「原発は経済問題」 というのは正しいからこそ
池田信夫氏が 「原発は経済問題である」 と述べておられる。この言い方は、反原発派からみるととても気に障るものかもしれない。
私自身の立場は「反原発」ではあるが、自分としては「現実的反原発派」というポジションに立っていると思っていて、「ただちにすべての原発の運転を停止しろ」などと言っているわけではない。
原発はゆくゆくはすべて止めなければならないが、現時点でそんなことをしたら、社会が壊れてしまう。原発を運転し続けるリスクと即時運転停止によってもたらされる社会混乱のリスクを比べたら、後者の方がずっと大きいので、ここは仕方がないから、ある程度長い時間をかけて原発依存から脱却していくべきだというのが、私の主張である。
同じように考えている「反原発派」は多いと思うが、なかなかここまでぶっちゃけた言い方をしない。それは昔の労働組合運動で 2~3%の賃上げしか期待できないとわかっていながら、最初は強気に「10%上げろ」などとふっかけていたのと同じようなメンタリティだと思う。いくら言っても通らないとわかっているから、かえって安心して大声を上げる。
というわけで、私は情緒的に「反原発」と言っているわけではないので、池田氏の言う「原発は経済問題」という主張をヒステリックに否定しようとは思わない。確かに「原発は経済問題」であると思う。それは彼の記事を読んでいただければわかると思う。
単純に「生命の危険」というファクターだけを見れば、原発よりも火力発電の方がずっとリスクが大きい。8割以上を火力発電で補う中国の、あの深刻な大気汚染をみれば、それも納得されるだろう。中国の大気汚染の原因のかなりの部分は、火力発電所だといわれている。
さらに、火力発電の燃料の石炭採掘には、常に炭鉱事故というリスクがつきまとう。炭鉱事故で労働者が死ぬ確率は、原発事故で死者が出る確率よりずっと高い。つまり、今回の原発事故でもたらされているようなリスクを、中国は年がら年中抱えているのである。あまり日常的だから、声高に言われないだけだ。
しかしそれを鑑みても、やはり原発はゆくゆくは停止しなければならないと思うのである。私は今月 2日に「原発事故に思う その3 (サブプライムローンとの相似性)」という記事を書いた。これはその前の記事に対するきっしーさんからの次のようなコメントに共感したからである。
うまく回転している間は信じられないほど安価なサービスが供給されているように見えて、実は膨大なリスクが社会に拡散されているという意味では、原子力はサブプライムローンのと相似性があります。
そして今まさに、このサブプライムローンと相似したリスクは顕在化してしまったわけだ。まさに、「原発は経済問題」なのである。もちろん、そればかりではないから、「原発は経済問題として捉えると、かなり論理的に考えることができる」という方が正しいのだろうが。
今回の原発事故による補償問題まで考えると、「原発は安全で経済的」などとは言えないことが明らかになった。そして、問題がここで一挙に顕在化したから、それを解決すればチャラになるというわけでもなく、核廃棄物処理の問題はさらに延々と続くのである。
経済的に見ても、原発は割に合わないのである。この割に合わない技術からのできるだけ早い脱却を実現するためにも、代替エネルギーの活用技術を急いで開発しなければならない。
原発擁護派の 「太陽光発電などの代替エネルギーなんて使い物にならない」という主張は一種のデマゴーグだと、私は言っておきたい。確かに現状ではコスト効率が悪いが、技術が現状のまま停止してしまうはずがない。互いにデマゴーグの応酬をしていては、議論が前に進まない。
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コメント
こんばんは~
読ませていただきまして、ありがとうございました。
よ~く解かりました。
>代替エネルギーの活用技術を急いで開発しなければならない。
ほんとうに
そうですね~~
こういったtak_shonaiさんの論
いつもながらすばらしいですね!!
