原発情報の解釈の仕方
今回の震災に伴う福島原発の事故で、かなり前から、政府、東京電力は事実を隠蔽しているのではないかという疑惑が生じている。初めは「大丈夫」と言っておきながら、徐々に避難範囲を拡大し、ついに福島第一原発 3号機が損傷して放射性物質が漏れだしている可能性に言及した。
私は 21日の 「原発、ヤマは越えたとみていいようだ」という記事を書いているのだが、その中で、「現場は必死にやっている。それに関してきちんと説明するのは上層部の責任だが、それが必ずしもうまくなされていないというのは、専門家の目から見ても感じられるようだ」 と書いた
どういうことかというと、私は友人の専門家から聞いた話の感触を次のように書いている。
少なくとも福島原発の現場における詳細情報については多分、隠すも隠さないもないというのが本当のところなんじゃないかという印象だ。そもそも原子炉に近づいて確認することなんか誰もできないんだから、つかんだ数値から推定するしかない。それも刻々と変わるから、相当に錯綜する。
(中略) つまり、現場はいちいち上に詳しいことを説明して許可を求める以前に、今リアルタイムで求められている作業を命がけで進めることに追われているようなのだ。なるほど、それを聞くと「隠すも隠さないもない」という切羽詰まった状況がわかるような気がする。
現場に関しては「隠すも隠さないもない」という切羽詰まった状況だと理解する一方で、政府と東電首脳は最初から「最悪の事態まで想定した情報」を発信すべきだったという主張も、かなり多くみられる。それをしないのは「情報隠蔽」とみられても仕方がないという論理も、もっともだ。
ただ現状としては、現場の詳細情報は不足し(制御室さえやっと電灯が灯ったばかりで、制御システムはまともに再起動していないようだ)、その一方で、周辺情報は多すぎて処理しきれない。そんな中で、情報発信する側も相当に混乱しつつ、確かと思われる情報のみを選択的に提供しているのだと思われる。
そうした中で不用意に「最悪の事態まで想定した情報」を発信したら、かなりのパニックが引き起こされるだろう。私は福島原発に関連する情報発信で、今のやり方を支持しているわけではないが、「現時点でこれ以上のレベルを求めても、無理というものだろう」という気がしている。政府と東電首脳の能力を超えてしまうのだ。
つまり、「意識的に隠蔽している」というより、情報処理とその発信が、彼らの手に余ってしまっているのだ。これを別の言葉で言えば、「東電首脳の無能」 ということになるだろう。それで、「最悪の状況としてはこのようなシナリオが想定されるが、可能性はとても低いので冷静な対応をしてもらいたい」といったような、説得力のある発信ができない。
現場はあれだけ必死にやっているのに、上がぼけているのである。
さらに言えば、情報公開は大切だが、原発のような高度に専門的な問題では、一時情報(ナマ情報)を単純に放り出すだけでは役に立たない。ナマ情報を受け取るだけできちんと解釈できる人はごく稀なのだ。
同じ情報でも、冷静に判断できる人もいれば、わけもわからずパニックになる人もいる。「スーパーやコンビニの棚が空っぽ」という断片的な単純情報を聞いただけで、我もわれもとヒステリックに買いだめに走る人があれだけいるのだから、単純な情報公開では逆効果も避けられないのは明らかだ。
高度に専門的な領域での情報公開を徹底するからには、収集された一次情報を分析し、さらに客観的に噛み砕いてきちんとした解釈の二次情報に加工する人が必要なのだが、それができる人は、さらに稀だ。
私はその番組(3月 23日夜に放送されたらしい)を見ていないのだが、Twitter 上で @kidunokansuke さんが、次のように嘆いておられる。
池上彰さんの番組を観る。ゲストの東京工業大学准教授・松本義久氏の話がとてもわかりにくい。池上さんが分かり易く噛み砕いて一段落した話を、再度専門用語満載の説明で言い直している。(参照)
なぜ呼ばれているのかを全く理解していない。池上さんに「~という説明で合っていますでしょうか、先生?」と振られた時に『合っています』と一言言えばいいだけなのに。(参照)
せっかく池上さんが素人にもわかりやすく、やさしい言葉と喩えで説明してくれているのに、それを専門的な立場からオーソライズするという役割を理解せずに、再びわけのわからない次元に戻してしまっていたらしい。そうした「専門家」が、世の中には(とくに理系には)多い。
さらにまた、噛み砕き方にも人によって楽観論から悲観論までいろいろあって、結局のところ、素人にはよくわからない。Twitter には「誰を信じるかは宗教のレベル」という tweet があったが、まさにその通りである。
どうせ宗教レベルなら、私としてはより希望のもてる噛み砕き方を信じたいと思う。もちろん、「それで死んでも本望」など言って無闇な盲信に走るのは、極力避けるが。
また、日本政府の言うことよりも外国政府の言うことの方を信じるという傾向も一部にはあるが、それも考え物だ。日本発の(日本語の)情報を、日本よりも外国の方が正確につかんでいるわけがない。
こうした状況では、外国の方がより悲観的に解釈して、自国民の早めの避難を促すというのは、当然ありがちのことだ。「外国人が一斉に帰国したぐらいなのだから、日本人も早く逃げろ」と言われても、一体どこに逃げたらいいというのだ。
これに関して良記事が見つかったので紹介しておく。「日本の真の色が光るように 外国メディアも混乱しまくった大惨事のその先で」という記事だ。
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コメント
いや~
いいエントリーですね
今、まさに、このことが問題になっていますね
米国などは隠蔽だと激怒しているし
日本側は、小出しにするし
まあ、日本側の小出しは、先の見通しまで責任を持って発表できないという自信の無さでもあるんでしょうけれど
投稿: alex99 | 2011年3月25日 14:11
私は、すべてのシナリオはこうで、その中で現状はこうなのだ・・・と言う鳥瞰図的説明をして欲しいからですが
そうすると、パニックになるのかな~?
