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2011年8月15日

音楽がヘビーな意味をもてた時代

昨日の朝、山下達郎が TBS ラジオの番組に出て、とてもおもしろいことを言っていた。60年~80年頃のロック・ミュージックが、どうしてあんなにも素敵だったのかというと、それは LP レコードというメディアがあったからだというのである。

LP レコードというのは、片面 22~23分。両方を合わせても 50分弱の時間しか録音できない。これは、人間が一つのことに集中することのできる時間とぴったり重なるというのである。しかも、LP レコードは基本的にステレオ装置の前に座って向かい合って聞くしかない。ウォークマンとか iPod のように、延々と歩きながら聞くなんてわけにいかないのだ。

そしてこの頃、録音技術の飛躍的な進化があった。とても素敵な音を楽しむことができるようになった。こうした要素の合わせ技で、この時代のロック・ミュージックは、時代の先端を行く文化であることができたのだという指摘である。なるほど、それは言えてる。

60年代から80年代にかけて青春時代を過ごした私の世代というのは、音楽に真剣になって向き合ったのである。それ自体が一つのアートとも言えるレコード・ジャケットから LP レコードを拝むように取り出し、そっとレコード・プレーヤーに置いて、慎重に針を乗せる。

こうした一連の儀式ともいえるほどの手続きを経て、スピーカーに向かって座り、流れてくる音を真正面から受け止める。ダンス・ミュージックでも BGM でもない。真剣に向き合って聞く音楽と、私は一緒に育ったのである。

翻って、ウチの娘たちの音楽の聴き方をみていると、全然違う。音楽をかけっ放しなのである。部屋で何かをしながら、車を運転しながら、歩きながら、かけっ放しにしているのだ。求められるのはその場の「ノリ」と「雰囲気」である。私の世代が音楽に求めていた「哲学」みたいなものは、ほとんど問題にされない。

あの頃の音楽は、「哲学」 の発信を要求されていたから、アルバムが一つの単位だったのである。一曲だけでは表現しきれないから、半年に一曲ヒットすればいいというのではなく、アルバムで勝負していたのである。そのための素晴らしいメディアが LP レコードというものだった。

というわけで私は、音楽がとてもヘビーな意味をもった時代に、リアル・タイムで音楽を聴くことができた、とても幸せな世代に属していると思う。はたして今の若い世代は、あの頃のようなヘビーな意味をもつ音楽を、受け止めきれるんだろうか。

まあ、音楽ごときにそんなヘビーな意味なんか求めてないというなら、それはそれでいいんだが。

 

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音楽」カテゴリの記事

コメント


>60年~80年頃のロック・ミュージック

これは、山下達郎やtak-shonai さんの世代で、ロックミュージックという切り口で考察したものでしょうけれど、私の世代でも、50~60年代のオールディーズやモダンジャズでも、同じ事が言えると思います
いや、もっとレコードが高価だったから、その傾向はもっと強かったと思います
同じく、その時代の洋画も同じようなことが言えるかと
三本立ての名画座というものがありましたし

学生の頃、新宿のレコード屋で高価な輸入盤のレコードを注文して、受け取る時はうれしかったものです
米国のジャケットは、固くて厚くて、米国のニオイがしましたし

モダンジャズに関しても、モダンジャズ喫茶で、巨大なスピーカーに向かって何時間も聴いているのが普通でした
クラシックでは、大きな名曲喫茶というものがありました
美人喫茶というのもあり、美人の鑑賞もヘビーな意味を持っていましたが(笑)

投稿: alex99 | 2011年8月15日 13:09

当時のセットステレオは7万円以上でとても買えない。高校生の私はステレオの自作を決意、新聞配達をして得た金を持って秋葉原に行き真空管とスピーカーを購入したものです。結局二年半で完成しました。レコードも二千円以上で、やっと一枚購入しジャケットをしげしげと眺めたものです。当然ステレオにしっかりと向き合って聞いたのは言うまでもありません。

最近は高校生の一日のバイト代でCDラジカセが買えてしまうし、そこにはノイズもワウフラッターもまったくない。
音楽を聴けることのありがたみが全くないんだろうなあ。

そもそも最近の若者(35歳くらいまで)はLPレコードを見たことも操作したこともないらしい。時代が変わっていることを感じる瞬間です。

投稿: ハマッコー | 2011年8月15日 14:42

alex さん:

>これは、山下達郎やtak-shonai さんの世代で、ロックミュージックという切り口で考察したものでしょうけれど、私の世代でも、50~60年代のオールディーズやモダンジャズでも、同じ事が言えると思います

