トヨタ流マーケティングの転機
MSN 産経 ニュースの 「トヨタ、SNS ゲームのアイデア募集 クルマ離れ阻止に活用」 というニュースが、どうもよくわからない。見出しだけではわからないから本文をみると、こんな具合だ。
トヨタ自動車の子会社「トヨタマーケティングジャパン」(TMJ)は 3日、若者のクルマ離れに歯止めをかけるため、会員制交流サイト SNS 向けアプリなどを使ったアイデアを一般から募集すると発表した。
車と何らかの関係性を持たせたゲームなどの企画を PC 部門・スマートフォン部門・ケータイ部門で募集し、それぞれ表彰する。
ますますわからない。新聞業界では、記者自身があまりよくわかっていないことを、プレスリリース(報道用資料)の「てにをは」だけ変えて、一見もっともらしそうな記事にすることを「ヨコタテ」なんていうことがある。プレスリリースは大抵横書きなので、それを新聞記事用に縦書きにするだけという意味だ。
ところがこの件に関しては、記者だけでなく発表した TMJ 側としても、あまりよくわかっていないんじゃないかという気がする。なんだかよくわからないけど、とにかくこれまでのやり方じゃダメだから、目新しいことを一発かましてみれば、何か新しいことが見えてくるかもしれないという程度のプロジェクトのような気がする。
TMJ の社長は「アプリの提供で直接的に車を保有する人口が増えるとは期待していないが、車業界が気づかなかった発想、車の使い方が出てくれば、開発などに役立てたい」と言っているらしい。このあたりからして、従来のモノ作りやマーケティングにおけるトヨタ型発想の完全な行き詰まりが露呈しているとしか思われない。
トヨタに限らず日本のメーカーは大衆向けのプライス・レンジで、付加価値満載のオーバースペック商品を提供することを得意としてきた。前世紀末までは、この戦略が功を奏して「世界に冠たる日本の工業技術」なんて言われたが、世紀が変わる頃になってパラダイム・シフトが生じた。
それまで日本が得意としてきた「大衆向けのオーバースペック商品」というレンジにズレが生じてきて、どうやら日本のメーカーの商品はビミョーに「大衆向け」じゃなくなってしまったのだ。
じゃあ、富裕層向けの高級品なのかといえば、そういうわけでもない。どうにも中途半端なのである。ちょっと前までの日本は、この大金持ちでも貧乏でもない「中途半端な消費者」の層が分厚くて、日本型中途半端商品の拡大を支えていたのだが、バブル崩壊以後、ようやく日本も世界標準並に、金持ちと貧乏人のギャップが顕在化してきた。
ということは、これまで分厚かった「中途半端な消費者」の層がいきなり薄くなってしまって、とくにトヨタみたいな中途半端向けのマーケティングをしてきたメーカーは、どっちを向いて仕事していいのかわからなくなってしまっているのだと思う。それで、本業の大衆向けも、新たなチャレンジのセレブ向け「レクサス」も、両方思うに任せなくなっている。
今となって思えば、トヨタは「レクサス」なんて始めるよりも、車の世界のユニクロというイメージのビジネスを始めればよかったのだ。トヨタならそれができたはずなのに、つい間違えて身分不相応のことをやってしまったのである。
今回のプロジェクトで、その「車の世界のユニクロ」的アイデアが出ることを期待する。ただ、トヨタの人たちにそれが理解できるかなあ。「天下のトヨタが、そんなチャチなことやれるか」なんて思ってしまったら、もう永遠に浮かばれないんじゃなかろうか。
| 固定リンク
「マーケティング・仕事」カテゴリの記事
- 実際の成果より「忙しそうに見せる」ことが重要な日本(2023.08.17)
- 最近のモロゾフの包装紙、唐草模様の風呂敷みたい(2023.08.10)
- "X" になった Twitter には未練がないんだが(2023.07.27)
- 「モスバーガー」って「苔バーガー」じゃないんだね(2023.07.16)
- 「就活」なんて、したことないし(2023.07.05)
コメント
海外では、例えばテレビでもソニーは、サムスンに完全に負けていますね
機能てんこ盛りは、凝り性な日本人固有の好み
それを海外でもやるモンだから価格競争に勝てない
新興国の中流層の現実的な生活感覚がわかっていない
独善的で、見下し視線の製品作り(笑)
投稿: alex99 | 2011年6月15日 02:31
alex さん:
最近の日本のコンシューマー・グッズは、使いもしない機能ばかり増えて。魅力に欠けますね。
しかも、機能が一つ増えるたびに使いにくくなる。
投稿: tak | 2011年6月15日 13:12
50年前は、トヨタはクラウンとコロナだけ、その後パブリカ。日産はセドリック(古い!)とブルーバード、その後サニー。
今はとても覚えきれないほどの車種数で、隙間を全て埋めようとする戦略なんでしょうが、あまりにも多すぎる。車種数を今の1/3にすれば生産者と消費者でコストダウンによる利益をを分かち合えると思うのですが。
欧州メーカーはそこのところは実にうまくやっていると思います。日本メーカーには以外に知恵がない。
投稿: ハマッコー | 2011年6月15日 21:45
ハマッコー さん:
>今はとても覚えきれないほどの車種数で、隙間を全て埋めようとする戦略なんでしょうが、あまりにも多すぎる。
他の国なら、国内メーカーで埋めきれない隙間は、輸入車が参入するところなんでしょうけど、日本の場合は、そうならないところがスゴイと言えばスゴイです。
それで輸入車はすべて (本来は大衆車というものまで含めて) 高級車という扱いになって、不当に高いですね。
そういう市場なので、高級車としては扱いようのない韓国車だけは売れない (^o^)
考えてみると、日本の自動車市場はかなり特殊ですね。
投稿: tak | 2011年6月16日 00:33