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2011年5月25日

風評被害とは一線を画して

知人の I さんが最近ヨーロッパに行って帰国するとき、エール・フランスの飛行機に乗ったところ、搭乗した途端に 「この便は都合により成田到着が 1時間半遅れる」 というアナウンスがあったという。離陸が遅れるのかと思ったが、そういうわけでもなく、飛行機は定刻に出発した。そして日本に近づいてからの航路が遠回りになったのだそうだ。

普通、ヨーロッパからの便は日本の北の方から成田に接近して着陸する。しかしその便は、日本に近づいてから成田よりずっと西の方に進路を取り、名古屋の上空を通過して成田に向かうという遠回りをしたのだそうだ。機内アナウンスでは原発事故や放射能への言及は一切なかったが、福島上空を避けたのは露骨なまでに明白だったという。

試しに「成田/福島上空/避ける」の 3語でググってみてわかったのだが、国際便が成田に着陸する際にわざわざ遠回りをするのは、エール・フランスに限った話ではないようだ。さらに、日本人でも成田から離陸して福島上空を通過するのを避けるために、韓国のインチョン経由で米国やヨーロッパに向かうルートを選ぶ人が少なからずいるようだ。

これって、典型的な風評被害じゃあるまいか。福島第一原発から漏洩した放射性物質は比重が重いから、そんなに上空まで大量に拡散するわけではなかろう。それに放射線そのものは距離が長くなればなるほど弱まるから、上空ではほとんど問題にならない。むしろ上空にいる時間が長引くだけ宇宙線に含まれる放射線を長時間被曝することになる。

高度 1万メートルの上空では、宇宙線に含まれる放射能を地上にいる場合の 150倍ぐらい浴びると言われている。福島上空を避けて遠回りすることで逆に被曝量が増えるのだから、ちょっとお笑いぐさだと思うのだが、ヨーロッパでは自ら望んで被曝量の多い仕事についた飛行機の乗務員たちまで、こんなに妙な具合にナーバスになっているわけだ。

さて、航空路線となる高度 1万メートルほどになると宇宙線が強くなるから話は別だが、日常的な話としては、地上から漏洩した放射性物質は比重が重いから、高度が高くなるほど放射線測定値は下がる。大人と子どもの身長差だけでも、子どもにとっての影響が大人よりずっと大きくなるというぐらいのものだ。

それなのに、昨日の記事へのきっしーさんのコメントからのリンク(参照)で、文科省の発表する各都道府県の「調査結果」が、案外いい加減なものであるということがわかった。リンク先の記事によると、東京都と千葉県の測定値は、地表からかなり高いところで測られているようなのである。

たとえば、東京都の場合、新宿区百人町にある「東京都健康安全研究センター」の屋上に設置されたモニタリングポストによって計測している。地表からの距離はおよそ18m。千葉県は市原市岩崎西にある「千葉県環境研究センター」の地上7mの地点にモニタリングポストを設置している。

この記事によると国土交通省政務官の小泉俊明代議士(茨城県選出)が独自に都心の溜池交差点で地上 100cm の高さで測定してみたところ、文科省の発表数値より 2倍も高い値が計測されたのだそうだ。

群馬県立県民健康科学大学診療放射線学部准教授の倉石政彦氏は、「いったい誰が、地上 18mの屋外で生活しているのか。鳥ぐらいのもので、鳥の被曝量を調査しても仕方がないでしょう」とコメントしておられる。

小泉氏によると、茨城県の南部の 9市町村でも、文科省発表の 3~5倍の値が出たという。文科省の数字は県中央部の水戸市での計測結果だから、福島からより遠い県南部でそんなに高い数字が出たということは、公式発表数値があまり当てにならないということを意味するだろう。

国際便が福島上空を避けて飛行するというのはかなりお笑いぐさだが、地上で生活する我々は、状況が当初の発表よりかなり深刻なものになってきていることを意識した方がいいだろう。なにしろ、メルトダウンは多くの人が推測していたが、メルトスルーまではあまり想定されていなかった。

放射性物質の漏洩はだんだん収まっていくだろうと期待していたのだが、こうなると、むしろ徐々に大きくなっていくことも覚悟しなければならない。そうでなくとも、地表での蓄積はそんなに急には解決しない。だんだん収まるのならあまりナーバスになる必要はないが、拡大が懸念されるとなると、とくに子どもの生活環境には気を付けるに越したことはない。

これは、妙な風評被害とは一線を画した話である。

 

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コメント

新宿のモニタリングポストの件、こちらをご覧ください。

> ◆ 空間放射線量の測定について
> http://ftp.jaist.ac.jp/pub/emergency/monitoring.tokyo-eiken.go.jp/monitoring/sokutei/sokutei.html

