« 髪の毛の本数を確保するために、長さを犠牲にしてきたのだが | トップページ | 隠居志向 »

2012年1月14日

「食べログ」問題を巡る冒険

「食べログ」の「やらせ」 が問題になっているが、「何を今さら」という気がしている。インターネット社会固有の問題という言い方をする解説があり、さらに「だからインターネットなんて信用できない」という言い草も散見するが、その言い切り方はちょっと考え物だ。

これは昔からある「サクラ」の 1バリエーションに過ぎないではないか。サクラがインターネットをものすごく効率的に使ったというだけのことである。

飲食店の新規開店時に、びっくりするほどの長蛇の列ができることがある。注目のゲームソフト発売日には前夜から長蛇の列ができることがあるが、たかだかラーメン屋とかハンバーガー・チェーンとかの開店時に、自然発生的にそんな列ができるはずがない。あれは多くの場合、サクラである。

インターネットの口コミにサクラが混じっているからと言って、大手マスコミの紹介記事なら信用できるかといえば、全然そんなことはない。大手マスコミの記事こそ、広義の「サクラ」の最たるものである。

マスコミでは「広告」と「パブリシティ」が、建前上は一応はっきりと区別されている。広告は金を払っての宣伝であり、一方パブリシティは、そのメディアが独自の視点による取材で書いた紹介記事で、お金のやりとりとは関係がないということになっている。

しかし実際は、多くのマス・メディアに「パブリシティ」として取り上げられるのは、お金を払って広告ページを出してくれている企業の製品の記事である。突っ込んで聞くと「あれは『タイアップ企画』です」なんて、わけのわからないことを言い出す。

お金はびた一文もらっていないが、その雑誌の編集者が心から惚れ込んで礼賛記事を書くなんてケース(これぞまさしく、本来の意味の「パブリシティ」なのだが)は、皆無というわけじゃないが、今どきは非常に少ない。とくに大手マスコミほど少ない。

ことほど左様に、情報はお金で左右されるのである。そして、お金を払ってまで情報を左右したがるのは、大衆の一部がその情報に左右されるからである。ランキング上位の店で食いたがる、ベストセラーの本を買いたがる、評判の温泉地に行きたがる、視聴率のいいテレビ番組を見たがる、などなど。

ここで「大衆の一部が」と書いたのは、「大衆が」と書いたら語弊があるあからだ。大衆だってそれほどのべつ幕なしに、こうした情報のすべてに踊らされっぱなしというわけじゃない。ただ、れぞれの分野で「特定の情報に踊らされやすい人たち」が存在するのである。

食い物情報に踊らされやすい人、ベストセラーは一応買わなければ気が済まない人、テレビで紹介された温泉地に行きたくてたまらない人、視聴率が高ければ無条件にチャンネルを合わせたがる人、などなど、さまざまなクラスターが存在する。そして彼らは自分自身を「情報に踊らされやすい人」ではなく、「情報に敏感な人」と思いこんでいる。

こうした「大衆の一部」が動くだけで、商品やサービスの売上げは劇的に変化する。全員が動かなくてもいい。自らを「情報に敏感な人」と思いこんでいる、信じやすい純朴な人だけが動けば、それで十分なのである。

というわけで、「サクラ情報」に踊らされないようにするには、ほんのちょっとだけ「へそ曲がり」になればいいのだ。「信じやすい純朴な人」という徳目を、心ならずもちょっとだけ削り取って、「ちょっとだけ疑い深く、スレた人」になればいいのである。

そもそも、例えばラーメン屋のランキングにしたって、上位の店と下位の店との間に、それほど大きな差があるわけじゃない。それなりの店なら、大体それなりの味だ。さらに言えば、それぞれの店にはそれぞれの個性があるし、要するに「好きずき」の問題になる。それを一律のランキングで評価しようなんてこと自体に無理がある。

だから、我々としてはほんのちょっとだけ「すれっからし」になって、自分の好みにあった個性の商品やサービスを見つけ出せばいいのだ。

具体的に言えば、例えば飲食店なら単に「おいしい」というだけの評判は信じなければいいのである。どんなふうにおいしいのか、そのおいしさがどのように実現されているのかが具体的に語られていて、それがとりたてて無茶な話というわけではなく、そして一定期間継続しているなら、一応暫定的に信じてもいいだろう。

「暫定的に」というのは、結局は自分自身で味わってみなければ、本当のところはわからないからだ。私の印象では、ネットやマス・メディアで評判になっている店で、実際にはるばると出かけてまで食ってみる価値のあるのは、せいぜい 2割か 3割ぐらいのものである。

そして本当においしいのは、その評判店の周辺で地道にコツコツとやってる店だったりする。

 

|

« 髪の毛の本数を確保するために、長さを犠牲にしてきたのだが | トップページ | 隠居志向 »

世間話」カテゴリの記事

コメント

世の中全て「好み」の問題なので、食べ物も温泉も衣服も、自分が「いい」「美味しい」と思えばそれでいい、それに価値がある。といつも周りに言ってます。が、「なんであんなもんが美味いと思うんや?信じられんわ」なんて言う人も多く、いや、だからそれはあんたの好みでしょ?俺の味覚と君の味覚は違うから、と言っても、切々とあの店がいかに不味いか、という無駄な事に時間を使ってきます。世の中の見せ掛けの評判より、今の自分の俺からの評価を気にしろよ~、という出来事が2時間程前ありました。今度、人気で評判が高くて混んでる店に連れて行ってくれるそうです(笑)いや、行くけども、鬱陶しい(笑)

投稿: シリオンパパ | 2012年1月14日 15:18

シリオンパパ さん:

>「なんであんなもんが美味いと思うんや?信じられんわ」なんて言う人も多く、

究極の「余計なお世話」ですね (^o^)

>今度、人気で評判が高くて混んでる店に連れて行ってくれるそうです(笑)いや、行くけども、鬱陶しい(笑)

人気で評判が高くて、それでいて混んでなきゃ、まだいいんですけどね (^o^)

投稿: tak | 2012年1月14日 21:22

“誰にも教えたくない”とか、“有名人がこっそり通う”おいしいお店などの、秘密めいた記事を目にすることがあります。

こんな記事こそ、『ヘソ曲がり』で見とかなきゃ。
秘密なら教えないって。


あと、飲食店なら食べ方、観光地なら楽しみ方を押し付けることも、やめていただきたい。

投稿: 乙痴庵 | 2012年1月15日 09:18

乙痴庵 さん:

>“誰にも教えたくない”とか、“有名人がこっそり通う”おいしいお店などの、秘密めいた記事を目にすることがあります。

>こんな記事こそ、『ヘソ曲がり』で見とかなきゃ。
>秘密なら教えないって。

バレたとたんに荒れるのは目に見えてるから、バラしませんよね (^o^)

>あと、飲食店なら食べ方、観光地なら楽しみ方を押し付けることも、やめていただきたい。

ガイドはいいけど、それを越えたらとたんに 「おせっかい」 ですからね ^^;)

投稿: tak | 2012年1月15日 23:00

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「食べログ」問題を巡る冒険:

« 髪の毛の本数を確保するために、長さを犠牲にしてきたのだが | トップページ | 隠居志向 »