「世間の空気」と一体化している人
先日カーラジオを聞きながら運転していたら、「誰かとどこかで」という番組で永六輔さんが、「最近タレントが、自分の不祥事をカメラの前で涙ぐみながら詫びるのを見たけど、あれって、一体誰に謝っていたんだろう」と、いかにも不思議そうにおっしゃった。
アシスタントの遠藤泰子さんが「視聴者にでしょうかねえ」と言うと、永さんは「だって、視聴者は別に迷惑を被ってないもの」と、さらに不思議そうにおっしゃる。「お騒がせして申し訳ありませんなんて言って、頭を下げてるんだけど、別にそんなことなくて、視聴者は逆におもしろがってるだけなんじゃないの?」
この「自分の不祥事を、カメラの前で涙ぐみながら詫びる」という行為は、私も最近、たまたまテレビで見た。なんだか知らないが、「二股交際疑惑」なんだそうだ。私はその二股交際劇の登場人物は、この謝っているやつも含めて三人とも知らない。
だからその間の事情はさっぱりわからない。わからないけれど、改めてググってみるほどの意味があるとも思えない。ほかのことなら、わからないままだと夜眠れなくなっちゃったりすることもあるのだけれど、この類のことは、わからなくても全然構わない。夜もよく眠れる。
とまあ、その程度のことなので、私としてはそれを見ておもしろがっている視聴者のレベルにも達していなくて、「何だか知らんけど、こいつ、何で謝ってるんだ?」と思いながら、ぼんやりと眺めていた。
少なくとも、私自身はあのタレントに「謝られている」とは全然思わなかった。だって、全然知らん男が知らんところで、知らん女二人にちょっかい出していたなんてことで、私には謝られる理由が全然ない。あれは、誰か別の人間に謝っていたんだろうと思っていたが、そうだとして、よく考えると、はて、一体誰に謝っていたんだ?
永六輔さんが不思議がるのも無理もないのである。
後から考え直すと、あれは多分「世間の空気」というものに対して、一応謝ったふりをしていたんじゃなかろうかと思う。謝ったふりをしつつも、そんなことをしている自分が何だか情けなくなって、思わず涙ぐんじゃったりしたのかもしれない。
ということは、自分が「世間の空気」というものの一部と感じている人たち、あるいは「我こそは世間の空気である」と自認している人にしてみれば、もしかしたら、あれは自分に対して謝っているんだと感じることができたのかもしれない。してみると「世間の空気」というものは、ずいぶんエラそうなのである。
なるほど、世間には何だか知らないけれど、自分の手柄でもないどうでもいいことを、ずいぶんエラそうに得々と話したがる人が少なくないのも道理であると、還暦も近くなった今日、ようやく納得したわけである。
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コメント
tak-shonaiさん
私はまだ、わかりません・・・・
どういうわけで、
テレビの方々は
人を謝らせるのでしょうか。
その男のこと以外でも、
タレントさん達のお詫びショーは
いつも感じます。
投稿: tokiko | 2012年5月19日 15:13
tokiko さん:
勝新の頃までは、芸能人はそんなことで謝ったりしませんでしたけどね。
一体何を求めてるんだか、私もさっぱりわかりません。
投稿: tak | 2012年5月19日 21:05
たしかに、その男性が謝らなければならない相手は当事者の女性二人だけですよね。少なくとも一般人だったらそうなる。で、ビンタの一つや二つくらうことにより痛い思いをし、かつ男を下げる
。
いろいろ考えてみると、たぶん「謝罪会見」という言葉が間違っているような気がします。謝罪するために会見するのではなく、深く反省しているというジェスチャーを見せて、みそぎを済ませるのが意図なわけですから。「世間をお騒がせ」すること自体は、少なくともその手の話題に関心のある人からなる「世間」にとってはむしろ好ましいことだから、きわめてシニカルというか便宜的なセリフです。ただ、繰り返されることで謝罪インフレが生じているので、今後はもう少し芸のあるところを見せる必要があるかもしれません。
「不倫は文化だ」とうそぶいたという某タレントの発言は、「余計なお世話だ」という気持ちの発露と考えれば正しいような気がしてきました。わはは。
投稿: きっしー | 2012年5月21日 09:53
きっしー さん:
>謝罪するために会見するのではなく、深く反省しているというジェスチャーを見せて、みそぎを済ませるのが意図なわけですから
まさにそうなんでしょうね。
だから、「申し訳ありませんでした」なんて言葉は本心じゃないと、バレバレなわけです。
>繰り返されることで謝罪インフレが生じているので、今後はもう少し芸のあるところを見せる必要があるかもしれません。
「謝罪芸」 なんて言葉ができるかもしれませんね (^o^)
投稿: tak | 2012年5月21日 20:24