録音技術は60年代後半以後に急速に進歩しましたが、「ありがたみ」という視点からいえば、50~60年代の方が上だったでしょうね。

とにかく、真剣に向き合っていましたよね。

映画に関しても、最近の洋画(ハリウッド映画)の多くは、メガヒット狙いなので、「わかるヤツにはわかるかも」みたいな、ちょっとハイブロウな作りのものは影を潜めました。

とにかくガンガン爆発したりぶっ飛んだりして、モノを考えたことのないヤツがいい加減に興奮できるように、インパクトが強けりゃいいという作りなので、とても真剣に向き合えません。

投稿: tak | 2011年8月15日 14:55

ハマッコー さん:

2年半がかりでステレオセット自作とは、見上げたものです。
恐れ入りました。

投稿: tak | 2011年8月15日 14:58


ハマッコーさん

私も、ステレオが趣味だったもので、それに音楽をちょっとやってたもので、楽器と大型テープレコーダーを持っていたので、ワウとフラッターなんて術語(笑)、懐かしいです
秋葉原に佐藤無線の別館があって、社長が趣味で持っていた、ステレオ機器(外国製の大型スピーカー・プリアンプ・メインアンプ・ターンテーブル・ピックアップ・針)を一杯そろえている鑑賞質があって、無料で各パーツを交換して、私たちにブラインドフォールド・テスト(ブラインドというのは今差別語らしく笑止ですが)をさせてくれました
私は、耳がよくて(笑)、それを当てて自信をつけました
スピーカーでは、タンノイとか、JBLとか、アルテック
アンプではマッキントッシュとか・・・
懐かしい
私は、ステレオをいろいろ変遷しましたが、最後は、プリメインアンプはラックスの真空管のCF-38
チューナーも珍しいラックスの真空管のものでした
スピーカーもタンノイを持っていたのですが、米国に行く時に友達に譲ってしまいました


投稿: alex99 | 2011年8月15日 15:56

alex99さん

alex99さんの年代でタンノイのスピーカー持ってたなんて凄い。あれはスピーカーのロールスロイスですからね。
あれでクラシック音楽聴いたら鳥肌が立ちます。憧れの名機ですね。

二年前に「美空ひばりジャズを歌う LPレコード復刻盤」がコロンビアから出ましたので買いました。LPレコードってわくわく感がありますね。手間がかかるから? 回っているのを見てて楽しいから? CDにはない、音につやと温かみがあるから?
未だにLPレコードから離れられません。

投稿: ハマッコー | 2011年8月15日 16:48

世代の違いと言うより、個人差のような気もしますが……。

いや、世代はともかく、「時代の違い」というのはあるかもしれない。takさん、alex99さん、ハマッコーさんは、最近でも「あの頃」のように真剣に向き合って音楽を聴きますか?

投稿: 山辺響 | 2011年8月15日 18:34

alex さん、ハマッコーさん:

ええと、専門領域が深すぎて、付いていけません ^^;)

私は、60年代からずっと 5~6万円台のセットで通してます。
(自宅で聞く分には、一応まともに聞こえさえすればいいというか、あまり音そのものにはこだわらない方です)

最近では、もっぱら iPhone です。

投稿: tak | 2011年8月15日 19:33

山辺響 さん:

>いや、世代はともかく、「時代の違い」というのはあるかもしれない。

時代ですね。まさに。

それで、この記事のタイトルも 「音楽がヘビーな意味をもてた時代」 というわけです。

世代ということでいえば、その時代にリアルタイムで遭遇することのできた幸運な世代ということになりますね。

>takさん、alex99さん、ハマッコーさんは、最近でも「あの頃」のように真剣に向き合って音楽を聴きますか?

最近は、真剣に向き合うようなタイプの曲がほとんどないような気がしています。

「あの頃」 の曲は、かなり身を入れて聞きますが、iPhone だとつい、仕事をしながら 「ながら聞き」 になってしまいますね。
(もう、何度も何度も何度も聞いているので ^^;)

投稿: tak | 2011年8月15日 19:37

山辺響さん

痛いところをお突きになりますね(笑)
鑑賞については、正直、今は無理です
懐かしいと思ってモダンジャズのCDを買ってみるのですが・・・
学生時代には、モダンジャズ喫茶で何時間も難しい顔をして(笑)聴いたものですが、今は、情けないことに、CD1枚もなかなか聞き終えることが出来ません
雰囲気やステレオ装置のグレードも、多少、関係があるかも知れませんが
たまたま、深夜放送などで聴くと、いいな~と、感慨にふけるのですが、長時間の集中には耐えません(笑)
こ~ゆ~ものは、どうも、青春のホルモンと密接に関係があるようです

