貨店は一切、客とは議論はしません。
百貨店は自ら製造した自称「顧客」に時々振り回されています。
自称「顧客」は
女性、40代、小額の買い物客である、と言う際立った特徴があります。なぜ40代の女性に集中するのか未だになぞです。ストレスの捌け口を求めている年代なんでしょうか。
投稿: ハマッコー | 2011年1月10日 22:55
取り上げていただきありがとうございます。
改めて考えてみるとguest、customorの他にvisitorなども日本語では完全に『お客様』ですね。
takさんご指摘の機内のケースでは、日本の乗務員が対応しているのは『お客様』ですがアメリカの乗務員にしてみれば"passenger"ですから、すごい差です。
提供者が相手とより対等な関係を持とうとする場合は『クライアント』でしょうか?カタカナにしておけば不明確なぶん角が立たないという意図があるような気がします。
いずれにしても『お客様』の範囲は広すぎるうえにさらに拡大しているようですね。『患者』、『生徒』+その親、『国民』なども入れられそうな勢いです。
投稿: emi | 2011年1月10日 23:42
alex さん:
>私が、その現場にいたら、その女性客に「あんたは何様なんだ?」……
「私はお客様よ!」 と答えるに違いないと確信しています ^^;)
>そういう異常な女性客のような人ほど、海外では(欧米では)、猫のようにおとなしいはずです
しかし、東南アジアなどでは、日本語で(笑)大いばりしたりする
女性客ばかりではないですよ。
若い頃の上司 (オッサン) がまさにそうでした。
>外国では、客と店の使用人は原則、対等ですが、チップ次第で、力関係がガラッと変わってきます
>日本では、チップなどいっさい払わないくせに、高い買い物でもないのに、まるで王様のようにふるまう人がいる
ハマッコーさんが指摘しているように、店側がそういう客を作ってしまったということは言えると思います。
投稿: tak | 2011年1月10日 23:54
ハマッコー さん:
>自称「顧客」を大量に製造してしまったのは百貨店でもあります。
私もそう思います。
業界の会議などでも、百貨店の連中は自分たちの顧客を 「お客様」 と言います。
私は 「どうしてこの場で、お前らの顧客を 『お客様』 と言うのを聞かせられなければいけないんだ?」 と思います。
前に "他人の 「お客様」 なんて、俺は知らん!" という記事を書いていますので、よかったらどうぞ。
https://tak-shonai.cocolog-nifty.com/crack/2006/11/post_2aa6.html
>C級品を買った客から品質についてクレームがあると、A級品を持って謝罪に行きます。そんなことが何回もありました。百貨店は一切、客とは議論はしません。
馬鹿な客をますます馬鹿にした責任は大きいと思います。
>自称「顧客」は
>女性、40代、小額の買い物客である、と言う際立った特徴があります。なぜ40代の女性に集中するのか未だになぞです。
私も同じ印象をもっています。不思議ですね。
投稿: tak | 2011年1月11日 00:02
emi さん:
>改めて考えてみるとguest、customorの他にvisitorなども日本語では完全に『お客様』ですね。
確かに。
>takさんご指摘の機内のケースでは、日本の乗務員が対応しているのは『お客様』ですがアメリカの乗務員にしてみれば"passenger"ですから、すごい差です。
日本のスチュワーデスのおねえさんは、passenger に呼びかけるとき 「おきゃくせめ」 と、甘ったるく発音します。
で、なぜか 「おきゃくせめ」 と呼ばれた passenger はいい気持ちになるみたいです。
>提供者が相手とより対等な関係を持とうとする場合は『クライアント』でしょうか?カタカナにしておけば不明確なぶん角が立たないという意図があるような気がします。
最近は 「クライアント様」 なんていう人もいて、ちょっと気持ち悪いですよ。
>いずれにしても『お客様』の範囲は広すぎるうえにさらに拡大しているようですね。『患者』、『生徒』+その親、『国民』なども入れられそうな勢いです。
「国民」 に関しては、投票しない連中は 「お客様」 ではないみたいです。
日本の若年層は、投票さえすればタダで 「お客様」 扱いしてもらえるのに、そうしないのでかなり損してると思います。
投稿: tak | 2011年1月11日 00:11
ああ~、すごい経験を思い出しました。
横浜駅で電車を待っていたら、信じられないアナウンスが…
「ただいま、○○駅付近で お客様 が線路内に立ち入りましたので、安全のために一時運行を停止しております」
私は、今なんて言ってた、と耳を疑いました。
もう一度聴いてみると、やはり お客様 と発音してました。
帰宅後、JRにメールしました。
「電車の運行を妨害してる人間はJRの敵であってお客様ではないだろう、言葉を間違えるな」と。
返事が来ましたが、あくまで「お客様」ですと。
民営化後、間もない頃の話です。思考停止状態だったんでしょうね。
小学校の校長が、平身低頭して電話をしているのを側で聞いたことがあります。相手は生徒の親でした。定年までいかなることがあってもトラブルは起こさないぞ、という強い意志を感じました。
投稿: ハマッコー | 2011年1月11日 02:45
顧客の利益を第一に置くということ自体は崇高な目標だと思います。
ただ、ここでいう顧客とは、目の前にいるその人でもあるけれども、その他の顧客や潜在的な顧客も含む(含まなければならない)場合も多いと思います。
金融の世界で「損失補填」とか「飛ばし」という行為が問題になったことがありますが、実はそれ以外の世界では類似した(他の顧客や株主の利益を損なう)行為が平然と行われ、むしろ賞賛されたりしているのではないかという気がします。ハマッコーさんのおっしゃっているデパートの例もこれにあたると思います。
いろいろ考えると、モンスター顧客にふりまわされている企業やお店は、結局、顧客第一の本当の意味を考えたことが無いということだと思いますね。
モンスター顧客とかセミ・モンスター顧客は、日本経済が発展途上にあったときには外国のサービス産業や一般企業に対する参入障壁となり、ある意味国内産業の保護に寄与したのではないかと思います。しかし、無論、その結果が現在の惨状です。典型的な日本のプレーヤーは、むやみに機能過多で八方美人的な商品を作りがちになって高コストとなり、その分を取り戻すべく人件費の圧縮に血道を上げたりさらに高付加価値商品に特化しようとして、袋小路に入ってしまっているように見えます。
投稿: きっしー | 2011年1月11日 10:46
ハマッコー さん:
>「ただいま、○○駅付近で お客様 が線路内に立ち入りましたので、安全のために一時運行を停止しております」
「人が」 で十分ですよね。最近はそのように言っているように思いますが、人によって違うのかな。
こんなことで 「お客様」 と言ったら、他の客がむっときますよね。確かに。
小学校の校長にしても、他の父兄がみたらやっぱり 「この人が校長で、大丈夫かな?」 と不安になりますよね。
投稿: tak | 2011年1月11日 11:26
きっしー さん:
>いろいろ考えると、モンスター顧客にふりまわされている企業やお店は、結局、顧客第一の本当の意味を考えたことが無いということだと思いますね。
上のハマッコーさんの、駅のアナウンスや校長の態度にしても、他の顧客の利益が損なわれてますね。
>モンスター顧客とかセミ・モンスター顧客は、日本経済が発展途上にあったときには外国のサービス産業や一般企業に対する参入障壁となり、ある意味国内産業の保護に寄与したのではないかと思います。しかし、無論、その結果が現在の惨状です。
日本の産業の高コスト体質と非効率の源は、この辺にあるような気がしますね。
投稿: tak | 2011年1月11日 11:28