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2011年6月22日

英国統一サッカー・チームという幻想

今を去ること 20年前の 1991年に、ラグビーのワールドカップがイングランドで開催された。その開催期間中、私が当時勤務していた外資系の団体で、英国から首脳を招いてアジア地域での重要会議が開催されていた。

来日した首脳は全員イングランド人で、ラグビーの結果が気になってしょうがないみたいだった。ところが何しろ、当時はインターネットも普及しておらず、英語の情報が決定的に不足していたので、試合結果を知るのもままならず、じりじりしている様子だった。

それで私は、日本の新聞やテレビで報道されるニュースを英語に翻訳して彼らに提供してあげて、大変感謝された。ただ最後にはオーストラリアが優勝してイングランドは 2位に終わり、英国人首脳はとても複雑な表情をしていた。その団体はウール関連の団体で、オーストラリアが最大のスポンサー国だったもので。

ちなみにこの大会では、ニュージーランドが 3位で、スコットランドが 4位だった。私は夕食の席で、イングランド人の首脳に非常にぶしつけな質問をした。「どうしてあなたたちは、United Great Britain Team(統一英国チーム)を作って参加しないのですか? それが実現すれば、優勝できる可能性がとても高まるのに」

この質問に、彼らは笑うばかりで答えてくれなかった。まともに答えるのもナンセンスな愚問と思っているようだった。イングランド人としては、たとえほかの 3国と統一チームを作って優勝したとしても、心から喜べるはずがないじゃないかと言いたいみたいだった。

この時私は、英国というのはイングランドとスコットランドとウェールズと北アイルランドという 4つの「国」が手を結んだだけの「連合王国」なのだと、しみじみ理解した。同じ島国でも、日本とはわけが違うのだ。

ところが今日、イギリスオリンピック委員会(BOC)が、来年夏のロンドンオリンピックに英国統一サッカーチームを出場させると発表した。ラグビーとサッカーはちょっとわけが違うが、大ニュースには違いない。1960年のローマオリンピック以来、52年ぶりのことになるという。

サッカーのワールドカップでは、英国からはイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの「4カ国のナショナルチーム」が欧州予選に参加し、イングランドが常連で本番まで勝ち残る。だが、オリンピックでは「国」単位の参加という規定があって、連合王国を構成する「4カ国」は、オリンピックの認める「国」ではないということのようなのだ。

このあたりがとても面倒くさい。それで、自国(イングランド)のロンドンで開催される来年のオリンピックには、ぜひ統一英国チームで出場したいと、イングランドの連中は思ったようなのである。ところが、他の 3カ国は、そんなことはちっとも思っていないというところが、また面倒くささを増幅させている。

BOC は先走って発表してしまったが、3カ国の協会は当然ながら反発していて、統一チーム結成には、全然協力しそうにない雲行きである。FA としては、他の 3カ国の協会の協力がなくても、個々の選手を一本釣りで獲得したいぐらいに思っているのかもしれないが、そんな誘いに乗った選手は、以後怖くて地元に帰れないかもしれない。

ラグビー・ファンの紳士は、ぶしつけな質問にも笑ってはぐらかすだけだったが、サッカー・ファンの庶民たちは、かなりぶち切れてしまっているようなのである。

 

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コメント

IOCは「国」、FIFAは「国と地域」、という単位でしたか。
それでいてFIFA傘下のUEFA U21欧州選手権が、オリンピックサッカーの欧州予選を兼ねているようで、そこがまたややこしい所です。
今回もし統一チームが実現しても、事実上イングランドから選抜されるか、「英国代表」をイングランド代表に委託するか、どちらかなのでしょうね(同じような気もしますが)。
逆に4カ国の協会から「平等に」選手を選抜などしたら、それこそ旧ユーゴ代表の再現になってしまうような(そうなったら今度は代表監督が心配です)。
またオリンピックの開催は都市単位ですが、開催都市がロンドンではなく、例えば「グラスゴーオリンピック」とかだったら、また違った議論になったかもしれません。どんな英国代表像が描かれたんでしょう。

投稿: S太郎 | 2011年6月22日 19:22

S太郎 さん:

>IOCは「国」、FIFAは「国と地域」、という単位でしたか。

この 「国」 というもののコンセプトがかなり曲者のようです。

「国家観」 がこんなにシンプルなのは、日本ぐらいのものではないかと思っています。

英語でも、land, country, nation, state などなど、それぞれちょっとずつ意味合いが違い、それでいて、案外漠然としています。

英国の場合は、4つの nations が United Kingdom を構成しているということで、じゃあ、その United Kingdom は nation じゃないのかといえば、まあ、kingdom なんでしょうね ^^;)

