「熱い/暑い」と「厚い」のアクセントの違い
最近、というより、かなり前から気になっているアクセントの混乱がある。それは「熱い心」とか「熱い戦い」という場合の「熱い」のアクセントである。これを平板で言う人がかなり多いのだ。アナウンサーの中にも平板で言う人が珍しくない。
当然ながら「熱い」の本来のアクセントは、中高型、つまり 真ん中の「つ」にある。語源としては「暑い」と同じなのだから、考えるまでもなくそうなる。(関西アクセントだと 「あ」 にあるようだが、ここではいわゆる「標準語」を基準とする)「暑い日」や「暑い夏」という場合の「暑い」を平板型アクセントで言ったら、かなりの違和感になる。
ちなみに「熱い鉄板」は、大抵の人がちゃんと「つ」にアクセントをおいて発音する。これを平板で言ったら、意味が変わってしまう。 「厚い鉄板」に聞こえてしまうからだ。ところが、「熱い心」や「熱い戦い」はなぜか、多くの人が「厚い心」とか「厚い戦い」のアクセントで言う。
これを平板で言ってしまう人というのは、発音する時に頭の中に漢字が浮かんでいないんじゃないかと思う。多分平仮名で考えているのだ。それを漢字にさせたら、「厚い心」とか「厚い戦い」(「熱い戦い は「熱戦」なんだから「厚い戦い」のはずはないのだが)とか書いてしまう人が何割かいると思う。
つまり、まともに意味を考えずに、単なる慣用句として使っているのだ。きっと。
翻って、庄内弁で考えると、「熱い/暑い」と「厚い」は、明確に区別される。なにしろ、別の単語になるのだ。庄内弁では「熱い/暑い」は「あちぇ」あるいは「あっちぇ」であり、「厚い」は「あっづ」である。「あっちぇ鉄板」と「あっづ鉄板」は、間違いようがない。
共通語においても、「熱い」は極まると「あっちっち!」なんて言うが、「厚い」はいくら強調してもそんな言い方には決してならない。「くそ暑い」とは言うが、「くそ厚い」とは言わない。そして「分厚い」とは言うが「ぶ暑い」とは言わない。
もしかして、古代においては「熱い/暑い」と「厚い」は、意味だけでなく発音まで微妙に違っていたのかもしれないと、私は思っている。
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コメント
コメリ(ホームセンター)のテレビ、ラジオCM
会社名を平板で発音しています。
(因みに新潟在住です)
周囲の人は”コ”にアクセントを置いて発音しているが、それは間違いですよ言わんばかりに
平板で連呼されるから、頭にきてコメリでは買い物をしないことにしている。
”ギター”ピアノ”など業界人がわざと平板で発音していたが現在はアナウンサーまでが
平板で発音している。
大人が、あるいはアナウンサーまでが若者に迎合していうように見える。
日本全国”北関東”化しているのか。
この地域は雨、飴、箸、橋のアクセントが曖昧ですよね。
駄文失礼しました。
投稿: coolman | 2012年5月16日 08:30
coolman さん:
私もつい最近知ったばかりなのですが、コメリは、元々は 「米利商店」 だったらしいので、由来からすると、どうやら平板が自然のようです。
念のため Wikipedia で調べたら、
社名は、現会長の父が米穀商を創業した際に、米屋の「米」と捧家の屋号「利右衛門」の「利」を組み合わせたことによる
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%A1%E3%83%AA
とありました。「へぇ!」 です。
ちなみに、インターネットの世界では 「CM では 『メ』 にアクセントを置いている」 と書いている人が多いようですが、どういう耳をしてるんでしょうかね。
どう聞いても平板ですよね。
明確なアクセントがない、というか、アクセント感覚がデタラメなのは、北関東から東北太平洋側の宮城あたりまで広がっています。
仙台出身の妻は、「柿」 と 「牡蠣」 を区別して発音するのに四苦八苦しています。
投稿: tak | 2012年5月16日 09:28
猛暑のときに「ぶ暑い」を使うと、とても実感がこもっていいかもしれない…(笑)
「ギター」「ピアノ」はどうなんでしょう。
「ギター」は、以前は「ギ」にアクセントがあるのが普通だったように思いますが、最近は「ター」の方になっているように思います。何か英語の発音に近くて、その方が違和感がないような気もする。
「ピアノ」に関しては、(30年以上前ですが習っていた頃の印象としては)平板に読むのが楽器名としてのピアノ、「ピ」にアクセントが来るのが、強弱記号としてのピアノ(フォルテの反対語としてのp)、だと思っていました(英語のpianoはaにアクセントが来るのかな)。
投稿: 山辺響 | 2012年5月16日 10:08
試しに「熱い戦い」と「アツい戦い」でググってみましたが、「熱い戦い」が9,040,000 件に対し「アツい戦い」が21,800,000 件でした。
ポジティブな熱血イメージを表現する際の「熱い」が「アツい」に置き換わった経緯はちょっと気になりますね。
投稿: S太郎 | 2012年5月16日 11:02
山辺響 さん:
>猛暑のときに「ぶ暑い」を使うと、とても実感がこもっていいかもしれない…(笑)
実感がこもりすぎて、口に出しただけで暑苦しくなりそうなので、使わないでおきます ^^;)
「ギター」「ピアノ」はどうなんでしょう。
ちょっと試しに口に出してみたら、私の場合はギターは 「ギ」 にアクセント置きますが、ピアノは平板ですね。
しかし、庄内弁モードの時は、ピアノは 「ア」 にアクセント置いています。
(まるで別の単語みたいです)
アクセントだけ取れば、庄内弁の方が英語に近いようです ^^;)
投稿: tak | 2012年5月16日 13:08
S太郎 さん:
>試しに「熱い戦い」と「アツい戦い」でググってみましたが、「熱い戦い」が9,040,000 件に対し「アツい戦い」が21,800,000 件でした。
驚愕の事実です!
