「未亡人」という言葉は、かなりひどいよね
さっき何の連想ということもなしに、ふと「そういえば『未亡人』って、ひどい言葉だな」と気付いた。
「未だ亡くならない人」ということで、「本来なら夫が死んだら自分も死ぬべきなのに、生きながらえている人」という言外の意味を含んでいる。そしてこれは、女性にのみ適用される言葉で、妻を亡くした夫を「未亡人」とは決して言わない。
未亡人と共通した意味で、「寡婦」という言葉があるが、これには対のように「寡夫」という言い方がある。さらに「やもめ」という言葉に対しては「やもお」という言葉があることを、今日辞書を引いていて初めて知った。「家守り女/男」というのが語源という説が有力のようだ(参照)。
ただ「やもめ」という言葉は古くからニュートラルな意味になったようで、男女を区別する時には「男やもめ/女やもめ」なんて言うこともある。「男やもめにウジがわき、女やもめに花が咲く」なんて、「未亡人」とは逆視点のひどい諺まである。
女性だけに使われる言葉として、他に「後家」というのがあるが、これは「未亡人」という言葉ほどのひどさは感じない。「後家のふんばり」なんていうと、なかなか立派な女性のようなイメージが浮かぶ。
こうしてみると「未亡人」という言葉については、フェミニストでなくても「あまりといえばあんまりだ」と言いたくもなるではないか。ところが、試しに辞書(Goo 辞書 = デジタル大辞泉)を引いてみると、次のようにある (参照)。
《夫と共に死ぬべきなのに、まだ死なない人の意。元来、自称の語》 夫に死別した女性。寡婦。後家。びぼうじん。
なるほど、元来は夫に先立たれた女性が自分を指して、一人称的な使い方をする言葉だったのか。「恥ずかしながら生きながらえております」 ってな意味合いを込めていたわけね。儒教文化に支配されていた頃の、まあ、後追い自殺しなくてもすむ免罪符みたいな言い方をしていたわけだ。
フェミニズムの視点でストレートに受け取れば、とんでもない言葉だが、ちょっとひねった見方をすれば、表向きには家父長文化が支配する中で女性が生き延びるための、かなりしたたかな言い方とみることもできるだろう。
しかしそのしたたかさというのは、自分で言う時に限って発揮されるものであって、自称として使う文化が廃れてしまった現在では、他人がそう言ったら、ちょっと気の毒ってなものだ。これからは、この言葉はあまり使わないようにしようと思った次第である。
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コメント
こんにちは!
とっても面白い読み物ですね、ここは。
未亡人っていう言葉のニュアンスは
美しい女性を連想させられていましたが
《夫と共に死ぬべきなのに、まだ死なない人の意。元来、自称の語》
だなんて、ちょっとひどい。ぷりぷり!
でも、自称だったんですね~!
いまは、
他人が言います。
自分が言うと、偉そうにきこえますよね?
不思議ねぇ。
私、未亡人ですの・・なんて言ったら
自分がいかにも夫はなくなったけど、私って、美人でしょ?と、言っているような気がするんですがね・・・変ですね。うふふ
投稿: tokiko | 2012年5月21日 13:32
tokiko さん:
>私、未亡人ですの・・なんて言ったら
>自分がいかにも夫はなくなったけど、私って、美人でしょ?と、言っているような気がするんですがね・・・変ですね。うふふ
いや、まさにそう聞こえます。私も (^o^)
投稿: tak | 2012年5月21日 20:34
ランキングに出てきたので気になって来てみました(笑)
「長年連れ添ったじさまに先立たれたばさま」に対しては使わないですよねえ。使われるのはそれなりに若い印象というか。ということはやはり働き盛りでコロッといってしまう男性が多かったということかもしれません。戦争とかもありますし。
そういえば妻に先立たれた男の場合だと「後妻をむかえた」などという表現がありますが、逆はあまり聞きませんね。男の再婚はOKで女はNGだという価値観が見え隠れしそうです。
投稿: らむね | 2020年11月 5日 21:06
らむね さん:
>「長年連れ添ったじさまに先立たれたばさま」に対しては使わないですよねえ。
まさに!
ところで、その境目は何才位なんでしょうね ?
>男の再婚はOKで女はNGだという価値観が見え隠れしそうです。
外側からの規範というより、男は 1人では何もできないけど、女は「亭主の世話は、もうこりごり」ってことなのかもしれません。
投稿: tak | 2020年11月 5日 21:31