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2012年3月14日

「聞き流すだけ」 という英会話教材を巡る冒険

「聞き流すだけ」という英語教材の CM が、結構あちこちで流れている。いろいろな種類があるらしいが、一番よく聞くのが「スピードラーニング」という教材だ。「あの石川遼選手も使っている」なんて聞くと、かなりもっともらしい気がするからおもしろい。

この手の教材のマーケティングに共通しているのは、徹底的にムードでもっていって、実際の教材がどんなものなのかは、ちらりとも聞かせてくれないことである。申し込めば無料サンプル CD を送ってくれるというのだから、そんなことをしなくても、CM の中でほんの 10秒ぐらいでいいから実際の「聞き流し」教材を聞かせてくれてもいいと思うのだが、それは絶対にない。

とにかく、「何も考えずに」「勉強すると思わずに」「1日 5分間でいいから」「シャワーを浴びるように聞き流す」というメソッドらしい。それを 2ヶ月ぐらい続けるとある日突然、「目の前の外国人の会話がほとんど聞き取れる」ようになる(人もいるらしい)というのである。ふぅん。それが本当なら、こんなすごいことはない。

私としては、その教材がどんなものなのか、本当に 10秒ぐらいでいいから聞きたいものだと思って、あちこちググりまくってみたのだが、まともに聞けるのは YouTube でも見当たらない。

スピードラーニングの無料視聴用CDを聞いてみました」という動画があるが、それを再生しても、動画の再生時間の半分ぐらいまでは、パッケージを開けてプレイヤーにセットするという異常にもったいぶった作業に費やされていて、その上、CD を再生すると日本語の CM で聞いたと同じようなナレーションが流れるだけだ。

要するに、肝腎な部分はちっとも収録されていない。気をもたせるだけもたせて、「それ以上知りたかったら申し込んでみてね」というメッセージを発するだけというのは、この教材の CM とまったく同じメソッドである。

さらに同じ人がアップロードしたと思われる「スピードラーニング第1巻日常英会話を聞いてみました」というのも、やはり同じように延々と時間をかけてパッケージを開いてみせて、あとはごく小さなボリュームの英語が遠くから聞こえてくるだけという仕掛けになっている。

せっかく再生しているんだから、もう少しマイクを近づけてもいいじゃないかと思うのだが、これまた絶妙な気のもたせ方である。これじゃ、実際のユーザーがアップロードしたというより、サプライヤーのマーケティングの一環(早く言えば、ステマ?)なんだろうと勘ぐられてもしかたがない。

周りの部分だけちらちらと小出しにしてみせて、肝腎な部分は最後まで隠すという、喩えが悪くて恐縮だが、昔の場末のストリップ小屋みたいなメソッドで売ろうとしているのだなという印象だ。

こうしたイメージ操作で、「英語というのは、従来の学習法では身に付かないんですよ。まったく新しいいメソッドに沿ってやれば、おもしろいように身に付くんですよ」というようなことを、言っているわけだが、まあ、これは昔から英会話教材の売り込みに使われる常套手段である。

これについては、私は 3年前に "たった 90日で 「英語がペラペラ」 になるなんて" という記事でそこはかとない疑問を投げかけているのだけれど、その疑問の肝腎な部分は「聞くだけ」教材ににおいても、ほとんど同様に引き継がれている。

これから英会話を身につけたいと思うのは、大抵が英会話の初心者というか、素人だから、こんなような夢物語みたいなストーリーを突きつけられると、ついその気になってしまいかねない。

私はスピードラーニングの教材に一度も触れたことがないので、「聞くだけで英会話ができるようになるわけがない」なんて断定的なことは言わない。それは偏見というものだろう。とはいいながら、疑問を感じる点がありすぎということは言っておいてもいいだろう。

ただ、私がおもしろいと思うのは、日本人の多くにとって、「英会話ができるようになる」というのは、昔の場末のストリップ小屋と同じようなものなのだなあということだ。要するに、実体のないファンタジーなのである。具体的に英語でどうしたい、こうしたいというようなことじゃないみたいなのだ。