> ryugo hayano | hayano
>【新宿百人町の放射線量は変じゃない】都内各地の測定結果を同じスケールで比較.百人町はむしろ高め.測定は屋上でも(平らで広ければ)OK.異なる測定地点の比較には,測定器の校正が重要.
> http://lockerz.com/s/95532616

投稿: luckdragon2009 | 2011年5月25日 20:28

一応、こういう参考意見もどうぞ。

> http://topsy.com/twitter.com/nobukawai/status/72973564541796352?allow_lang=ja
///
同じ衛星に搭載しても、シンチレーション検出器と比例計数管の感度を10%の精度で較正するには相当注意深い作業が必要。そんなセンスが染みこんでいるX線天文屋が、シンチレータとガイガーで測って線量が2倍違うなどと聞くと、よく合っているなと思ってしまう。
///

投稿: luckdragon2009 | 2011年5月25日 21:21

週刊現代も出ていたので、これもご覧ください。
冷静に分析する、というのは非常に難しい事なんです。(過小評価しろと言っている訳ではないので、念のため)

> 週刊誌の原発報道とどうつき合うか 佐野和美
> http://synodos.livedoor.biz/archives/1764205.html

投稿: luckdragon2009 | 2011年5月25日 21:58

luckdragon2009 さん:

情報提供、ありがとうございます。

地上から 18m も高いところでも、空から雨に混じって落ちてくるものならば、平らで広い面積があれば条件は地上と変わらないということですね。

ただ、屋上だけに放射性物質は雨水のドレインと風によってより低いところに落下するという懸念は払拭されないとは思いますが、そのあたりはどうなるんでしょう?

(何しろ文系なので、その辺のところはよくわかっていません。シンチレーション云々も、ざっと調べてはみましたが、よく理解できたというわけではありません。恐縮です)

佐野和美さんの記事は、さすがに読みやすかったです。ただ、メディアとどう付き合うかはよくわかったものの、そのメディアの記者自身がなかなかお粗末だったりするようなので、こちらとしても勉強する必要がありますね。

いずれにしても、収束するのは当初の楽観的見通しよりはずいぶん先のことになるだろうというのは、確実だと理解しています。

私の友人の原発のエキスパートも、当初は最悪のシナリオ(原子炉の爆発)まであるかもしれないと、覚悟したようですが、それは早期の段階で回避されたと認識していたようで、あとは収束させる作業が延々と続くものと説明してくれていました。

(当ブログの 3月 21日付)
https://tak-shonai.cocolog-nifty.com/crack/2011/03/post-59fa.html

今思うと彼は、メルトダウンまではあったかもしれないと思っていたようですが、その先のメルトスルーまではあまり想定していなかったのではないかと思います。

ということは、放射性物質の拡散は当初の楽観的見込みよりも長びくようで、つまり蓄積も進むものと覚悟した方がいいと思っている次第です。

文科省発表のデータも、個別の数字そのものより、時間軸に沿った推移に注目する方がいいという気がします。

投稿: tak | 2011年5月26日 16:35

出てくる情報が端的すぎて困りますね。
また、それに対してどう行動したら良いかもわかりません。

私は武田先生のページを読んでました。
http://takedanet.com/

煽り過ぎの意見もありますが、心配性のお父さんの意見と見ればいいですね。

投稿: vagari | 2011年5月26日 23:05

vagari さん:

>出てくる情報が端的すぎて困りますね。

同感です。自分もその端くれかもしれませんが、そうならないように気を付けているつもりだけはあります。

昨日 Twitter で

反原発派も原発肯定派も、それぞれ自分に都合のいいエクストリームを語る傾向がある。このままでは「ガン発病が爆発的に増える」とか、原発で死人は出てないのだから「ユッケより安全」だとか。もう少しクールな議論ができないものか。

と tweet しました。

天に向かって唾を吐いたのでなければいいと思いながら。

投稿: tak | 2011年5月27日 01:36

まあ、さらにここら辺を読むと。
> http://viking-neurosci.sakura.ne.jp/blog-wp/?p=5773#more-5773

まあ、結構ややこしいんですが。
基本は従来の二倍の値くらいで、若干高めながらもゆっくりと低下中みたいな感じでしょうかね。

とはいえ、低くはないので。
なお、最初のピークは 3/21 ごろだったようですね。

ちなみに、昔から山口県あたりは若干高めなんですよ。(ウラン鉱脈あるあたり、かなり広域。)

投稿: luckdragon2009 | 2011年5月29日 21:50

luckdragon2009 さん:

まあ、個別の細かいことは言いだしたらきりがなくてよくわからないので、とりあえずは時系列的変化に注目したいと思います。

つまり、よくなりつつあるのか、悪くなりつつあるのか。

投稿: tak | 2011年5月30日 00:17

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