神はゲイを憎むのか?
昼にたまたま BS NHK の国際ニュースを見ていたら、WBC に関連するニュースが流れた。米国の最高裁判決で、WBC の鼻つまみ的過激行動が、free speech (言論の自由) の名の下に、擁護されることになったというのである。
ここで話題になっている WBC というのは、ボクシングの団体ではない。Westboro Baptist Church の略称で、日本語では 「ウェストボロ・バプテスト教会」 と称される。中心人物はフレッド・フェルブスという男で、元は人権派弁護士だったがちょっとしたことからおかしくなって、今では同性愛者に対する過激な抗議行動をとるようになった。
彼はアメリカ合衆国がゲイに対して寛容な国になったことに憤り、別にゲイとは関係のない人(米国のために戦死した人、災害にあって死んだ人など)の葬式にまで大勢で押しかけて、「神よ、ありがとう!」と狂信的なデモンストレーションを展開するのである。
WBC の重要な教義は、"God hates gays above all other kinds of sinners" というもので、つまり「神は罪人の中でもゲイを最も憎む」というのだ。だから「悲惨な死は同性愛を認める米国民に対する神の怒りの表れ」 として、葬式に押しかけて大騒ぎするのである。
これはあんまりだというので、多くの州で「葬式でデモンストレーションしてはいけない」という法律が作られたが、WBC はこの法律は言論の自由を認めた憲法に違反しているとして訴訟を起こしまくっている。
今回の最高裁判決は、アルバート・スナイダーさんという人が、戦死した息子(この息子さんは、別にゲイというわけではないようだ)の葬儀に WBC のメンバーたちが押しかけて大騒ぎしたため、多大なる精神的苦痛を味わったとして訴えた裁判の、最終的な判決となるものだ。
この判決で、なんとスナイダーさんの訴えが退けられたため、 「言論の自由」を盾にした、WBC の無茶苦茶な示威行動が認められたことになる。
どんなに不愉快で恥知らずな主張でも、言論の自由によって保護されるべきだというのは、そりゃ確かにそうかもしれないが、あきらかにモラルに反し、それによって人を悲しませ、具体的に精神的苦痛を与えるとしても認められるというのは、「ちょっと待てよ」と言いたくもなる。
そして今回の判決は、最初の判例として今後への影響も大きい。それだけに多くの良識ある米国人は、とても恥ずかしい思いをしているらしい。
St. Petersburg Times という新聞も、このニュースを 「湧き起こる言論の自由の名の下に、誰もが好ましく思わない結果が生じた」 という、複雑な心情をうかがわせる書き出しで報じている(参照)。原告のスナイダー氏は、「もはやこの国では、故人を尊厳をもって葬ることができないということがわかった」と不満を述べているようだ。
この、普通に考えれば「おかしいんじゃねえの?」という判決を根底的に支えるのは、米国保守層の感性ではないかと思う。WBC の行動はあまりにも過激で、一般の支持を得ているとは言い難く、KKK などの保守系団体さえも一様に距離をおいているらしい。それでも「ゲイなんか殺しちまえ!」という、米国保守層の感覚からは、それほど遠くないのだ。
振り返って、東京都では石原都知事が例の「アニメ規制条例」をごり押しして通してしまった。米国では「言論の自由」のために過激行動が認められる一方で、東京都では「表現の自由」すら認められなかったわけだ。しかしこれらの根底に共通してあるのは、保守的なカタブツ感覚である。
アメリカではリベラルな良識派が、超保守派の「行き過ぎた自由の行使」に悩み、東京都ではオタク層の「表現の自由の行使」に、保守派がストップをかける。「自由」を軸としたプロセスは対照的に見えても、要するに、どこに行ってもカタブツは強いのだ。
「自由」を叫んでも認められないことがある。そしてさらに気を付けなければいけないのは、表面的な自由が認められても、時として「自由」というコンセプトの本来の意味とは無関係に機能してしまうことがあるということだ。
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