そうか、あれってもはや、「熱戦」 じゃなくて、あくまでも 「アツい戦い」 だったのか!
本文で 「多分平仮名で考えているのだ」 と書きましたが、実はそれどころじゃなく、カタカナで考えていたんですね!
…… と驚いて、少し気を取り直し、「""」 を付けてググり直したら、
(「""」 を付けないと、一つながりの言い方でない場合も含まれてしまうので)
”熱い戦い” 1,240,000件
"アツい戦い" 122,000件
でした。少しホッとしました。
でも、10%近くは 「熱戦」 じゃなく、カタカナで考えてるんですね。
あるいは、「アツい」 は、わざわざ手間をかけて変換しているだろうことを考慮すれば、10%以上かも。
>ポジティブな熱血イメージを表現する際の「熱い」が「アツい」に置き換わった経緯はちょっと気になりますね。
その通り。とても気になります。
投稿: tak | 2012年5月16日 13:13
S太郎さん:
追伸です。
"熱い心" は 352,000件
"アツい心" は 54,600件 でした。
これはまた、すごい!
投稿: tak | 2012年5月16日 13:39
いやいや、「""」 つけずに検索してしまいました。失礼をいたしました^^
しかし「アツい」という表現は相当定着しているようですね。
投稿: S太郎 | 2012年5月16日 17:36
ふ~~ん
すばらしい~~
そんな言葉のアクセントについて
考えたこともなかった。
ただ、
私の子供の頃、ジャージーという布の生地名を知った。
それは、ジャーにアクセントがついた。
私が、35才ころ、
関西に住んでいたが、ジャージーでできたスポーツ服が
「ジャージ」とよばれていた。
「ジャージ」は、平坦に発音されていて
驚いたものです。
コメリが
米利だったんですね?
それじゃ、仕方が無い。平坦に発音いたしましょう~うふふ
投稿: tokiko | 2012年5月21日 13:13
tokiko さん:
「ジャージ」は既に日本語です。
「カルタ」が日本語であるように (^o^)
投稿: tak | 2012年5月21日 20:27
NHKのアクセント辞典に「暑い/熱い」と「厚い/篤い」のアクセントは明確に異なる記述になっているのに、NHKのアナウンサーまで平板に発音するのが気になってしかたありません。
「厚い戦い」などと発音するのを聞く度に「何センチや!」と突っ込みを入れています。
投稿: SKG | 2013年3月30日 09:37
SKG さん:
最近では、物体が熱い場合は「暑い」と同じアクセント、物体ではないもの(試合とか戦いとか心とか)が熱い場合は平板型アクセントという、まことに妙なことになりつつあるようで、平板型の場合は漢字ではなく 「アツい」と表記すべきという結論に、私の中では達しつつあります ^^;)
投稿: tak | 2013年3月30日 16:06
初めまして。庄内氏の意見に同意です。
先日のリオ五輪の開会式の中継でもNHKの佐々木彩キャスターが「これから17日間の厚い戦いが繰り広げられます」言っていた。だけど後に柔道優勝のブラジル選手の紹介は「地元の熱い声援を受けて」と正しい発音。不安定この上ない。
TBSラジオの「明日へのエール言葉に乗せて」では西村幸太郎が、神田のカレーの話で、「厚い戦い」と二回も言った。ま、間違いながら彼は安定しているけど。
これは育った場所に関わる発音の問題なのだろうか、今、言葉に関する筆頭の関心事項だ。
投稿: かぼねこ | 2016年9月27日 11:16
かぼねこ さん:
「厚い戦い」 は OK でも 「厚い声援」は NG という感覚なのかも知れず、形容される名詞によってアクセントが変わるのかもしれません。「熱い声援」 は何度言っても 「厚い声援」 にはならないじゃないかとも思われ、そうだとしたら、「不安定」というわけでもなさそうです。
投稿: tak | 2016年9月28日 00:18