« 11月は大忙しになる | トップページ | プーマがチーターだったとは »

2011年11月 1日

車体右側面の 「進行方向書き」 が減ってきたようだ

そういえば先日、父の葬儀で妻と一緒に車で酒田まで往復した時、妻がコンビニで買い物している間に、運転席で待ちながら国道を通り過ぎる車を見ていて気付いたことがある。それは、車体の側面に書かれた社名(言うまでもなく、ほとんどが横書き)が、右側(運転席側)でも左から右に向かって読ませるというスタイルが増えているということだ。

ちょっと前までは、車体の左側(助手席側)に書かれた社名は、左から右に向かって読むというごくフツーのメソッドに従っていたが、右側に書かれた社名は、右から左に(つまり、車の前から後ろに)読ませるというスタイルが圧倒的に多かったのだ。

例えば佐川急便のトラックでは、右側の社名は 「便急川佐」 という風に書かれている。かなり有名になってしまったのは、社名ではなく商品名なのだが「スジャータ」を運ぶトラックのボディ右側には「ターャジス」と書かれてあることだ。

このスタイルはその道では 「進行方向書き」 といわれるらしいのだが、一般には 「読みにくい」「なんでそんな書き方をするのか、理解できない」と、あまり評判がよろしくない。どうしてそうするのかという疑問に答えるページが、Q&A サイトの OK Wave にあり、そこでは次のように説明されている。(参照

歩行者や対向車が前からやってくる車や通り過ぎる車を見た場合に、(車が進んでいるために)車体に書いてある文字は車体の前のほうのものから目に入ってきます。
助手席側は普通に左書きのままで問題ないのですが、運転士側は左書きだと(社名等の)言葉の後ろ側から先に目に入ってくるため、言葉の意味が分からなくなるだろうということで目に入る順(つまり前のほうから右書き)で書いているのですね。

これが 「質問者の選んだベストアンサー」になっているのだが、走行中の車に書かれた社名を読む必要性なんて、そんなに高くない。電光掲示板に流れる文字じゃあるまいし、大抵の場合は社名なんて一目で読み取れるのだから、余計な考えすぎに思える。この解答をした人もそれについては十分意識しているようで、次のように補足している。

これが本当に効果を表すのは20トン積みとかの長い車体を持つ場合であって、2トンから4トンショートクラスの短い荷台や乗用車では文字が一気に目に入ってくるのでかえって読み辛かったりして…。

もっともらしいが、走行中の長い車体のトラックに書かれた文字を、動体視力を駆使して必死になって読み取ったところで、それで一体どうなるというのだ。これも考えすぎという気がする。

この問題に関する解答は、案外「九州男児のにくばなれ」というブログに書かれてあるのが一番核心に触れているかもしれない。このように説明されている。(参照

「人間は、身の回りに自分の似姿を見つけださずにはいられない習性をも」 つため、乗り物にも進行方向から頭と尾を見て取り、「乗り物の頭に文字の列の末尾がくれば、落ち着きの悪さを感じないわけにはいかない」からだということです。

現在、「左横書き」が主流となっているが故の「左→右書字方向」の自然さと、人間の習性に基づいた「左←右書字方向」の自然さが拮抗することにより、右横書きには一種独特の混沌状態が生まれ、そこに思わず目を惹く力が宿っていると考えることができるでしょう。

なるほど、かなり説得力がある。読みやすいか読みにくいかという論理的、合理的な理由からではなく、「乗り物の頭に文字の末尾が来るのは落ち着きが悪い」という、はなはだ身体感覚的な理由から生じたスタイルと考えると、確かに「落ち着き」がいい。感覚的な落ち着きの良さと、自然な読みやすさとは、必ずしも一致しないのだ。

この感覚の背景には、日本の伝統的な書においては、掛け軸などでよく見られるように、横書きでも右側から読ませるスタイルが一般的だったという事実がある。しかしあれって、本当は「横書き」なのではなく、「1行が 1文字の縦書き」なのである。日本の文字表記に横書きが導入されたのは、明治以後のお話なのだ。

最近になって、車体の右側でもごく普通の左から読ませるスタイルが増えてきたのは、旧来の「感覚的な落ち着きの良さ」が、「左から読むのが当然」という意識が優勢になるに従って、感覚的にも必ずしも落ち着きがいいとは感じられなくなったという理由によるものかもしれない。それから、英文字の増加も関係しているだろう。

ちなみに 「九州男児のにくばなれ」の記事は、なかなかおもしろい。いろいろな「進行方向書き」の例が写真で紹介されているのだが、圧巻なのを以下に少し紹介しておこう。

「ンコマナ」

「卸具寝印とぶか」

「!ラア
 んはごくゃにんこ
 けだく炊にょしっいと米お」

「の内国材食入輸の界世
すましけどとおを品食鮮生」

実物の写真は、リンク先でご覧いただきたい。

 

|

« 11月は大忙しになる | トップページ | プーマがチーターだったとは »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

いつも拝見しています。

私はグラフィックデザイナーをしておりますが、若い頃、「進行方向書き」 を支持する先輩デザイナーと意見が衝突したことがあります。

その先輩に、では「電話番号」、「英文」、「ローマ字」はどう書くのかと質問をしたら、黙ってしまいました。

ご紹介の「九州男児のにくばなれ」を拝見しましたが、電話番号は左からの横書きになっているようですね。

投稿: ねぎ | 2011年11月 1日 21:46

「前の方から目に入ってくるから」論は、本来、自動車よりもはるかに速度の遅い「船」の船名表記から来ている、という話を目にしたことがあります。ご紹介のブログでも言及されている村上春樹のエッセイだったかもしれません。

投稿: 山辺響 | 2011年11月 2日 09:16

将来クルマが空を飛ぶようになっても「進行方向書き」の風習はなくならないだろうと思っていましたが、どうやらクルマの進化の前に風習自体が廃れそうな感じですね。PCやケータイの普及で日本語の横書きが常態化したという背景もあるのでしょうが、ハイテクなロジスティックシステムと進行方向書みたいな謎な因習とが同居する、という不思議をけっこう期待していただけに、廃れるのがちょっとだけ残念な気もしています

投稿: S太郎 | 2011年11月 2日 11:18

ねぎ さん:

>その先輩に、では「電話番号」、「英文」、「ローマ字」はどう書くのかと質問をしたら、黙ってしまいました。

それらまで右から左に読ませる書き方をするぐらいに徹底するなら、「もう、勝手にどうぞ」 と言いたくなりますがね (^o^)

投稿: tak | 2011年11月 2日 20:38

山辺響 さん:

>「前の方から目に入ってくるから」論は、本来、自動車よりもはるかに速度の遅い「船」の船名表記から来ている、という話を目にしたことがあります。

なんだか、同じ文章を私も昔に読んだ記憶があるんですが、そこまで詳しくは覚えていませんでした。

なるほど、大きくてゆっくり動く船なら、わかる気もしますが、それでも欧米の船にはあてはまらないでしょうね。

投稿: tak | 2011年11月 2日 20:40

S太郎 さん:

>ハイテクなロジスティックシステムと進行方向書みたいな謎な因習とが同居する、という不思議をけっこう期待していただけに、廃れるのがちょっとだけ残念な気もしています

なるほど、そういう楽しみもあるんでしょうかね (^o^)

投稿: tak | 2011年11月 2日 20:41

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 車体右側面の 「進行方向書き」 が減ってきたようだ:

« 11月は大忙しになる | トップページ | プーマがチーターだったとは »