ありがとうございました。
投稿: tokiko68 | 2011年4月18日 17:04
東電が too big to fail だから破綻させらないとか、預金保険機構みたいな原発災害基金を電力会社からの拠出で作る話とか、状況はますます金融危機と似てきていますね。
そういえば、デリバティブ商品を生み出す金融工学の専門家もしばしば原子物理学者に例えられますね。
1998年のLCTM危機の時、とある別のヘッジファンドが破綻した二次災害の経緯を調べる機会がありました。単純化して言うと、そのファンドが持っていたポジションの、平常時は無視できるような極めて小さなガンマ(現物商品の価格変動1単位に対するデリバティブの価格の加速度)が大きな市場変動によって急速に膨張し、そのヘッジのための売買がさらに市場の変動を大きくさせてしまい収拾が付かなくなったことによるものでした。一般的なリスク管理ツールで事前にストレス・テストをしても問題は見えず、コトが起きてからでは対処のしようがないという状況です。原子力村の専門家の方々の知見も、そうしたリスク管理ツール程度のものだったと言えるかもしれません。
ガンマとかベータとかっていう言葉が原子力でもデリバティブでも使われているのは偶然なんでしょうかねえ。
投稿: きっしー | 2011年4月18日 17:36
tokiko68 さん:
なんだか、褒められすぎみたいな気もします。
こちらこそありがとうございます。
投稿: tak | 2011年4月18日 18:41
きっしー さん:
>そういえば、デリバティブ商品を生み出す金融工学の専門家もしばしば原子物理学者に例えられますね。
なるほど。
原子力も金融も、時として専門家の予測を超えた暴走をすることがあると。
投稿: tak | 2011年4月18日 18:43
tak shonaiさんも、相手側の意見を、少し曲げて表現していませんか?
太陽光エネルギーなどの自然エネルギーについては、「現時点では」、量的にも、技術的にも原発に代わるようなものでは無いということは、衆目の一致するところ
ただし、長期的に考えれば、ある程度、実用化できるはず
未来に限れば可能性はあるでしょう
危険な原発も、将来代替が見つかれば廃棄すればいい
新規原発建設は不可能
そんなことは、あたりまえのことです
皆がそう思っている
今さらそれを強調する必要性がどこにあるのでしょうか?
代替エネルギーが開発されるまでの、現時点でのエネルギー問題への対処がissueなんじゃありませんか?
未来の可能性については、専門家が開発すればいいことで、今われわれは、少なくとも、危険な原発との共存という現実を認め、今回の事故を教訓として事故対策を徹底し、将来、原発無しでもエネルギーに困ら無くなる時まで、我慢する
その決心を固めるしかないということでしょう
原発のコストが結局高く付いた
済んだことを、今、論じてもしかたがないことでしょう
もう新規原発はありえないし、原発も老朽化してリノベイトされることなく(30年が寿命)(福島第一は40年経過)順次廃棄されて行くのだし
ただし、原発分の供給電力はどんどん消えて行く
ドブに落ちた犬を叩くような非難ばかりでなく、今までの日本経済、国民生活に対する原発電力の寄与も評価しないと片手落ちでしょう
いいとこ取りばかり出来る、失敗の無い文明はありません
また、チェリノブイリと違って、少なくとも人的被害は出ていないことも評価されていいでしょう
投稿: alex99 | 2011年4月18日 20:47
alex さん:
>代替エネルギーが開発されるまでの、現時点でのエネルギー問題への対処がissueなんじゃありませんか?
