私は仕事として、中小企業や団体、個人商店などのパソコン使用のコンサルをすることがあるのだが、これがもう、本当にやっかいなのである。
まず、ID と パスワードということに関しては、私の担当している事業所の約半数で、PC のディスプレイのフレームに、パスワードを記したポストイットが貼り付けられている。しかも 1枚だけでなく、何枚も貼り付けてあるという強者もいる。
「これ、一体何ですか?」
「えぇと、これは PC を起動する時のパスワードでしょ。こっちは、メールのパスワード。それからこれは、えぇと、何だっけな? 忘れちゃった」
てな会話はしょっちゅうである。PC 起動の際のパスワードとメールを読む時のパスワードが別物であるということをわかっているだけ、まだましだ。ただ、メールを読む時は一々パスワードを入力しなくてもいい設定にしてあげてるんだから、もう剥がしといてもらいたいんだけどなあ。
それから、プロバイダから割り当てられた乱数表で作ったようなパスワードは、さっさと憶えやすいのに変更しておいてもらわないと、いざというときに、また大騒ぎになる。
実は、オジサン、オバサンの PC ユーザーのお守りをしていて、一番多い依頼は、「前に作った書類(あるいは、前に撮った写真)がどこに行ったかわからなくなっちゃったから、なんとか探して欲しい」というものである。「あぁあ、またかよ」ってなもんだ。
ファイルを迷子にしてしまったオジサンの PC を立ち上げてみると、ドキュメント・フォルダ (Windows XP の頃までは 「マイ ドキュメント」 といわれていたやつ) の中がわけのわからないファイルで一杯だ。ほとんどが Word ファイルで、Excel ファイルはほんの少ししかない。こうした状態でファイルが行方不明になる要因は、次の二つだ。
- Word 文書のファイル・ネームが、自動的に文書の 1行目の文字 (「拝啓」とか「お問い合せ」とか「お願い」とか「○○様」とか「リスト」とか「予定表」とか「お世話になっております」とかがやたら多い)となっていて、内容がわからないので探しようがない。
- 自動的に付けられたファイル・ネームは既に存在していることが多いので、つい上書きしてしまい、前に作ったファイルが消えてしまう。Excel ファイルをいくつ作っても、"book1" という名前のまま上書きするので、前のファイルは全て消えているという人もいた。
というわけで、私は「新たなフォルダを作って内容ごとに管理保存するといっても、なかなか難しいでしょうから、せめて新規文書は後から探しやすいように、内容のわかるファイル・ネームを自分で付けて保存してくださいね」と、何度も何度も懇願するように言うのだが、これがまともに実行されたことは数えるほどしかない。
ドキュメント・フォルダを開いてみると、わけのわからない書きかけの文書の方が、完成文書よりずっと多い。多分、書きかけた書類のありかがわからなくなって、何度も最初から書き直した結果がこれだ。それで、どうでもいい書きかけはいつまでも残って、重要ファイルは決まってどこかに消える。
そもそも PC で文書を作るのは、単に「印刷文字で清書するため」で、一度印刷した文書はそれで用済みと思っている人がまだいる。それは貴重な「データ」であり、後で何度も使い廻すものだとまともに認識している人は、実際のところそれほど多くない。まともに認識していさえすれば、もう少しまともなファイル管理をするだろうというものだ。
そんなこんなで近頃私は、「ファイルを保存する時は、余計なことは何も考えなくていいから、自動的に付けられる文字の前に、ちょこちょこっと日付を入れるクセを付けてください」とお願い(まさに、こちらがこれ以上くだらないことで煩わされないための「お願い」だ)することにしている。
例えば最初の行が「拝啓」で始まる手紙の Word 文書を保存する時は、自動でふられる「拝啓」の前に、その日の日付を入れる。2012年 5月 4日だったら、「120504拝啓.doc」あるいは「120504拝啓.docx」というファイルネームにする。
そうすれば 1年後に探す時にも、ドキュメント・フォルダを開けば全てのファイルが時系列でずらりと順序よく並ぶから、「えぇと、去年の今頃に書いた手紙なんだけど……」と憶えてさえいれば何とかなる。ああ、自動的にこうした日付が入るシステムだったら、どんなに楽だろうか。
ところがせっかくそれを教えてあげても、後からドキュメント・フォルダを開けてみると、「拝啓」の後に日付を付けちゃって、全然時系列で並んでいなかったり、ちゃんと前に付けてあっても、全角と半角がむちゃくちゃに入り混じって、ものすごく見づらくなっていたりする。
さらに、せっかくファイル・ネームに日付を入れるクセを付けても、重要文書を保存する時に限って狙い澄ましたように、その原則を忘れていたりするものだから、かえって探しにくくなっていることもある。こうしたマーフィーの法則は、ここぞという大切なファイルを保存する時ほど発動しやすいようなのだ。
そして、ファイルが探せなくなる 2番目の理由 ―― 同じファイル・ネームで上書きしてしまうということになると、これはもうお手上げだ。毎年の恒例行事の参加者リストなんて、去年のリストが 10年以上前に作ったファイルネームのままで保存されている。
