バイオミミクリーの可能性
「バイオミミクリー」 という言葉をご存じだろうか。元々は英語のようで、"biomimicry" とつづる。読んで字の如く、「生物」 を意味する "bio" と、模倣するという意味の動詞 "mimic" の名詞形である "mimicry" の合成語だ。
日本語の定訳というのはまだないようで、「生物模倣」と直訳されたり、時には「生体工学」などと言われたりする。もっとも「生体工学」というのは Wikipedia によると "bionics" の訳語であるようで、biomimicry を 生体工学と言ってしまうのは、ちょっと誤訳になるだろうと思う。
「バイオミミクリー」という項目の Wikipedia の日本語ページは、今日現在では確認できないので、これはまだ、新しいコンセプトといっていいだろう。とはいえ、最新の競泳用水着がカジキマグロの肌を模倣して作られたとか、新幹線の形状が水鳥のくちばしの形を真似たとかいうストーリーはよく知られている。これらがバイオミミクリーの成果である。
さらに、犬の体表面に植物のイガがくっついて離れにくいことからベルクロ(マジックテープ)が作られたとか、ハスの表面の撥水/自浄作用をヒントに、汚れにくい外壁用塗料やタイルを実現した「ロータス効果」などが知られている。
こうした工業的成果ばかりが先行しているので、「生体工学」という言葉で訳語に代える風潮があるようだが、バイオミミクリーの可能性はそればかりではない。CSR の第一人者である岡本享二氏は、生物の社会行動的なものにも注目し、「昆虫脳」や「ファーメンテーション・セオリー」などといったコンセプトを提唱しておられる。
昆虫の脳は、人間の脳の 100万分の 1 程度の質量しかないのに、立派に機能しているのは、頭の中にあるのは半分程度で、残り半分は「神経脳」として、体中に分散しているからなのだそうだ。これによって、時には人間の脳よりも優秀な機能を発揮したりできる。
昆虫脳を人間社会に応用すれば、コンベンショナルな中央集権制を越える機能分散的なシステムを想定できる。事実、アメリカのカトリーナ台風や日本の東日本大震災などの危機的状況においては、中央政府の機能はあまり役に立たず、現場の情報をネットワークで結んだ分散的な NPO の働きが、効果的に機能した。
中央集権システムは、ある程度の規模を越えると、あまりまともに機能しなくなる。とくに危機的な状況においては、現場の小回りの利いた動きの方がずっと役に立つ。
「ファーメンテーション・セオリー」というのは、酵母菌の発酵(fermentation)にヒントを得ている。人間社会では、組織が大きくなればなるほど、直接目的とする機能とはあまり関係のない、総務部とか管理部とか人事部とかいう間接部門が増える。しかし、酵母菌はどんなに増殖しても、余計なものは生み出さない。
これも、過度の中央集権システムのナンセンスさをうかがわせるに十分なコンセプトである。間接部門の連中 (お役所がその代表的存在) が自分の職を失わないために、どんどん余計な仕事を作っていくという愚は、もうそろそろ止めにしなければならない。
今日的には、例えば電力会社が独占的に発電事業を行い、それを遠く離れたところまで配電しまくるというのは、非効率だということである。原発が低コストだというのは、中央集権的電力配給という因習の中での発想でしかないことに気付かなければならない。
もっとも、急に今の体制を変えることはできないから、当面はなんとかやりくりしなければならないのだが、そもそものことをいえば、「本当にそんなにエネルギーを使う必要があるのか?」という疑問にまで立ち返らなければならない。パラダイム・シフトというのは、実は我々に緊急に迫られた問題だということだ。
バイオミミクリーというのは、その意味でも「生体工学」なんていう狭い分野の話ではないようなのである。
| 固定リンク
「哲学・精神世界」カテゴリの記事
- 「陰謀論を信じる人」に関する「面白くない」研究結果(2023.11.03)
- 「言っちゃいけないこと」を言っちゃう「正しい人」(2023.10.21)
- アメザリを踏みつぶすことと、「いじめ」の心理(2023.09.04)
- 「頭で考えない」ことと「スパイト(いじわる)行動」(2023.01.13)
- スーパースターとなって「暫らく〜ぅ」と叫ぶ(2023.01.01)
コメント
すみません…。
はじめて“耳”にする言葉に…。
「バイオの力で耳(耳穴)をクリーンにしてくださる商品」と、勘違いしちゃったアタクシは、耳かき多用者です。
投稿: 乙痴庵 | 2012年6月11日 22:13
え~、「地球ガイア説」なんてもんがありますな。地球自体も一つの生命体だという。
なんとも粋じゃありませんか。「お天道様」「お月様」ときて、「ガイア君」でありますよ。
そう、我々も、その上でおこぼれを頂戴して生きている、チリというか、バクテリアみたいなもんでござんすよね。
昨今のご時勢を見ると、チリのくせに何を思い上がったことをしてやがる、てえ感じですな。
一体、宇宙のどこに我々が住める星があるんでぃ,我々は、ここで、ガイア君のご機嫌を損ねないよう、生きていくしかないんだから、思い上がりもたいがいにしやがれ、てな塩梅でゲスな。
投稿: 下等生物下衆マリオ | 2012年6月11日 23:33
乙痴庵 さん:
「ウサギに学んだ耳清浄液、"耳クリーン" を" をどうぞ !」なんてものが出てくるかもしれませんな。
あの小林製薬あたりから (^o^)
投稿: tak | 2012年6月12日 19:42
下等生物下衆マリオ さん:
まさに!
投稿: tak | 2012年6月12日 19:45