既に何度か書いていますが、反原発である私ですが、老朽化した原発に代わる新規原発の建設には、反対していません。
危険になった古い設計の原発の代替として、より安全な原発を建設することは、トレードオフの視点から 「よりましな選択」 だと思っています。
その意味では、
>新規原発建設は不可能
>そんなことは、あたりまえのことです
と主張される alex さんよりも柔軟であるかもしれません。
というわけで、ドブに落ちた犬を叩いているわけではありません。
投稿: tak | 2011年4月18日 22:15
>新規原子力発電所の代替は、省エネと天然ガスが大宗を占め、風力発電を中心に再生可能エネルギーも増加するが、補完的役割にとどまり、救世主にはなり得ないだろう。現時点で、一部メディアでは、CO2対策で原子力に期待できなくなった以上、いよいよ太陽光発電や風力発電などのグリーンエネルギー体制に変換すべきとの主張も散見される。
しかし、そういう主張は、コストや使い勝手を軽視した単なる願望を述べたもの、敢えて言えば素人的な見解に過ぎないだろう。
ーーーー
私は、原則、この意見に賛成ですが、私は素人です
>原発擁護派の 「太陽光発電などの代替エネルギーなんて使い物にならない」 という主張は一種のデマゴーグだと、私は言っておきたい。
ーーー
えらく確信がおありのようですが、科学者でもないtak shonaiさんの、この意見も、あくまで素人の意見にとどまりますよ
投稿: alex99 | 2011年4月18日 23:18
ひとまず、風力はダメですが、太陽光はそれなりに(補助金的にも)スマートグリッド化できそうな...。(風力は問題あり過ぎ。現在運営上の状況を見るに、復興の妨げにしかならない感じです。将来は不明ですが。)
新規原発についても、旧型の稼働リスク(廃炉の必要性)を考えたら、一応検討はした方が良いのでは?(無理かも知れませんが、安全考えると、考察自体はした方が良い。ただ、ここらへんの議論が難しそうで。特に福島。新設か、改修した方が、安全化できるんですが...。)
ガス利用の小中規模発電とか、可能なうちに、太陽光と地熱発電のプラント考察をした方が良いとか、...まあ、あまりに考察の幅が広すぎるってのも、問題をわかり難くしていますが。(デマ化しているのは、ひとまず風力だけのようです。ただ、地熱なんかも安易に増加できないし、地下水汚染の問題もあるのですけど...。)
実際、リアルな死者に関しては、癌患者の増加は確実とは言えないのに、報道に煽られて、確実、と断言する人いたり(WHO が認めている疫学統計では、子供の甲状腺癌だけで、多分、今回は該当しません。)、いわゆるデマ情報問題が多すぎて、要は科学議論に辿りつけるのかなあ、と心配しています。(福島の風評被害も、現在見るところ、デマが主体です。現地の人で、今のところ、健康上の放射線としての顕著な悪化要因は、「まだ」ないですし。)
注意:現地については、積極的な放射線被曝までされたら危険かも知れないので、あまりに安全側に振れた行動も問題で。(非常に発言が難しいです...。)
実は疫学情報統計などのエビデンスもありますが、議論が複雑なので、ひとまず端折ります。
投稿: luckdragon2009 | 2011年4月19日 00:43
まあ、乱暴にまとめると、議論するには、広域、複雑過ぎる話ってことです。
> 将来の電源議論
投稿: luckdragon2009 | 2011年4月19日 00:48
alex さん:
>>原発擁護派の 「太陽光発電などの代替エネルギーなんて使い物にならない」 という主張は一種のデマゴーグだと、私は言っておきたい。
>>ーーー
>えらく確信がおありのようですが、科学者でもないtak shonaiさんの、この意見も、あくまで素人の意見にとどまりますよ
「使い物にならない」というのは言い過ぎだということです。
実際、夏の昼間の電力ピーク時は、かなりの発電ができて、自家需要をまかなえるというのは、太陽光パネルを設置した人たちが証言しています。
家庭用だけでなく、事業所でも屋上や敷地内、外壁などに太陽光パネルを設置すれば、かなりの発電が期待できます。
ということは、電力会社がピーク時の電力需要を保証するための設備投資をする必要がなくなる、つまりベースロードの発電に集中できる、言い換えれば、少なくとも原発に頼る度合いを減らせるということです。
前にも何度か書いたことですが、これだけで、かなりの貢献が期待できるわけです。
