Wikipaedia や Google は何に反対しているのか? (その2)
4日前に書いた「Wikipaedia や Google は何に反対しているのか?」という記事の最後が、なんとなく中途半端な調子で終わってしまったので、もう少し書き足そうと思う。それはきっしーさんのコメントへのレスとして、少し触れたし、前書いたことにもカブるが、あえて改めて、ちゃんとした記事として書いておこう。
それは著作権に関する基本的な態度の問題でもある。昨年暮れの「Winny 開発者の無罪確定で、あれこれ思う」という記事にも書いたことを、改めてもう一度触れておこう。7年半前の自分の記事からの引用で、次のようなテキストである。
(Winny の) 開発者の「47氏」が志向したと思われる「著作権という概念の質的変化」への対応には、興味がなくもない。私も、著作権の現在のコンセプトは確かにオールド・ファッションドだと思う。まったく新しい形の著作権のコンセプトがあってもいい。
例えば、ハリウッド的な大作主義の映画を作ろうと思ったら、著作権に基づいた収入を想定しなければ制作自体が不可能になる。だから、ああした作品がお好きなら、ちゃんと入場料を払い、DVD をきちんと買うべきだろう。
しかし、もっと「草の根的」な芸術作品がお好きなら、あんまりお金のことで面倒な運用が必要なのは、うっとうしい。インターネット時代のアートは、そうした志向への萌芽が見られる。
つまり、著作権についてあまりうるさいことを言わなくてもいい領域が、存在してもいいんじゃないかということなのだ。
私自身、自分の書いた文章の著作権には結構シビアで、過去にこのブログの記事をもろにパクったブログを追求して、結果的に 3度ほど (いや、もっとだったかな?) 閉鎖に追い込んだことがある。それは私の書いた記事の主張、言い回し、「てにをは」、その他、ほとんどそのまま、あたかも自分のテキストであるように書いたものだったからだ。
その行為は許せないので、すぐに厳重に抗議を申し入れ、結果、相手のブログはあっけなく閉鎖された。一つだけ、しぶとく閉鎖されなかったのがあるが、それは某地方政治家のブログである。記事を削除して一度謹慎の姿勢を表明し、しばらくしてから再開された。さすがに政治家というのはしぶとい。
しかし、こうしたモロの「パクリ」以外のもので、例えていうなら「入会地」的な領域があってもいいと、私は思っている。
最近流行りの (私自身はちっとも魅力を感じないが)「萌え絵」というのは、はっきり言って、どれをとってもほとんど同じに見える。好きな人に言わせれば、「それぞれこんなに違うのに、その差がわからないのか」ということにもなるのだろうが、少なくとも私は大した違いは感じない。
それでも、萌え絵に関して大きな著作権侵害問題が発生したとは、聞いたことがない。つまりあれって、「入会地」なのだと思う。髪の色やスタイルやコスチュームがちょっと違ってさえいれば、問題にならないようなのだ。
絵が似ているからといって下手に提訴するよりも、一群のよく似たテイストの「萌え絵」として存在し続けることの方が大きなパワーとなることを知っているから、そんなことで責め合うことをしない。
それから、昔の(あるいは今でもか?)自己啓発的人生論の本(デール・カーネギーの本みたいなやつ)に登場する、前向きな言葉や考えや行動で救われたといったようなエピソードは、すべて実話なんだかどうだか知らないが、細部は別にしても大筋では似たようなものが多い。これもやはり「入会地」である。
ブルースという音楽形式も、基本的にはほとんど同じコード進行の 12小節だ。同じようなメロディで違うタイトルのブルースが、数え切れないほどある。あれって、七・七・七・五 の形式で何千とある「都々逸」と、同じことなのだと思う。都々逸で著作権を厳密に主張する人を、私は見たことがない。
このように似たようなもの同士が、徒党を組むわけでは決してないにしても、つかず離れず、「ゆるいお友達関係」を意識的、無意識的を問わず維持し続けることで、無闇にオリジナリティを主張しすぎるよりも、むしろ強いパワーを発揮できるというような分野がある。そこでは、厳密な著作権を主張しすぎるのは、かえって野暮になる。
著作権を主張しすぎない代わりに、「まったくのパクリ」ということもない。まことに絶妙な間合いで、「入会地感覚」が維持されている。
インターネットというメディアは、こうした「入会地感覚」での運用に、ものすごく適したメディアだと思う。正当な著作権はもちろん保護されなければならないが、自由な「入会地」をも破壊するような厳密すぎる著作権の主張は、そもそもインターネットの世界と相容れない。
それだけに、シリコンバレーは SOPA や PIPA(ネットにおける海賊行為防止法案)といったものには、本能的に反対する。そういう体質なのだ。
問題はハリウッド的な著作権をどう保護するかということで、私は、ハリウッドは自分自身の地道な努力によって正当な権利を守るべきだと思う。早くいえば、既存の法律でもやっていけるじゃないかということだ。
「俺らの権利保護に無条件で協力しなければ、ネット企業そのものが悪者と同列だ」と言わんばかりの強引な法案は、厚かましすぎるところがあるのではなかろうか。
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コメント
この法案に関するネット企業の世論誘導の仕方と議員の日和見的な行動を見ていてうじうじしていたのですが、これを見てナルホドと思いました。
http://www.junpay.sakura.ne.jp/index.php?option=com_content&view=article&id=877:114sopapipa&catid=27:2008-12-26-11-25-27&Itemid=29
ご参考まで。
投稿: きっしー | 2012年1月25日 13:17
きっしー さん:
情報、ありがとうございます。
当方としては、さっそく iPhone と iPad の 「診断/使用状況」 の自動送信をオフにしました。
投稿: tak | 2012年1月26日 21:27