ネズミもすなる「思いやり」 というもの
Slashdot で "ラットにも 「共感力」 あり。米研究で明らかに" という記事を見つけた。この「共感」というのは、元々のニュースの英語では、もしかして "empathy" なのではないかと思い、試しに検索してみたら、やはりその通りだった。
msnbc.com のニュースのタイトルは "Empathetic rats step up and help others in a bind" というもので、「共感力のあるネズミが学習の結果、拘束された仲間を助け出す」とでも訳したらいいかもしれない。
ニュースの中身は、詳しくはリンク先 (日本語版でも英語版でもご自由に) に飛んでみてもらえれば知ることができる。英語版の方が、写真付きだけによりしっくりくるかもしれない。
ニュースの中身は、まあ要するに、ネズミは透明な樹脂製の容器に閉じ込められてしんどがっている(写真でみる限り、かなり窮屈でしんどそうだ) 仲間を、進んで助け出したがるということが、実験でわかったということなのだ。
これは別に、一匹だけでいると退屈だからとか、助け出せばご褒美がもらえるというインセンティブがあるからとかいうわけでもなく、何だかしらないが、しんどがっている仲間を見るに忍びないという感覚からくるものらしいというのである。
このような 「相手を思いやる心」 を "empathy" というのである。"sympathy" という言葉に比べ、自我にこだわらずに、相手の視点でものを見つつ、相手の立場に立って行動を起こすというニュアンスが大きい。この言葉は既に昨年の 4月 29日に、「"Empathy" の時代」 というタイトルの記事で紹介した。その記事からちょっと引用してみよう。
「利己的な遺伝子」 という、実はあやふやな進化学上のテーゼが、これまでは一般社会で信じられてきた。通俗的な理解では、生物は各々が利己的であることによって生き残ってきたというのである。そして、競争原理は結局は人類の幸福に寄与するのだと思われてきた。
しかし、それは人間が長い間とらわれてきた迷妄ではなかったか。競争によって強くなるというのは、都市伝説のようなものではないか。実は、協調によってある程度強くなったからこそ、競争が可能になったのであり、競争によって発展するというのは、進歩の一段階に過ぎないのではないか。人類はそろそろ、次のステージに進むべきなのではないか。
私は "empathy" こそが、新しい時代のキーワードになるのではないかと思っている。「思いやりの心」というのは、別に新たに学ばなくても、ネズミの脳でさえも元々もっているもののようであり、それを発揮することによって「気持ちいい」という感覚を獲得できるのだ。
我々がどうやら DNA の中にもっているらしい「思いやりの心」を、てらいなく発揮できる社会システムを実現すれば、この世はかなり住みやすいものになるのではなかろうかと、私なんかは単純に期待してしまうのである。
紀貫之は『土佐日記』で「男もすなる日記といふもの」と書いたが、「ネズミもすなる『思いやり』というもの、人間の我もしてみむとて」 と言いたいところである。
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コメント
おはようございます~
すばらしい======!!!!!!!
目からうろこです。
いいな~この記事。感激です。
そうか、人はもともと利己的なだけで、あとは理性的に行っているものだと思っていたけど
男も・・じゃない、ねずみもすなる・・ですかぁ~
うれしいですね。
投稿: tokiko68 | 2011年12月15日 08:43
tokiko68 さん:
もしかしたら、「仲間が苦しんでいるのを見るのは耐えきれないほど不快」という、ある意味では利己的な理由なのかもことなのかもしれないと考えましたが、それなら目を逸らして意識しないようにするとか、いくらでも方法があるのでしょうが、やっぱり、「見るに忍びない」という気がするんでしょうね。
で、助け出してあげて、やっと「ホッ」 と息をつくとか。
投稿: tak | 2011年12月15日 14:25
うーむ、確かにいいお話しではあるのですが、そのようなことを動物実験で確かめている人間というのは、まことに微妙ですねぇ。
デリカシーも共感する力も、大きく欠けているような気がするのですが、いかが?
天邪鬼ですみません。
投稿: Mikio | 2011年12月15日 20:58
Mikio さん:
言われてみれば、ネズミにはかなり気の毒な実験ですね。
Empathy を即物的に捉えているかもしれません。
投稿: tak | 2011年12月15日 22:28