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2012年10月31日

労働の報酬と満足度は、単純には比較できない

昨日も書いたことだが、60歳の定年になってからも元の会社にとどまると、仕事の内容はほとんど変わらないのに、身分は「嘱託」 ということになり、給料は大体元の 4割以下ぐらいになってしまうらしい。それについて私は、「そりゃひどい」と書いた。そんなにも給料を減らすなら、週に 3日か 4日ぐらいの勤務にして、負担を減らすべきだろう。

とはいえ、高い報酬を得ることが仕事のモチベーションを高めるかといえば、そうとも限らないらしい。「認知的不協和」ということを提唱したアメリカの心理学者、レオン・フェスティンガーの興味深い実験がある。

フェスティンガーは、単調な作業を行わせた学生に報酬を支払い、次に同じ作業をする学生に、その作業の楽しさを伝えさせるという実験を行った。実験では学生を 2つのグループに分け、片方には 1ドル、他方には 20ドル(だったかな?)の報酬を与えた。そして、どちらのグループが「仕事の楽しさ」を伝えられるかをリサーチしたのである。

単純に考えたら、どうでもいい単調な作業で 20ドルもの金をもらえたグループの方が、「楽しかった」と伝えるだろうと思いがちだろう。しかし実際には、たった 1ドルの報酬を受けた学生の方が、報酬が多い学生よりも楽しさを伝える度合いが強かった。

フェスティンガーは、割に合わない報酬しか得られなかった者は、認知に修正を加えて不協和を解消しようとする心理が強く働いたのだと説明する。そのまま受け取れば、馬鹿馬鹿しい労働をしたということになるのだが、それでは気持ちに収まりがつかない。そこで「本当は面白かったのかもしれない」と、思う心理が働くのである。

これを「仕事の価値は報酬の多寡によって決まるものではない」という結論に強引に結びつけたがる人もいるが、それはちょっと単純すぎるというもので、「仕事の楽しさは、心のもちかた次第」というぐらいに控えめに言う方が正しいだろう。

この実験は「単調な仕事」、つまり、フツーに考えれば「つまらない仕事」を前提にして行われたものだ。高度な知的処理や経験が必要な仕事でも、「報酬が少ない方が楽しいと感じる」ということは言えない。まったく言えない。高度な仕事に対して正当な報酬が得られなかったら、多くは「報われていない」と不満を感じるだろう。

ただし「本当に人の役に立つ仕事を成し遂げた」という実感さえあれば、たとえ報酬がそれほど高くなくても、かなりの満足感を得ることができるというのは、経験から言っても事実である。周囲に喜ばれるというのは、多少の金をもらうより嬉しい場合がある。

社会のために役立つというわけでもない利己的な仕事の場合は、それこそ「濡れ手に粟」みたいなボロ儲けでもできないと満足しないが、「社会や地域に明らかに貢献できる仕事」というのは、安月給でも案外楽しんで続けられるものである。

人間というのは、それほど利己的な存在ではない。

 

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コメント

俺だったら20ドルもらえる方が嬉しいかなあ

投稿: hiroyuki | 2012年10月31日 18:07

hiroyuki さん:

>俺だったら20ドルもらえる方が嬉しいかなあ

高い報酬と安い報酬の 2通りがあるという種明かしがされていれば、そりゃ、そう思うのが当然です。

投稿: tak | 2012年10月31日 18:13

あーなるほど、報酬の額は隠して最後に渡すわけですね。
これは失礼しました。

投稿: hiroyuki | 2012年10月31日 20:26

hiroyuki さん:

そうでないと、この実験はナンセンスになりますね。

投稿: tak | 2012年10月31日 21:27

私は以前、会社でのあり方について作文を会社指定により提出したことがあります。その結論として、自分は人の役に立つことをしたいと挙げていました。
しかしそれには、よく経験して他者の要求をわかるようでなければ余計なお世話になってしまうので、経験を積んでいきたいと結んでいます。

営業の極意は、お客を好きになれということを親戚の人(80歳ぐらい)から聞きました。
嫌な仕事も、よく見定めて自分のものにしていきたい。たまにどくれて放置しますけど・・

好きでないと(こりずに)向き合おうなんてしませんから(`へ´)/

投稿: BEKAO | 2012年11月 2日 12:43

わたしも、たくさん経験を積んで、たくさんかつようできるいようになりたい。うまい選択で効率よく。

投稿: BEKAO | 2012年11月 2日 16:53

BEKAO さん:

素敵なご指摘、ありがとうございます。

投稿: tak | 2012年11月 3日 16:27

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