>逆に4カ国の協会から「平等に」選手を選抜などしたら、それこそ旧ユーゴ代表の再現になってしまうような(そうなったら今度は代表監督が心配です)。

本当ですね。

>開催都市がロンドンではなく、例えば「グラスゴーオリンピック」とかだったら、また違った議論になったかもしれません。

一度、グラスゴーとかエジンバラとかでオリンピックを開催させたいものですね。

投稿: tak | 2011年6月22日 19:54

「オリンピック開催」イコール産業振興という図式を勝手に描いておりますが、如何せん、勉強不足でエゲレス帝国様の振興させたい産業が、わかりません。

フィッシュ&チップスのグローバル展開も、今更感が拭えないし…。


東京は、おこしやバナナやひよこやたまごで“振興”ですかね。(秋葉原はあえて黙殺)

明日東京出張なりよ。

投稿: 乙痴庵 | 2011年6月22日 23:21

この4ヶ国は宿敵同士なんです
イングランドはアングロサクソン
その他はケルト民族
侵入してきたアングロサクソン(イングランド)がそれ以外を併合して連合王国としました
感情的なケルトと酒を飲むと、イングランドへの恨みむき出し(笑)
彼ら同士の試合は the international match ですからね
日本人と併合された琉球民族
日本人と併合された朝鮮人
そんなもんです

投稿: alex99 | 2011年6月23日 04:27

乙痴庵 さん:

>エゲレス帝国様の振興させたい産業が、わかりません。

株と為替と王室グッズぐらいしかないんじゃないですか?

スコッチはイングランドのものじゃないし。

東京出張、蒸し暑い中ご苦労様です。

投稿: tak | 2011年6月23日 10:08

alex さん:

まさに、UK は 4カ国なんですね。

地図で見ても、イングランドはいいとこ取りで、他は暮らしにくい土地にしか見えないし。

ケルトとしては、そりゃあ、むっときますね。

投稿: tak | 2011年6月23日 10:23

スコットランドに関してはこういった話もあります。

http://blog.goo.ne.jp/qwerty765/e/649fe4b82b47e262d02d4007fe4db022
スコットランドSNP党(独立派)が過半数獲得で
分離独立に関する住民投票の実施へ。

感情的には独立したいが、現実的には難しいといった所でしょうか。

投稿: リュウT | 2011年6月23日 13:16

>地図で見ても、イングランドはいいとこ取りで、他は暮らしにくい土地にしか見えないし。

日本でも、弥生人が日本列島の中央部を占領して、縄文人を北の北海道(アイヌ民族)と南の琉球(琉球民族)に追いやった様なものですね

アングロサクソンにウエールズから対岸のフランスに追い落とされたケルト族(ブリトン族)はそこでブルターニュ地方(ブリトンの土地という意味)に住み、もと居た英国をグレイト・ブリトンと称した
ケルト語系のブルターニュ語と言う言葉もあります

投稿: alex99 | 2011年6月23日 15:46

リュウT さん:

現実に、なかなか複雑な感情があるんですね。

投稿: tak | 2011年6月23日 17:30

alex さん:

>アングロサクソンにウエールズから対岸のフランスに追い落とされたケルト族(ブリトン族)はそこでブルターニュ地方(ブリトンの土地という意味)に住み、もと居た英国をグレイト・ブリトンと称した

というよりは、グレートブリテンから来たケルト族が住むようになったので、ブルターニュと呼ばれるようになったと、私は理解していますが。

投稿: tak | 2011年6月23日 17:38

そのtak-shonai さんの理解のソースは何ですか?
ウィキでも
ブリトン人(Britons)は前1世紀頃からローマ共和国、ローマ帝国、アングロ・サクソン人の相次ぐ侵攻を受けて、その一部がフランスに逃れる。フランスではブリトン人の住むようになった地域をブルターニュ(Bretagne; ブリタニアのフランス語形)と呼び、本来のブリタニアをグランド・ブルターニュ(Grande-Bretagne; 大ブリタニア)と呼んで区別した。これが英語に輸入され、英訳された形のグレートブリテンという地名が定着する。

と記述されています
英国は長い間仏領でしたからね

投稿: alex99 | 2011年6月23日 21:44

alex さん:

えぇと、理解のソースというよりは、単なる思い込みです ^^;

いずれにしても、ブリトン人が来て住み着いたからブルターニュと呼ぶようになったという順序関係は、確定ですね。

(追われたブリトン人がブルターニュと言われていた地域に住み着いたという順序ではない)

一方、Great Britain という英語が仏語からの直訳だっというのは、知りませんでした。御教授ありがとうございます。

投稿: tak | 2011年6月24日 00:04

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