ここから先はオマケ。

どうでもいいようなことだけど、「エブリデイイングリッシュ」という教材のサイトでは、「"What time is it now?" という外国人はいません。あなたのテキストに掲載されていたら要注意」と、でかでかと書いてある。

確かに "Do you have the time?" とか "What time do you have?" とかの方がよく聞かれると思うけど、"What time is it now?" という外国人だって、いないわけじゃない。ちゃんと時々は聞くよ。

ちなみに、YouTube に "What time is it now?" というタイトルの傑作なビデオがあるので、ご覧いただきたい。使われているのは英語じゃなくて、多分イタリア語みたいな気がするが、心配ない。なんとなくわかって、最後は笑ってしまう。昔、タモリが得意にしていたジョークの映像版だ。

傑作なのは、この "What time is it now" というタイトルのビデオに、そんなことをいう外国人はいないと言い張る「エブリデイイングリッシュ」の広告がバシバシ入ることなのである。これって、やぶ蛇だよね。

 

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コメント

この手の級材は、まったくの初級者をある程度のレベルにまで引き上げることはできると思いますが、うたい文句どおりに「聞き流すだけでぺらぺら」なんてことはありえないと思います。

スピードラーニングではありませんが、「聞き流すだけで英語をマスター」という教材なら、Web 上でサンプルを公開しています。
http://www.mas-eng.com/

投稿: くにしろ | 2012年3月15日 00:18

くにしろ さん:

ご紹介のサイトに飛んでみました。

この程度なら、日本語なしで聞く方がストレスありませんね ^^;)

投稿: tak | 2012年3月15日 00:42

20年ほど前だと思いますが、ALCの「ヒアリングマラソン」を購入したことがあります(毎月教材が送られてくる)。「浴びるように聴く」部分は、同じ会社のEnglish Journalの同月号のコンテンツを使い回しているだけで、特にリスニング能力強化に配慮されているわけではないという印象を受け、あまり熱心には取り組めなかったので、効果はありませんでした(それでもマニュアル通りにきちんとやれば多少は違うんでしょうが)。まぁ当時はたぶんカセットテープだったと思うので、使い勝手が悪かったという要因もありますが。

まぁ昨今であれば、Podcastなどを中心に、「浴びるように聴く」教材は無料でもけっこう入手できますね。

投稿: 山辺響 | 2012年3月15日 09:32

山辺響 さん:

浴びるように聞くだけならば、外国語の放送をインターネット経由でいつでも聴けますからね。

教材として差別化するには、英語と日本語訳を交互に聞かせたりしてるんでしょうけど、上のくにしろさんからのご紹介によるサイトのサンプルは、日本語訳がうっとうしすぎる印象です。

希望としては、「あれ、今んとこ、何て言ってたの?」 と思ったところだけ、ゆっくり繰り返してくれたり、ちょっと解説を入れたりしてもらえばいいんですがね。

しかしそうなると、十人十色の教材が必要になるでしょうし、なかなか大変ですね。

投稿: tak | 2012年3月15日 14:05

こんばんは~you tubeおもしろ~~い!笑いました~~
うふふふふ
あのお、
スピードラーニング10年前5万円ぶん買いました~
全く身につかぬままニューヨークに行きましたよ。
あっははは
私には、英語の才能が無いのです。
10代のころ、英会話を勉強。毎日英語の歌を聴いて暮らしたのに、
ぜんぜんだめ~~なんでせう・・・・?

投稿: tokiko68 | 2012年5月 1日 15:14

tokiko68 さん:

YouTube は、見れば見るほどステマですね (^o^)

アメリカで何年暮らしても、まともな英語ができないできない人もいます。

これは、「関わり方」の問題だと思います。
ですから、アメリカに行って、アメリカ人と恋に落ちて、半年一緒に暮らせば、確実にペラペラになります (^o^)

投稿: tak | 2012年5月 2日 13:09

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