「ベーコンエッグ」と "bacon and eggs" は別物らしい
今月 28日の「卵 6個の目玉焼きという贅沢」にきっしーさんが付けてくれたコメントが気にかかった。次のようなコメントである(全文引用)。
私の家では、目玉焼きの下にベーコンを2切れほど敷いていたのですが、子供心に、ベーコンだけを焦げないようにカリカリにしたのを山盛りにして食べたいと思っていました。
大人になってから気付いたのは、そもそも一般的には目玉焼きとベーコンは一体として焼くわけではないみたいだということです。
このへん、どうなんでしょう?私の両親は二人とも大阪出身なので、お好み焼きで豚肉を下に敷いて焼くようなノリだったのかと疑っているのですが。
きっしーさんご自身は一言も「ベーコンエッグ」とは言っていないが、これはどうみてもいわゆる「ベーコンエッグ」のことだろう。このコメントへのレスに書いたとおり、我が家でも母がベーコンを下に敷くスタイルのベーコンエッグを焼いてくれた。
そしてこれは、「お好み焼きのノリ」というわけではないと思う。というのは、私の生まれた山形県というところは、北隣の秋田県と並んで、日本一お好み焼きに縁のない県だからである。街を歩いても、お好み焼き屋なんて一軒も見あたらない。
だから、私は東京に出てくるまで一度もお好み焼き食べたことがなかったし、これまでにも 3~4回しか食べたことがないと思う。多分、ベーコンを目玉焼きの下に敷くタイプのベーコンエッグは、お好み焼きとは無関係なのではなかろうか。
試しに、Twitter で次のようなサウンディングをしてみた (参照)。
あなたにとっての「正しいベーコンエッグ」はどちらですか? (1) ベーコンを炒めた上に卵を落とすので、ベーコンと目玉焼きが重なっている (2) ベーコンを炒めて、それをいったん取り除き、ベーコンから出た油で目玉焼きを作るため、両者は皿の上で分かれている。
それから30分足らずの間に 5件の回答があったが、いずれも前者の「ベーコンと目玉焼きが重なっている」タイプとのことだった。ふぅむ、日本人のイメージする「正しいベーコンエッグ」は、そういうもののようなのである。
しかしきっしーさんのコメントへのレスに書いたように、英国式の "bacon and eggs" はそうじゃない。欧米に出張してホテルで朝飯を食うとき、 "bacon and eggs" のコースを注文すると、目玉焼きとカリカリに焼かれたベーコンは一体になっていない。明らかに別々だ。
私自身は "bacon and eggs" のコースでもスクランブルドエッグで注文することが多いので、玉子とベーコンが別々で当然と思っていたし、たまにサニーサイドアップで注文しても、スクランブルドの場合のバリエーションと解して全然気にしなかった。しかし今思えば、もっと早くこの事実に注目すべきだった。
我々は「ベーコンエッグ」を和英辞書的には "bacon and eggs" というのだと教わった(参照)が、どうやら 「ベーコンエッグ」と "bacon and eggs" は、ビミョーに別物であるらしく、それは 「ハムエッグ」と "ham and eggs" の場合も同様なのである。
インターネットで画像検索してみると、次のようになる。
「ベーコンエッグ」(日本語) での画像検索結果: ベーコンの上に目玉焼きの載ったタイプと、別々のタイプが混在している。
"Bacon and eggs" (英語) での画像検索結果: ほとんどの画像で、目玉焼きとベーコンが分かれている。代表的なのはこちら。
「ハムエッグ」(日本語) での画像検索結果: ほとんどの画像が、ハムの上に目玉焼きの載ったタイプ。
"Ham and eggs" (英語) での画像検索結果: "Bacon and eggs" の場合ほどではないが、別々になっているのが多数派。しかし、米国人でも家庭料理としてはハムの上に目玉焼きを載せるタイプを推奨している人もいる。例えば こちら。
Web 上の英和辞書(研究社の 『新英和中辞典』)で "bacon and egg" を引いてみると、次のように説明されている(参照)が、これははなはだ怪しいのだとわかった。
bacon and eggs
ベーコンエッグ 《薄く切ったベーコンに目玉焼きをのせた料理; 英米の朝食に多い》
どうやら英国式の "curry and rice" (今は本国ではほとんど廃れたようだ)が、ライスとカレーが別々に供されるように、"bacon and eggs" も、同じ皿に載っている場合が多いとはいえ、一体化しているものではないようなのだ。日本式の「ベーコンエッグ」は、 いわば "bacon with eggs" とでも称すべきものなのではなかろうか。
| 固定リンク
「グルメ・クッキング」カテゴリの記事
- 山形県生まれとしては、あじフライにも醤油なんだが(2024.12.09)
- 回転寿司では、ほとんど「スシロー」一択の私(2024.11.16)
- ラーメン屋店主の「腕組み」を巡る冒険(2024.08.10)
- 「お好み焼き」がパリでも人気というのだが(2024.08.03)
- 「がっこ」が美味しそうでたまらない(2024.07.23)
コメント
素晴らしいリサーチ、ありがとうございます。
長年のもやもやが一気に晴れました!
