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2011年4月 8日

壊れた「ぐし瓦」とブルーシート

地震以後、屋根の棟の部分をブルーシートで覆った家が目立つ。棟の方向が揺れ方向に垂直だと、ぐし瓦が崩れやすかったようだ。我が家の周辺ではそれほど多くはないが、水戸辺りを車で走ると、軒並みブルーシートという一画もある。

Cr110408

屋根の棟の部分を覆う瓦を「ぐし瓦」というのを、地震以後初めて知った。手持ちの大辞林にも明鏡国語辞典にも載っていない。専門用語なのだろう。「ぐし瓦」といわずに、単に「ぐし」という人も多い。「ウチの『ぐし』が落ちちゃってねえ」なんて、案外フツーに言うのだから、専門用語とはいえ、知る人ぞ知るという言葉なのだろう。

「ぐし」の漢字はわからないし、もちろん語源もわからない。屋根のてっぺんの瓦だから、髪の毛という意味の「おぐし」から来ているのかもしれないし、または 2つの斜面の合わせ目なので、2枚の布をきれいに縫い合わせる「ぐし縫い(串縫い)」と共通する発想なのかもしれない。はたまた「揃える」という意味の「具す」から来ているのかもしれない。

これ以上は、まったく何ともいえない。

このぐし瓦の補修は、やたらと長期戦になるという。何しろあちこちで壊れてしまっているので、瓦職人も、瓦そのものも不足していて、1年先になるか 2年先になるかわからないのだそうだ。それまではブルーシートで覆っていなければ雨漏りしてしまう。気の毒なことである。

ぐし瓦に限らず、屋根瓦の形状やサイズというのは、きちんとした規格がないらしい。JIS で決められているわけではないのだ。だから、それぞれの家がそれぞれの寸法に合わせて瓦をあつらえている。

だから、部分的に壊れてしまったからといって、すぐに代替品を仕入れられるわけではないというのだ。下手すると特注で焼いてもらわなければならないこともあるらしい。大変気の長いことである。

6年近く前に、「ヘンリー・フォードと畳」という記事を書いた。フォードの往年の名車「サンダーバード」は、部品を共通化して大量生産化することで成功した。2台のサンダーバードをばらしてシャッフルし、また組み立てても同じ車が 2台できることは、当時としては画期的なことだったのだそうだ。

しかし、日本家屋の畳では、それができないのである。私は以前、我が家の六畳間の畳をはがして敷き直すときに、6枚の畳をそれぞれ元通りの位置に戻さないとぴったりと収まらないことに気付いて、腰をぬかすほど驚いた。それぞれの畳のサイズが微妙に違う特注品だったのである。

そしてどうやら、瓦というのもそういうものらしい。畳ほど 1枚 1枚が違うということはないのだろうが、それぞれの家の屋根の寸法から瓦のサイズを割り出すので、部分的に壊れたからといって、おいそれと同じ規格のものを探して来るというのは、なかなか難しいことのようなのだ。端の部分になると、斜めにカットする角度というのもあるだろうし。

私なんか、寺社建築などは別として、個人住宅の部品のサイズなんかは工業製品としてしっかり規格化してしまえば、建設コストも抑えられるのになあと思ってしまうのだが、そうしたアイデアはあまり受け入れられないらしい。

とくに檜造りの御殿みたいな家に住むのが大好きな茨城県民にとっては、そんなちゃっちい既製品みたいな家は論外ということになるようなのだ。それで、地震でぐし瓦が壊れてしまうと、1年待ちとか 1年半待ちとかいうことになってしまうのである。ブルーシートの代わりに、何かもうちょっとまともな応急処置ってないものなのだろうか。

ちなみに我が家は、安価でカジュアルなスレート葺きにしておいて、幸いだったのである。

 

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コメント

ふだんはマンションだらけの街でマンションに住んでいるので瓦はあまり関係ないのですが、心の本宅(週末や休暇を過ごしています)は屋根瓦が特徴的な建物で、しかも地震多発地帯の海のそばにあります。瓦は、スペアも多少あるのですが、大量に割れてしまったらどうしたら良いのか見当もつきません。
まあ、これまでデザイン上あきらめていたソーラーパネルを設置するとか、方向性を変えるのが一番良さそうかなあ。
バブルの時代(のちょっと後)に某女性シンガーが建てた家なのですが、色々なところで凝っているのが面白い反面、老朽化によるリプレースが悩みの種です。

投稿: きっしー | 2011年4月 8日 16:58

きっしー さん:

普段は別荘に住んで、休暇に本宅に戻られるわけですね (^o^)

瓦屋根、しかも特殊な瓦というのは、割れたときの始末が大変のようです。

それにしても、おもしろそうな家ですね。

投稿: tak | 2011年4月 8日 17:16

伝統建築は、地域性が強くて統一するのは難しいのでしょうね。
畳しかり、瓦しかり。
屋根勾配も、風が強い地域は勾配をゆるめたり、雪が深い所はきつくしたり、暑い所もきつめにしたり。
本瓦を葺く家は普通はないでしょうけどたまにあるでしょうし、色々ですね(^^;

投稿: ぺれ | 2011年4月11日 12:46

ぺれ さん:

>屋根勾配も、風が強い地域は勾配をゆるめたり、雪が深い所はきつくしたり、暑い所もきつめにしたり。

なるほど、そういう事情もあるんですね。

でも、それにしても、いくつかの規準 (サイズは洋服みたいに、S/M/L/XL とか、勾配も何段階かに設定するとか) を決めておけば、調達しやすいだろうにと思うのです。

投稿: tak | 2011年4月11日 16:22

はじめまして。岳父が瓦職人をやってたもんで。ちなみに、実家は南相馬市です。震災直後に南相馬市まで言ってきたのですが、ほとんどの家でグシが破損してまして、岳父に連絡したところ、材料が流通しておらず、また、いまどき瓦職人も少ないので、修復は当分先であろうとの見解でした。グシってのは、単に重ねているだけで、止めてありませんので、地震などですぐ破損してしまうそうです。
また、グシは、家によっては5段、7段と積み上げているのですが、あれはいわゆる「富の象徴」だそうで、お金をかけているおうちでは、7段とか、重ねているそうですよ。

投稿: 犬千代 | 2011年7月12日 01:32

犬千代 さん:

>また、グシは、家によっては5段、7段と積み上げているのですが、あれはいわゆる「富の象徴」だそうで、お金をかけているおうちでは、7段とか、重ねているそうですよ。

それは初めて知りました。
そんなに積み上げたら、地震が来たら落ちるのは当然ですね。

地震国という事情よりも、「富の象徴」 を見せびらかしたいという不条理な欲求が勝ってしまうというのも、なかなかおもしろいところです。

大谷石の塀とか、石灯籠とかも結構崩れましたが、似たようなところでしょうかね。

とくに役に立つというわけでもない 「富の象徴」 が地震で脆くも崩れ去って、それをまた懲りずに元通りにするいう作業自体が、世俗の 「富」 というものの本質を示すメタファーという気もします。

投稿: tak | 2011年7月12日 10:22

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