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2011年8月 5日

SMAP がハモらないのは その2

今年初めに「SMAP がハモらないのは」という記事を書いたところ、まこりんさんからとても興味深いレスをいただいて、「ああ、なるほど」 と思い、そのうちそれについて書こうと思っていたのだが、つい忘れてしまっていた。半年以上も経って今さらながらだが、書こうと思う。

まこりんさんからのご指摘は、日本の、ポップス・グループがハモりを重視せず、コマ切れ代わりばんこにソロをとって、ユニゾンのサビで締めるみたいなスタイルになっているのは、テレビというメディアと強い関係があるということだった。ちょっと引用してみよう。

とはいえ、グループのソロ→ユニゾンという構成は、それがテレビで歌われる曲だ、ということも考慮に入れたほうがいいかもしれません。特にジャニーズ系なんかの場合。
各ソロパート → 寄りでメンバー各人のワンショット、ユニゾン → 遠景でメンバー全員のショット、という絵的な作りやすさから採用される面もあるんじゃないかな、と。

なるほど、テレビにおける「絵的な作りやすさ」であったのか。

そう言われてみれば、日本の、いや、今となっては東アジアのポップス・グループの歌のテレビ映りは、既にかなり「様式化」されているようなのだ。まこりんさんのおっしゃる通り、各ソロパートは各メンバーのアップで、ユニゾンになるとカメラを引いてメンバー全員のショットにするというスタイルである。

ソロのパートはアップになるメンバーが次々に入れ替わるので、かなりめまぐるしい。これがまあ、いわばエキサイティングな効果となって、DNA的に(?)ハモりが苦手な東アジア人にとって、魅力的な演出補完ともいえる状態になっている。

さらにこれによって、グループの各メンバーのプロモーションもほぼ公平にできるということもある。AKB 48 の「総選挙」なんていうのがあるように、単にグループ全体として売るよりも、各メンバーを競合させて売る方がいい。なるほど、コマ切れソロというのは、効率的なビジネス・モデルである。

また、最近のテレビはワイド画面が多いから、遠景でメンバー全員のショットを無理なくフィーチャーできるというのも、ちょっとした強みになる。そんなわけで、アイドル・グループというのはテレビにとっては使いやすい素材なんだろう。

そういえば、モー娘のカメラワークをフランス人が絶賛して説明する動画が YouTube にある。メンバーがソロを取る順番とそのメンバーが立つ位置とをあらかじめ熟知して、交代で追い続けるカメラマンのチームワークがすごいというのである。

(参照) http://www.youtube.com/watch?v=D4EKdNs9A2s&feature=player_embedded

これをみると、あのスタイルは東アジアのポップス・グループが、振り付け、そしてテレビカメラの緻密な職人芸とコラボして築き上げた特殊技術だったのだとわかる。ここまで完成されたスタイルになってしまうと、なかなか変えられるものではない。一方向への進化のベクトルが行き過ぎてもなかなか止まらないのは、経験則からも知られる。

ただ、このスタイルにおいては「音楽性」とくに「ハモり」の要素が極端に軽視されてしまう。それが「グループで歌ったら、ハモるのが当たり前」というか「グループで歌うのにハモらないのは、損してる」という感性で接した時の違和感の根元になっている。とくに画像を伴わないラジオや CD で聞くと、学芸会レベルにも及ばない。

それにこのスタイルだと、パフォーマンスをがちがちに固定してしまわなければならない。メンバーがそれぞれの感性でフリーに即興をまじえるなんてことは御法度だ。そんなことをしたら、テレビの絵が壊れてしまう。つまり、かなり不自由なスタイルといえる。音より絵を重視する結果なんだろうけど。

とまあ、そんなわけであれは、音楽パフォーマンスをするメンバー自身の音楽的センスはあまり要求されず、振り付け通りのダンスと、それを支える体力、そしてユニゾンで目立ちすぎない中途半端な歌唱力の方が優先的に要求されるという、極めて特殊なスタイルなんだとわかる。

音楽なのに一定以上の音楽的センスが邪魔になるという点に関しては、アイドル路線においては昔からの伝統でもある。まともな音楽センスがあったら、あんなようなのをこなすばかりでは、不満が高じてしょうがないだろう。

先日、何とかいう K ポップスの男の子たちのグループが「得意の」アカペラ・コーラスを生で披露するのを、帰宅途中のカーラジオで聞いたが、あまりにもメロメロで、それを苦し紛れにほめる日本人パーソナリティがかわいそうになった。東アジア人は、軽はずみにはハモらない方がいいようなのだ。

つまるところ、SMAP にハモりなんか要求してはいけないと、しみじみ思った。あれは、あれでいいのだ。きわめて特殊なスタイルとして、放っておけばいいのだ。

 