ただ、学生時代には思いもつかなかったジャズヴォーカルだけは、老境に入った今、カラオケで楽しんでいるのですが

投稿: alex99 | 2011年8月15日 19:43

山辺響さん

聴き方はあの頃と同じではありません。
1930年代のスウィングジャズは深夜放送で聴くのが一番ですね。心に染みこみます。昔はガンガン鳴らしてたのに。

一方、クラシックのピアノ、バイオリンの曲は聴きこみますね。
楽器の音色の違いまで聞き分けようとして。
ただ以前のように長い曲を最後まで聞くという根気はなくなりました。

投稿: ハマッコー | 2011年8月15日 20:19


私は、上で述べた様に、耳だけは(笑)いいので、モダンジャズだと、楽器の音を聞いただけで、奏者がわかります
特にサックスは、もう、簡単です
もちろん、有名どころだけですが
それなのに、クラシックで、三大テナーの、ホセ・カレーラスとドミンゴの声が、時々、どちらか聞き分けられない時があるのには、ショックを受けています(笑)
秋葉原の佐藤無線では、カートリッジの違いまで、ちゃんと聞き分けたのに(笑)

投稿: alex99 | 2011年8月15日 21:59

僭越ながら申し上げます。
80年代=少年時代(世間に逆らってボーイズジェネレーション)です。

LPレコードとコンパクトディスクの混沌期でした。


兄を持つ仲間からは、「CDはシャリシャリしてる」という受け売りもあり、ずっとそんな気がしていました。

その影響もあって、納戸にレコード再生装置が眠ってます。(ダイヤモンド針らしいです)


1980年代半ばに、日立のローディー(ダブルカセット)で、レコードとカセットとCDとラジオ(ほとんどAM)を、楽しんでいた(勉強そっちのけ)過去です。


おかげ様で、発信源の左右はもちろん、遠近についても、そこそこ対応可能です。
…鳴いてる蝉の位置特定とか。

投稿: 乙痴庵 | 2011年8月15日 23:51

面白いですね。時代・世代・年代、どれも絡んできそう。

私自身は、なんというか音楽への接し方がめちゃくちゃなので、どなたとも話が合わなそう……。


投稿: 山辺響 | 2011年8月16日 09:54

alex さん、ハマッコー さん、乙痴庵 さん:

話がオーディオ論になるのは本意ではないので、あえて触れません。

時代と音楽との向き合い方という点では、オーディオもかなりの影響を与えているのは確かですが。

投稿: tak | 2011年8月17日 08:31

山辺響 さん:

>面白いですね。時代・世代・年代、どれも絡んできそう。

確かに。

>私自身は、なんというか音楽への接し方がめちゃくちゃなので、どなたとも話が合わなそう……。

私もかなりめちゃくちゃですよ。

私の iPhone には、ジャズ、ロック、ブルース、R&B、フォーク、義太夫、常磐津、清元、長唄、民謡、端唄・小唄・都々逸、讃美歌、ゴスペル、クラシック、和歌の朗詠、その他いろいろ入ってます。

島唄も欲しいなと思ってますが、どの辺から入ったらいいのか、情報不足で、まだ手をこまねいています。

投稿: tak | 2011年8月17日 08:44

懐かしい話なので 乱入させていただきます。

タンノイですか エッジは健在でしょうか。

私の Altec(安物ですが、、)は ぼろぼろになって 数年前に エッジを張り替えました。
レコードだけは しっかり生き残っているのですが、 ターンデーブルは 上のゴムマット部分が 油が抜けて ひびひび状態です。
カートリッジも 多分ラバーの部分が同様だと思うのですが、まぁ 音はするし、大体もとの音を思い出さないので いいかな と。

投稿: Sam_Y | 2011年8月17日 12:23

こんばんは~
私もここに乱入したかったけれど
だんだん病こうこうの域に行っちゃったようなので、
遠慮します。涙

投稿: tokiko68 | 2011年8月18日 18:42

Sam_Y さん:

ごめんなさい。

付いていけないので、レス付けられません ^^;

投稿: tak | 2011年8月19日 18:13

tokiko68 さん:

私も、自分のブログなのに、手が付けられなくなってます ^^;

投稿: tak | 2011年8月19日 18:15

ものすごく遅れ馳せで申し訳ありませんが、takさんの論点は、録音機器が普及する前と後の音楽鑑賞について考えるとよりはっきりするのではないかと思いました。

ヴァルター・ベンヤミンが「複製技術時代の芸術作品」で絵画と写真を比較して述べていたことと重なるような気がします。ワイマール時代の古い本ですが、単なる哲学書ではなく、才気煥発のとても面白い書物ですので、機会があればお薦めです。

派生的に、鉄道が発達する以前の旅行(遠くへ行くためには、その過程自体が紆余曲折をはらむ出来事)と以後(A地点からB地点への移動)について、あるいはガス灯や電灯が普及する以前と以後について書いている批評家もいましたが、名前は失念してしまいました。

投稿: きっしー | 2011年8月22日 18:04

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