投稿: alex99 | 2011年3月25日 14:17
alex さん:
>まあ、日本側の小出しは、先の見通しまで責任を持って発表できないという自信の無さでもあるんでしょうけれど
その通りだと思います。
>私は、すべてのシナリオはこうで、その中で現状はこうなのだ・・・と言う鳥瞰図的説明をして欲しいからですが
それを明確に責任をもって説明できる人が、東電にはいないんでしょうね。
数値でしかものを言えない理系人間は、一般人がどういう情報を求めているのかわからないので、「説明」すらできない。
それで、外部の人間が限られた材料から類推してものを言うことになるので、かえって混乱する。
きっと、この騒ぎが一段落してから、かなりの時間をかけて、そうした情報を出す際の 「ガイドライン」 が策定されることになるのでしょう。
ガイドラインがないと何もできない人たちに、「わかりやすく、隠し立てのない情報」 を求めても無理です。
投稿: tak | 2011年3月25日 15:21
池上彰氏の番組見ました。
東京工業大学准教授・松本義久氏の話しがとても分かりにくいという人がいるようですが、私の評価は逆です。
池上さんの話はよく言えば分かりやすい、悪く言えば大雑把、時には間違えていた(松本義久氏からすれば許せない間違い)。その大雑把な池上さんの話を、画用紙にマジックインクで大きく数値を書いて、噛み砕いて説明をし、池上さんのサポートをしっかりしていたと思います。専門用語なんて殆ど使わなかったと思います。(この期に及んでベクレルとかシーベルトが専門用語なんていわせない、ありとあらゆる番組で説明され尽くされてるので)
あの程度の話しを分かりにくい、専門用語ばかりだと批判する人のリテラシーを疑います。殆どの国民は小中高で理科教育を受けているのですから。
理系の人間はすぐに数値を上げて説明するから、話しが分かりにくいという批判がよく聞かれますが、彼らはそのために呼ばれたのであり(私はそう思う)、彼らは最低限どうしても使わなければいけない数値を取り上げているだけです。
一部にはどうしようもなく分かりにくい説明をする理系が存在するのは分かりますが。
以上、松本義久氏の名誉のために。
投稿: ハマッコー | 2011年3月25日 17:04
ハマッコー さん:
ご指摘、ありがとうございます。
私自身はその番組を見ていないので、何とも言えませんが、「わかりやすい説明」 がなされたか否かの基準をどこにおくかで、評価が分かれるところかもしれませんね。
「大雑把に感覚的理解ができて、得心したい」のか、「きちんと正確でないと得心できない」 のか。
まさに、そこにニーズの違いが見て取られます。
人間の 「理解」 というのもまた、ずいぶん幅のあるものだという気がしました。
投稿: tak | 2011年3月25日 18:24
あわてて心がざわめいていた私にとってはいい記事を書いて下さってありがとうございます。また「日本の真の色が光るように 外国メディアも混乱しまくった大惨事のその先で」 という記事も一気に読ませていただきました。与えられた(得た)情報をどのように汲み取るのかは 受けての私の心のありようにもよると言うことが理解できたように思います。本当にありがとうございます。
投稿: まったり | 2011年3月26日 07:48
まったり さん:
本当に情報は錯綜しているので、今はまず、落ち着くしかないと思っています。
まさに「運を天に任せている」という気持ちですね。
投稿: tak | 2011年3月26日 18:32