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音楽」カテゴリの記事

コメント

どもども。
多分、自然にハモれる日本人ってのは、60~70年代に青春を送った人限定なんじゃないかな―って思います。洋楽が自然と入ってくる環境で、かつ、友達が集まると自然と誰かがギター持ってきてっていう、その二つが重なるのってその世代限定な感じですし。たしかにあの時代の邦楽フォークってハモり、そこそこ多いですしね。
 私の世代なんかは完全に90年代のカラオケボックス全盛で、いわゆる個人個人が好きな曲勝手に歌うっていうノリで。人が歌っている時はカタログ見て曲選ぶ時間ですから、ハモる暇なんてないわけですよ。つか、唐突にハモり入れたりする人はちょっとうざい人?扱いだったりしますし。
 でも、たまたまハモりありの歌とか、カラオケで歌うと味気ないんですよね。上いっても下いっても、なんか物足りない感じ。機械でハモリ機能とかあったりしますけど、なんか違うって感じですし。
 テレビ演出というのもひとつですが、カラオケボックス需要にあわせてってのも昨今のJ-POPに関してはひとつ要素としてあんだろうなーとも思いますです。

投稿: まこりん | 2011年8月 5日 23:48

まこりん さん:

>多分、自然にハモれる日本人ってのは、60~70年代に青春を送った人限定なんじゃないかな―って思います。

私はまさにそれですから、自然に三度上とかでハモっちゃう。
ハモらずにはいられないというか、ハモらない方が不自然かつ不思議です。

>テレビ演出というのもひとつですが、カラオケボックス需要にあわせてってのも昨今のJ-POPに関してはひとつ要素としてあんだろうなーとも思いますです。

カラオケ需要に関しては、今年 1月の 「その 1」 で触れてますから、テレビ映りとの合わせ技なんでしょうね。

投稿: tak | 2011年8月 6日 01:45

おはようございます~
驚きました。ハモリ年代なんかが存在するんですかぁ~
それで、納得しました。
実は、私も皆さんと一緒にお炊事などする機会があった時、
じゃあ、歌うたいながらしましょう~なんて言って、
「夏は来ぬ」とか、ハモッていた時代がありましたよ。

はは~~
そういうことだったんですね。
ありがとうございました。
しかし、
tak-shonaiさんって、いろんな分野にひとつひとつ
考えがおありなんですね。マルチな脳ですねぇ。
参りました。

投稿: tokiko68 | 2011年8月 7日 08:35

tokiko68 さん:

>実は、私も皆さんと一緒にお炊事などする機会があった時、
>じゃあ、歌うたいながらしましょう~なんて言って、
>「夏は来ぬ」とか、ハモッていた時代がありましたよ。

うわあ、すごい!
昭和のお嬢様風。

あたくしの萌えツボにドンぴしゃではまってらしてよ (^o^)

投稿: tak | 2011年8月 7日 15:42

あのそのぉ~

そんなの私の年代では
普通ですけど・・

ハモルって、また違った世代では
違うものなんですね?
ふ~む。


ところで
万葉の時代の歌は知りません。
たまに、
お正月ごろ、
皇居の、御題の歌会で、詠む人のへんちくりんな
変わった抑揚が気になりますね。
(また、本道を反れまして失礼いたしました。)


投稿: tokiko68 | 2011年8月 7日 18:20

tokiko68 さん:

>そんなの私の年代では
>普通ですけど・・

そこがすごいんです。
「普通」 と言い放てるのが最強です (^o^)

>たまに、
>お正月ごろ、
>皇居の、御題の歌会で、詠む人のへんちくりんな
>変わった抑揚が気になりますね。

あれは「歌会始」というものでありまして、歌は披講所役という華族出身の名誉ある役目の人が伝統的な節で朗詠あそばされるのでございます。

もんのすご~~~く古くからの伝統芸能ですので、現代の耳で聞くと、つい笑ってしまいそうになりますが、そこをぐっと我慢して聞くのがよいのであります。

投稿: tak | 2011年8月 7日 23:04

おはようございます~

>そこをぐっと我慢して聞くのがよいのであります。
あっははは
ほんとうに。

で、時々テレビで遭遇するんですが、
違う人がうたうと、また、微妙に抑揚が変化するので、
それもまた、おもしろいですね。


投稿: tokiko68 | 2011年8月 8日 08:22

百人一首の大会の、お題を出される方の詠みも独特ですよね。

 なんか、「きみ~が、ため~、はる~…」の刹那、「バシッ!」と決まっちゃった後の、残り24文字程度の朗詠が、ちょっと間の抜けた雰囲気と感じてしまう、真剣勝負とお歌の世界がまだ身体に入ってない、未熟者です。

投稿: 乙痴庵 | 2011年8月 8日 19:15

tokiko68 さん:

>違う人がうたうと、また、微妙に抑揚が変化するので、
>それもまた、おもしろいですね。

和歌の類の朗唱は、十人十色ですね。
みな微妙に違うと思います。

楽譜も何もないので、そんなものなのかもしれません。


投稿: tak | 2011年8月 8日 21:42

乙痴庵 さん:

>なんか、「きみ~が、ため~、はる~…」の刹那、「バシッ!」と決まっちゃった後の、残り24文字程度の朗詠が、ちょっと間の抜けた雰囲気と感じてしまう、真剣勝負とお歌の世界がまだ身体に入ってない、未熟者です。