「平成12年度お客様感謝会出席者名簿」なんていう名前のファイルで毎年延々と上書きされているので、「3年前は誰が来てくれてたっけ?」 なんていっても、もう調べようがない。だから言ってるでしょ。ファイルは「データ」であって、清書原稿じゃないんだって。
それから、ファイルの保存場所が決まっていないという人も多い。何も考えずに、デフォルトの 「ドキュメント」 フォルダに日付を入れて保存しさえすれば、どんなに時間が経っても必ず探し当てられるのに、気まぐれにいろんな場所に保存する。
どこかの親切な(あるいは余計なお世話好きな)人が、「OS を再インストールしても消えないように、マイドキュメントは D ドライブに入れとくといいよ」なんて言って、中途半端な設定をしてくれた結果、保存場所が C ドライブと D ドライブと、さらにデスクトップの 3カ所に分散したりしている。
それだけでなく、下書きがデスクトップにあって、一応の完成ファイルが C ドライブ、さらに翌年に書き直したのが D ドライブにあったりして、どれが本物なんだかわけがわからない。
なぜか「マイ ドキュメント」というフォルダが、あちこちにある人もいる。C ドライブのなんとかいうフォルダの中に「マイ ドキュメント」というサブフォルダがあり、さらにその中に …… なんていうこともあって、もう収拾がつかない。
よっぽど意識的にやらなければ、こんな芸当はできないだろうと思ってしまうが、当人はまったく無意識のうちに、あっけらかんとドラッグ&ドロップでコピーしたり移動したりしてしまう。そして、あっちのマイドキュメントに保存したものをこっちのマイドキュメントで探し、「ファイルがなくなった!」 と大騒ぎする。
こんな人は「新しいフォルダ」「新しいフォルダ(1)」「新しいフォルダ(2)」「新しいフォルダ(3)」 …… と、延々と続く新しいフォルダを作って自爆するのが得意でもある。何がどこに入っているのかさっぱりわからないし、ほとんど同じだが少しずつ違う内容のファイルがあちこちにあったりする。まさに念入りに時間をかけて作られたカオスである。
「一杯撮りためた写真が、どこに行ったかわからなくなって……」という人がいたので、コンピュータの中を "*.jpg" で検索してあげると、出てくるわ出てくるわ、ありとあらゆるところにいろんな写真が保存されている。それらを全部カット&ペーストで、デフォルトのピクチャ・フォルダに移動してあげた。
驚いたことに、すべての写真に「平成○年○月○日○○懇親会 1」「……2」「…… 3」とか「平成○年○月○日○○京都旅行 1」「……2」「…… 3」とか、ご丁寧な名前が付いている。番号はたいてい 10ぐらい、多いのは 50ぐらいまで続く。この人のことだから、ファイルネームを付けるのに、コピペじゃなくていちいち手入力したんだろうなあ。
「いちいち名前なんか付けないで、いついつの懇親会とか旅行とか、それ用のフォルダを作って、まとめてごそっと放り込めばいいんですよ」と教えてあげると、「いやあ、新しいフォルダを作るのが面倒で ……」なんて言う。写真一つ一つに 50回も名前を付けて保存する方が、何十倍も面倒だと思うがなあ。
最近のずっこけ例に、こんなのがある。あるお店のウェブサイトを構築するという小仕事をしたのだが、1年ほど経ってから 「何度お願いしても、内容が全然更新されていなくて、最初に作ってもらった時のまま、放りっぱなしになっている」とクレームが入った。
こちらは依頼が入るたびに、きちんと確認しながらコンテンツを更新しているので、「それはきっとキャッシュを拾ってるんですから、F5 キーを押して最新の表示を見てください」と言ってきたのだが、どうも様子がおかしい。いくら押しても更新されないというのである。
一体どうなってるんだと、久しぶりにその店を訪問して、彼の PC で自店のサイトを表示させてみた。すると、彼はなぜか IE を立ち上げずに、ローカルのデスクトップに置かれたフォルダを開き、「慣れないもんだから、こうしないとアクセスできないんだよね」なんて言って、その中の "index.html" というファイルをクリックする。
「ちょっと待ってくださいよ! それって、去年こっちから確認用にとお渡しした最初のデータでしょ! いつまでもそんな用済みのデータを見てないで、今生きてるインターネットの方を見てくださいよ」
そう、彼は自分のローカル PC に保存された確認用の一番初期のファイルを、ずっとインターネットだと思って見ていたのである。せっかく IE の「お気に入り」に登録してあげてるんだから、素直にそこからアクセスすればいいのに、自分のホームページはちょっと特別なアクセス・ルートがあるとでも思っていたのだろうか。
「あなたは、みんなが見てる "あっち" じゃなくて、古いまんまの "こっち" ばかり見てたんですよ」 と説明してあげたのだが、どうして自分の店のホームページが "あっち" にあるのか、どうもしっかりとはわかってくれなかったみたいなのである。
フツーの企業がお休みの GW になると、急にこういうのが増える。ああ、疲れるなあ。
私が最近、「いつまで経ってもヒイヒイ言ってるんなら、パソコンなんていうやっかいなものはさっさと諦めて、早いとこ iPad に乗り換えなさい」 と、周り中のオジサン、オバサンに薦めているのは、こんなことからでもある。
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