「使い物にならない」ということの根拠の一つは、国庫や自治体からの補助がなければ普及が進まないなどの政治的事情(利権化)によるのですが、私はこうした補助を増やすことで、将来への投資になると、プラスに捉えています。
(ただし、風力は問題ありと思っていますが)
投稿: tak | 2011年4月19日 06:36
luckdragon2009 さん:
>まあ、乱暴にまとめると、議論するには、広域、複雑過ぎる話ってことです。
それは確かにそうですね。
確実に言えることは、火力と原子力は、燃料が有限であること、水力は環境問題があること。
代替エネルギー利用はコストがかかること。
というわけで、「燃料が枯渇するまでに、代替エネルギー活用のコストを下げる努力をする」 という、ごく当たり前の結論にならざるを得ないわけです。
ものすごく長期的な話ですが、現在進行形で努力する必要があります。
それだけに、「代替エネルギーは使い物にならない」として切り捨ててはいられないということになります。
投稿: tak | 2011年4月19日 06:42
わたしは、将来のエネルギー源に関しては「なるようになる」という考えです。
原油の可採埋蔵量や産油量が増えて価格が上昇しないんなら、まあそれで良いわけです。長期的には無理だと思うけど、そう言われ続けてはや半世紀経っているし。
原油価格が上昇した場合は、新エネルギーの価格競争力が相対的に上昇します。補助金もだんだん必要なくなってくるし、量産効果や技術革新の効果も出てきます。技術開発は時間がかかるので、短期的な原油価格のブレの影響を取り除くための措置は必要でしょうけれども(例えばガソリン税をもっと高くしておけば、短期的な原油価格の変動が最終製品価格に与えるインパクトを軽減でき、かつ新技術に若干のインセンティブを与えられます)、まあ黎明期の分野の技術革新を少し加速してやる程度の助成を幅広くしてやれば、あとは自ずといろんな人がビジネス機会を見つけて頑張るでしょう。
原子力は、短期的には見えない様々なコストを勘定に入れなければ価格競争力が高いわけで、今まではそのことが色々な弊害を起こしていました。が、今回の事故の反動で、むしろその「見えないコストが」今度は過大評価されて原発推進が当面ストップしてしまう可能性が高そうです。しかし、本当に化石燃料が枯渇してしまうようなら、やはり原子力発電をもっと活用しようということにやがてなるでしょう。そして、そうなった際には、今回の事故により得られた知見で、ハードウェア的にも、ソフト的にも安全性が向上すると私は期待しています。
原発の本当のコストがこういう事態になるまで分からなかったように、原発無しの世界のコストも、ある程度極まった状態にならないと世間では納得されないのではないかと思います。もしかしたら、意外に平気なのかも知れませんが、やってみて納得すれば良いと思います。なので、時間はかかるでしょうが、なるようになるしかないと考えている次第です。
最悪のエネルギー政策は、こうしたダイナミクスを政府が抑圧してしまうことです。例えば、一部の発展途上国が行っているような国内向け石油製品への補助金です。グローバルな需給逼迫により原油価格が上昇すると、国内価格を低く維持するために財政負担が膨らみます。しかも需要が調整されないため、需給は悪化し産業の構造転換も遅れます。日本でも、昨年民主党が導入した、国内ガソリン価格が一定レベルに上昇すると減税措置が発動される「トリガー条項」の馬鹿さ加減がようやく理解されてきたようです。
投稿: きっしー | 2011年4月19日 11:48
きっしー さん:
>わたしは、将来のエネルギー源に関しては「なるようになる」という考えです。
なるようになるための保証という意味でも、代替エネルギーの開発は着手しておくべきと、私は思っています。
「神の見えざる手」 の選択肢を担保しておくという意味で。
投稿: tak | 2011年4月19日 22:13
きっしーさんのご意見に、全面賛成です
tak shonaiさん
代替エネルギーの開発
あたりまえのことですから、何回も書いていますが、そういうことは、特別のことのようには、書かないで欲しい
投稿: alex99 | 2011年4月23日 06:15
alex さん:
>代替エネルギーの開発
>あたりまえのことですから、何回も書いていますが、そういうことは、特別のことのようには、書かないで欲しい
私も 「あたりまえのこと」と思ってはいるのですが、それが実際に「あたりまえのこと」として進展しているようには思われないので、つい。
投稿: tak | 2011年4月23日 19:47