Wikipaedia や Google は何に反対しているのか?
本家米国版の Wikipedia が 24時間ストをしたり、Google がタイトルロゴをブラックアウトしたりという、センセーショナルな話題ばかりが伝えられる中で、日本のマスコミでは、問題の焦点が今イチまともに解説されていない。だから、シリコンバレーは、海賊版防止にどうしてそんなに必死に反対しているのかが、理解されていない。
映画や音楽などの米国の知的資産が、中国などのサイトで違法に公開されているのは、隠しようのない事実である。こうした悪質サイトが検索エンジンの検索結果に反映されないようにする、つまり実質的にアクセスを遮断して、悪質サイトに 「死刑宣告」 してしまうというのが、今回問題になっている SOPA の内容ということのようだ。
SOPA というのは、"Stop Online Piracy Act" (直訳すれば「オンライン海賊行為停止法」)の略称で、似たような法案に PIPA (Protect IP Act 直訳すれば 「IP 保護法」) というのもある。シリコンバレーは、SOPA と PIPA の両方に反対の立場を鮮明にしている。
なんで反対なのかというと、多くの日本の報道では「ネットの自由が阻害されるから」という理由しか紹介されていない。つまり記事を書いている記者自身があまりよくわかっていないから、そんな漠然とした言い方しかできないのである。
私も法案のテキスト・ページに行ってみたが、何しろ長いし、どこの国でもそうみたいだが、法律の文章ってくどいし、わかりにくいしというわけで、全文をしっかり読むなんてことは、早々に諦めた。要するに、法案自体も漠然としてわかりにくいのである。
ただ、いろいろ調べているうちに、問題点が絞り込まれてきた。最大の問題は、次の点である。
映画会社やレコード会社などの著作権者は、司法当局に届ければ問題サイトを強制的に閉鎖させることができる。検索サイト事業者は問題サイトが検索結果に反映されないよう遮断し、その問題サイトの制作者情報を開示することが課せられる。違反者への罰則は、最高で禁錮 5年。
つまり、著作権が侵害されたと主張する者が司法当局に届けさえすれば、検索サイトは問題サイトを遮断し、さらにサイトの制作者に関する情報を晒さなければ、罰則の対称になるというのである。
これはかなりきつい内容だ。検索サイトの活動に、司法当局、あるいは司法当局を通じた他のセクターからの圧力が、ほとんど無条件に直接的に加えられることになる。さらに、悪質サイト制作者の情報を晒すということは、プライバシーの問題も関連してくる。
法律の適用が非常に慎ましく行われれば、本当に悪質なサイトだけが遮断され、その制作者が公開ブラックリストに載るだけだが、乱用されてしまうと、ネットは検閲だらけになり、まさに自由が制限されることになる。
この法律が成立したら、多分「慎ましい運用」では済まなくなるだろう。悪質サイト撲滅に関する "voluntary action"(自主的行動)が求められるということが、法案に明記されているからだ。著作権者や司法当局だけでなく、ネット業者(検索エンジン事業者やプロバイダーなどを含む)自身も、自主的に悪質サイトの遮断を行わなければならないというのである。
これは例えば、「運送業者がわいせつ文書の配送に関わらないように、自ら運ぶ荷物の中身に注意していろ」というようなものだ。当事者だけでは手が回らないから、ネット事業者もしっかり検閲しろというわけだ。そんなことは、実際問題として不可能に近い。
「そんなの、やってられねぇよ」というレベルのことになる。シリコンバレーが猛反発するのも当然だ。米国が自らの知的所有権を保護したいなら、もっと他のやり方があるはずだ。
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コメント
非常にわかりやすい要約、ありがとうございました。
あまりにも broad な権限を当局および「クリエイター」側に与えることになるのが問題なわけですね。
一方、中国の海賊版業者からグーグル等、程度の差こそあれ著作権保護の弱点をついてフリーライドしている人たちが一方的な受益者となっている状況も inequitable だと思います。これは、単純に法律を作って強権的に規制できる問題ではなく、法律とテクノロジーによるコンビネーションで取り組んで行くしかないのでしょうね。
このテクノロジーの部分を誰が担うのか、難しいところですが、少なくとも新聞・出版・映画等の産業は現状を好ましく思っていない以上は知恵をしぼるべきでしょうね。かつてのDRM(CDをコピーできなくしてた仕組み)は失敗だったし、DVDレコーダーの10回までコピー可とかいう制度も意味不明ですが、ちゃんとユーザーにとっても使いやすく、著作権者にとってもequitableな仕組みを考えてもらいたいです。
不毛な対立のはてにあるのは、と想像をたくましくしてみると・・・例えば映画会社が闇の組織を使って逆ハッキングなんていうのもあり得るのではないでしょうか。海賊版を配給しているサイトを執拗に攻撃したり、ウィルスを仕込んだ海賊版を自ら大量に流通させたりすることで正規品の相対的な魅力度を高くしたり。このビジネスモデルは応用が効きそうです。悪質なガセの「ニュース」記事をSNSや情報源のコントロールの甘いポータルに流し続け、伝統ある媒体の相対的な信用度を高くするとか。なんか、子供のときにテレビでやっていた「レインボーマン」みたいだなあ。ご存知ない番組かもしれませんが、やけに哲学的なスーパーヒーロー物で、正義の味方レインボーマンが戦う悪の組織「死ね死ね団」は、偽札をばらまいてハイパーインフレを起こしたりするんです。わはは。
ただ、食べログ問題なんかを見ても、ネット社会全体に一定の規律を持たせる仕組みは、ネットメディア自身が考えないといけないと思います。著作権はそのサブセットの問題なのかもしれません。
投稿: きっしー | 2012年1月20日 11:24
きっしー さん:
著作権者のあり方は、長いスパンで変化せざるを得ないと、私は思っています。
コピーライト・フリーの分野が力を付けて、自由に流通し放題の作品が、本当に面白かったりすれば、素敵な世の中になるのではないかと想像したり。
その萌芽は、前にも書きましたが、「萌え絵」です。
あれって、どの絵もほとんど見分けがつきませんよね。「入会地」的様相です。
昔の啓蒙的人生論に登場するエピソードも、実話だかどうだか知りませんが、ほとんど似たようなもので、やっぱり「入会地」でした。
ある意味、映画なんかでは、金かけて大作を作りすぎるからいけないんですよ。あとでバッチリ回収しないと、ビジネスモデルが成立しない。
ゆる~く流通してもらう方がいいという、金のかからないビジネスモデルが登場してもいいという気がします。
インターネットは、こっちの方のコンセプトに近いので、ハリウッドは目の敵にするはずです。
とはいえ、大作で儲けるビジネスモデルでやっている人たちにとっては、由々しき問題ですから、ネットの発展を妨げない形での対策を、テクノロジーがらみで開発してもらいたいものです。
投稿: tak | 2012年1月20日 19:21