Windows の自己矛盾
私も今年還暦になるんだから、結構な「年配者」と言えるかもしれないが、イメージとしてまだまだ若い気でいる。どんな時に若い気持ちになるかというと、文字通りの「年配者」(多分「団塊の世代」より上、つまり、68歳以上ってところか) に、PC の操作法を聞かれて教えてあげるときなんかである。
「これ、どうすればいいの?」と聞かれ、「それは、こう、こう、こうすればいいんですよ」と教えてあげると、年配の人たちというのは、100%と言っていいほど、その操作法をメモして覚えようとする。そんな時、私は「そんなことでメモなんかしちゃダメ。この類の操作は、この辺りをクリックしてみると、なんとかなるってな具合に、感覚で覚えるんです」 と言う。
すると年配者は「そうなのよね。ウチの息子が里帰りした時なんかも、私が操作法を聞いてメモすると、『メモなんかするな!』と、地団駄踏んで怒るのよ。でも、メモしないと、どうしても覚えられなくて」なんて言う。そうか、息子だったら遠慮がないから、本当に地団駄踏んで怒るだろう。
年配者がどんなふうにメモしているかを見てみると、"写真印刷のやり方 -スタートボタンをクリック -「ピクチャ」をクリック - 開いたウィンドウから写真をクリック -「印刷」をクリック ……" なんて、細かいことをきっちりと書いている。はっきり言って、こんな風な書き方をしているから、いつまで経っても覚えられないのだ。
そもそも、教えるこちらだって、"写真印刷のやり方 -スタートボタンをクリック -「ピクチャ」 をクリック - 開いたウィンドウから写真をクリック -「印刷」 をクリック ……" なんていうようになんか覚えていない。やってみたらこのような順序になるというだけで、実際に PC を触らずににこの通りに書いて教えられるかといったら、多分できない。
教える方がそんな風にはっきりと意識しているわけじゃなく、テキトーにさわったらこうなるという順序を、教わる方がそれしかないという風に固定的にメモなんかしたら、覚えられるわけがない。それこそ、MS-DOS 時代の発想によるやり方だ。
「そもそも、教える方だって、今、貴方がメモしたような明確な覚え方なんかしてないんです。触ってみて初めてわかるんですよ」
「まあ、だったら、どうしてそんなに上手に教えられるの?」
「だから、この類の操作は、メニューバーのこの辺りをクリックすればいいんだなということさえ見当がつけば、あとは Windows の方でメニューを示してくれるから、ちょこちょこと選んでいけばいいんです。こっちはどんなメニューが出てくるかなんて、正確には覚えてないんですよ」
そう言うと、相手は目を丸くして驚く。
「まあ、じゃあ、出たとこ勝負じゃないの」
「出たとこ勝負がうまく働くように、それなりにうまく設計されてあるんですから、心配せずにあちこちつつきまくって、慣れちゃえばいいんですよ。そうすれば、『ははあ、Windows ってやつのやり口は、大抵こんな感じなんだな』 とわかってきます」
と、ここまで説明してわかった。
MS-Office の 2007 以後のバージョンの使いにくさは、このメソッドがうまく作用しなくなったことによるのだ。「この類の操作は、この辺をクリックしさえすれば、メニューが示される」という信頼感が崩壊してしまったのである。「この類の操作は、一体どこをみればメニューがあるんだ?」と、いっぱしのベテランが迷ってしまう。
せっかくベテランになったのに、サプライヤー側の余計なお世話で、一挙に初心者にたたき落とされてしまったのだ。「Windows ってやつのやり口」を、Windows の産みの親が忘れてしまったからである。
Windows 8 になったら、その傾向がさらに強まるらしい。そうなってしまったら、Office の操作だけでなく、しょっぱなの OS 段階での操作でも初心者にたたき落とされてしまう。毎度言うことだが、これが車だったら、命がいくつあっても足りない。
iPhone と iPad のおかげで、アップル的世界の住み心地のよさを味わってしまった者としては、PC も Mac に乗り換えたいという思いがひしひしと強まってきている。
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