投稿: きっしー | 2011年5月31日 19:09
私も、英国の経験では、スクランブルにせよ、ベイコン・アンド・エッグでも、一体ではなく、別々に出て来ました
ベイコンは、カリカリが原則ですから、一緒にしてしまうと、水分を吸ってカリカリにならない
投稿: alex99 | 2011年5月31日 20:08
スティーヴン・キングの「スタンド・バイ・ミー」に、
“ベーコン添えの目玉焼き”という訳文がありました。
主人公の友人が森の中で「まともな朝食」を想起するシーンなので
比較的一般的な、アメリカでの「卵とベーコンの食い方」
なんじゃないかと思います。
原文を読んだことがないので(読めないので)憶測ですが、
やはり「bacon and egg」なんじゃないかと、
こちらの記事を読んで思いました。
投稿: S太郎 | 2011年6月 1日 10:11
english speaking world での典型的な朝食を調べてみたら
イングランド・アイルランド・北アイルランド・スコットランド・ウェールズ・アメリカ
すべて、ベーコンはフライドエッグに添えてありました
ただし、GOOGLE UK で BACON AND EGGS のレシピとして最初に出てくるものでは、フライドエッグをカリカリ(crisp)にしたものの「上に置く」と書いてあります
したがって、どちらもありのようですが、サンプル例の多さからして、本来は「添える」のが本当だろうと思います
ベーコンは「カリカリ(crisp)であるべきですから、水分を吸わないように添える方式が本来か?と
投稿: alex99 | 2011年6月 1日 12:25
きっしー さん:
お役に立てて幸いです。
投稿: tak | 2011年6月 1日 22:58
S太郎 さん:
多分、"bacon and egg" のことでしょうね。
訳者が日本式の「ベーコンエッグ」と思われたくなくて、ちょっとこだわってみたのかも。
投稿: tak | 2011年6月 1日 23:00
alex さん:
>ベイコンは、カリカリが原則ですから、一緒にしてしまうと、水分を吸ってカリカリにならない
そうですね。
あっちの人たちは何でもカリカリが好きみたいですね。
(トーストも)
>ただし、GOOGLE UK で BACON AND EGGS のレシピとして最初に出てくるものでは、フライドエッグをカリカリ(crisp)にしたものの「上に置く」と書いてあります
"Serve with poached or fried eggs laid on top of the bacon" というくだりではないですか?
これは、私もあたってみたところです。
http://recipes.lovetoknow.com/wiki/Bacon_And_Eggs_Recipe
これは多分、最初にベーコンをカリカリに炒めて皿に移し、その次に目玉焼きを作って、ベーコンの上に載せて "serve" するということじゃないでしょうかね。
ということは、「一体型」 ではないということですよね。
投稿: tak | 2011年6月 1日 23:09
ちょっと古い記事ですがコメントしちゃいます。(takさんを今日発見したので...)
細かいこだわりに感激です。 この問題をここまで掘り下げたのはこのページだけではないかと思います。 私は米国生活25年ほどで「ベーコンエッグ」とか「ハムエッグ」とかもう何十年も耳にしていない上に、私の母はそういうものをあまり作らなかったので日本式の作り方にはかなり疎いです。 とは言って別に米国式の専門家という訳ではありませんが。
地方差がかなりあるので「アメリカでは」という表現はあまり好きではないのですが、個人的に知る限りでは目玉焼きをあとで載せるというのさえ違和感があります。 だって食べにくそうだし、はっきり言って見たことありません。
それにしても、S太郎さんよくそんな細かいこと覚えていらっしゃいましたね。
投稿: めぐみ | 2011年7月 6日 09:57
めぐみ さん:
現場からのコメント、ありがとうございます (^o^)
>地方差がかなりあるので「アメリカでは」という表現はあまり好きではないのですが、個人的に知る限りでは目玉焼きをあとで載せるというのさえ違和感があります。 だって食べにくそうだし、はっきり言って見たことありません。
確かに、食べにくいですよね。
日本ではどうしてこのスタイルが一般化したんだろう。この問題の方に興味が出てきましたが、昔の専門的文献をあたりまくらなきゃいけないでしょうから、個人的に調べるのは到底無理です。
誰か専門家の方が知らないでしょうかねえ。
投稿: tak | 2011年7月 6日 11:43