あのギャップを、とくになんにもしないで、埋めてしまう間合い。
(あるいは、埋めもせずに放っておく度量 ^^;)

すごいなあと思います。

投稿: tak | 2011年8月 8日 21:44

終始アイドルを下に見てる下衆な文章ですね。
いわゆるハモリ世代が何故ハモらないというなら
アイドル世代は何故踊らないとでも言うんじゃないでしょうか。
アイドルはまともな音楽センスがない人がやるものなんて
ロックは不良だって言ってた人たちと同じ偏見に満ちた思考だと思います。

投稿: HZM | 2011年8月17日 03:14

HZM さん:

>終始アイドルを下に見てる下衆な文章ですね。

確かに、恐縮ながら「音楽的」には下に見てます。
しかし、トータルに下に見てるわけではありません。

そこをごっちゃにすると、危険です。

>いわゆるハモリ世代が何故ハモらないというなら
>アイドル世代は何故踊らないとでも言うんじゃないでしょうか。

踊りますよ (^o^)
ロック世代ですから。

投稿: tak | 2011年8月17日 08:17

>そこをごっちゃにすると、危険です。
何がどう危険なんでしょう?
>まともな音楽センスがあったら、あんなようなのをこなすばかりでは、不満が高じてしょうがないだろう。
これは音楽的にではなく人として見下してる表現だと思います。
アイドルはセンスのない人ばかりと決めつけるのは頭悪いと思いませんか?
>あれは、あれでいいのだ。きわめて特殊なスタイルとして、放っておけばいいのだ。
何がどう特殊なんでしょう?アイドルがそういうものだというだけではないでしょうか。
アンパンマンやクレヨンしんちゃんをみて
幼稚なアニメだなあ、ジブリの方が高度だなあと言ってる阿呆のようです。
最終的に放っておけばいいという馬鹿にした表現で締めるのは
音楽性が他の要素に優先するという考えがあるように受け取れます。

>踊りますよ (^o^)
>ロック世代ですから。
例えた真意を理解した上であげあしとってませんか?
あなたがどうとか聞いてるわけじゃないことくらい通じてますよね。
まともに答える気がないならいちいちレスくれなくてもいいんですよ。

音楽的に下ってどういう順位をつけてるんですか?
ロックが1位?クラシックは?演歌は?
カテゴリがどうなってるのかもわかりませんが
主観で上下を決めつけてセンスがあればアイドルはやってられないとか
言ってる下衆な人間だという印象です。

最後に誤解してることを教えてあげますが
アイドルグループでもハモる曲は大抵どこのグループでも持ってます。
音楽的にはどうか知りませんがね。
要求もなにもあなたが無知で存在を知らないだけです。
知った上で技術的なことや芸術性を語るならまだしも
みたことないから音楽センスがないと言う愚か者ですよあなたは。
言葉の誤用などはよく調べてるのにこの件に関してはあまりにも
思い込みで決めつけているその差に怒りを覚えて書き込んだ次第です。

投稿: HZM | 2011年8月17日 09:09

HZM さん:

>>そこをごっちゃにすると、危険です。
>何がどう危険なんでしょう?

こんな風に危険なんです。

>>まともな音楽センスがあったら、あんなようなのをこなすばかりでは、不満が高じてしょうがないだろう。
>これは音楽的にではなく人として見下してる表現だと思います。

ほら、ごっちゃにすると危険でしょう。
人として見下すかどうかというのは、また別の問題です。
「まともな音楽的センス」が、人格的価値を決定するなんて、あり得ないじゃないですか。

>>あれは、あれでいいのだ。きわめて特殊なスタイルとして、放っておけばいいのだ。
>何がどう特殊なんでしょう?アイドルがそういうものだというだけではないでしょうか。

「アイドルがそういうものだ」ということを、特殊とみるか、普遍的とみるか、まあ、少なくとも普遍的ではないですね。

特殊さについては、本文で触れています。
テレビのマニアックなカメラワークとのコラボで作り上げた要素の多いスタイルということです。

>アンパンマンやクレヨンしんちゃんをみて
>幼稚なアニメだなあ、ジブリの方が高度だなあと言ってる阿呆のようです。

私はそんなこと言わないとだけ言っておきます。

>最終的に放っておけばいいという馬鹿にした表現で締めるのは
>音楽性が他の要素に優先するという考えがあるように受け取れます。

いや、放っておきますよ、音楽性を重視する私なりの視点からは。

ただ、誰でもこの視点を最も優先すべきと強制するつもりはありませんから、放っておくんです。

つまり、積極的に擁護はしないけど、それはそれとして否定しないということです。

>アイドルグループでもハモる曲は大抵どこのグループでも持ってます。

そうでしたか。ご教授ありがとうございます。

私としても、完全にないとは思っていませんでした (ないと証明するのは、私の情報量では不可能なので) が、少なくとも主流ではないと認識していました。

ただ恐縮ながら、あなたが「音楽的にはどうか知りません」という曲を、調べ出してまで聞いてみようとは思いません。悪しからず。

投稿: tak | 2011年8月19日 18:05

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