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2011/12/04

「そむ」って何だ?

3年半以上前に「変てこな写真コレクション」という記事を書いて、その筆頭に某蕎麦屋の看板を載せた。

「そば」ではなく、「そむ」と書いてある。「馬鹿だなあ、あれは『そば』と読むんだよ」と言われるかもしれないが、これでは決して「そば」とは読まない。「そば」と読むためには、下のような字でなければならない。(これもちょっと 「む」 と紛らわしい字体になってしまってはいるが)

Cr111204

最後の字は、決して「む」という字ではない。「者」という字を崩した変体仮名なのである。明治以後でこそ、平仮名は「一音一字」の原則になったが、その前は平仮名は何百文字もあった。例えば今の「あ」という字は「安」を崩してできているが、昔はその他に「阿」「惡」「愛」 などの漢字を崩して「あ」と読ませていた。

ちなみに真ん中の「そ」と読ませる字は「楚」という漢字を崩した字である。そして現代の「そ」の字は「曽」を崩して定着したものだ。万葉仮名の昔から、漢字を表音文字として使うのは日本人の得意技で、「夜露死苦」なんて表現のコンセプトは今に始まったことではない。こいつを草書に崩してしまったら、立派な変体仮名だ。

で、「者」という字を崩して「は」と読ませる字は、実は下図のような感じなのである。ちなみに島崎藤村の『夜明け前』の原稿で、「木曽路はすべて山のなかである」 という冒頭の「木曽路は」の「は」は、下の右側の字体で書かれている。さらに「山のなか」の「な」は、「奈」を現代の平仮名の字体にまで崩さない形で書いてある (参照)。

下図の左側の 「は」 と読ませる字に濁点を表す 「点々」 が付いたので、「む」だと思ってしまう人が増えてしまったのだ。

Cr111204_2

ちなみに「む」という平仮名は「武」という漢字を崩してできている。「そんなぁ!」と言われるかもしれないが、「武」という字を崩すと「む」になるのである。なったからこそ、この「む」という平仮名ができたのである。「む」 いう字の最後の点は、「武」という字の最後の点なのである。

私は「そのうち、日本中の蕎麦屋が『そむ屋』 になってしまうんじゃないか」と心配していたが、ついに乾麺のパッケージ・デザインにも「そむ」が進出してしまった。こんなんである。もう、完全に 「とろろそむ」 になっている。

Cr111204c

ああ、びっくりである。これ、どうにかならんものかなあ。

 

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コメント

これまたあんまり追い詰めると「デ、デザインなんだからいいじゃん」と言われそうですね。笑。

近い時期に同じ場所で同じような“もやもや”を取り上げていらっしゃるにもかかわらず、こちらのエントリーには英語のときほど活発にコメントが飛び交っていないというところが大変興味深いです。

投稿: emi | 2011/12/06 07:17

emi さん:

>これまたあんまり追い詰めると「デ、デザインなんだからいいじゃん」と言われそうですね。笑。

T シャツの胸のロゴみたいなもんですね ^^;)

近い時期に同じ場所で同じような“もやもや”を取り上げていらっしゃるにもかかわらず、こちらのエントリーには英語のときほど活発にコメントが飛び交っていないというところが大変興味深いです。

実は私も、拍子抜けしてます。

今や変体仮名は、英語よりもずっと遠い世界なのかもしれません。

ちなみに、このパッケージの左端にある

「そばうまし千里いとわず来る我れに」

という俳句も、 「そばかまし」 と読まれそうです。
(このくずし方だと、「う」 の字が、「可」 を崩した変体仮名に見えちゃうんですよね)

それから 「いとはず」 にしてもらいたかったなあ。

投稿: tak | 2011/12/06 20:28

昨日、地元のスーパーで「そむ」発見しました。(写真のとろろそむとは別種)
今のところ「そむ率」はかなり低そうです。殆どが「そば」と表記していますので。

今後、「そむ率」の行方に注意してみます。

投稿: ハマッコー | 2011/12/08 16:41

ハマッコー さん:

ほほう。「とろろそむ」 以外にも 「そむ」 がありましたか。

「そむ率」 の推移に注目する価値がありそうですね (^o^)

投稿: tak | 2011/12/08 22:51

おもしろい==!!

投稿: tokiko68 | 2011/12/13 20:08

tokiko68 さん:

どちらのギャルからのコメントかと思いました (^o^)

投稿: tak | 2011/12/13 21:04

そば関連で。
夏の気配もうす~いころから、コンヒ゛ニや麺屋の店先に立つ「ざるそば」の“のぼり”。ざるそばの「ざ」が風で翻った裏向きののぼりで「ぢ」に見える。「さ」は「左」から出たかななので。本来第二画と第三画はつながっていそうでいなかったのだが。 幼児がひらがな習得時に間違うはずである。
「ぢるそば」。うまいのかうまくないのか…。

投稿: 猫乃ひるね | 2014/07/04 09:47

猫乃ひるね さん:

「ぢるそば」、実は私も気になっていました ^^;)

新聞や雑誌の活字と、PC や ケータイのフォントで育った子供は、美しい平仮名が書けませんね。

まだまともな平仮名がかける大人 (と言っても、ほとんど還暦以上かも) が、今のうちに手書き文字をたくさん残しておかなければならないのかなあ。

投稿: tak | 2014/07/04 15:31

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