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2012年10月 7日

ビニール傘と日本人

日本の傘の需要は、Wikipedia によると年間 1億 - 1億3000万本で推移しており、そのうちビニール傘は半数以上の 6000万~7000万本を占めているという(参照)。あまり遠出をしない小さな子供と年寄りを除いた日本人の多くは、毎年 1本以上はビニール傘を買っているというのが実感だろう。

ビニール傘は透明なので、風の強い日に斜めにさしていても前が見えるというメリットがあるし、どこのコンビニでも安く買えるから、雨が降り出してからでも手軽に入手できる。こんなに便利なアイテムだが、日本以外で目にすることはほとんどない。どうして外国では普及しないのだろうと、不思議がる人が多い。

しかしこれは、ビニール傘に限定して考えるから不思議なのであって、そもそも諸外国、とくに西洋では、雨が降ったぐらいではあまり傘をささないということを考えれば、そんなに不思議でもない。傘そのものをあまり使わないのだから、ビニール傘なんてものもさらに要らないのである。

アメリカ中西部の家庭では、「家に 1本も傘がない」というのが珍しくないという。外出はほとんど車を使うので、雨が降っても玄関から車までちょっと走ればいい。それぐらいのことで、わざわざ傘をさす方が面倒くさい。

私自身の印象でも、西洋人はあまり傘をささない。多少の雨ぐらいなら濡れて歩くし、土砂降りになったら雨宿りする。日本ではちょっと雨が降るだけで、歩道に傘の花が咲き乱れるが、西洋ではそんな景色はあまりみかけない。

「日本人は、どうしてちょっと雨が降っただけで、傘をさしたがるのか?」と知り合いのアメリカ人(多分、中西部出身)に聞かれたことがある。そんなことを聞かれても、急には答えようがないので、「日本人は体質的に、雨に濡れると体が溶けやすいからね」と答えておいた。

冗談は抜きにして真面目に考えると、日本人が少しの雨でもすぐに傘をさす理由としては、次のようなことが考えられる。

  • 日本は湿度が高いので、雨に濡れるといつまでも乾きにくい。
  • 日本人は体格的に細身の人が多いので、雨に濡れると体が冷えやすいため、濡れないようにする意識が高い。(最近はちょっと事情が違ってきたようだが)
  • 西洋では傘は贅沢品で、高貴な人が日除けとして使うという文化が継続したが、日本では江戸時代に下級武士に傘張りの内職が広まり、それまで高級品だった傘が急に普及して、雨避けとして傘をさす文化が一般化した。
    (英語では、雨傘を "umbrella"、日傘を "parasol" と呼ぶが、語原はどちらも「日除け」の意味である)

以上の 3点セットで、日本人がすぐに傘をさしたがる表向きの理由は説明できるんじゃないかと思う。ただ、私はもう一つ 4番目の理由を挙げておきたい。

それは、日本人が「右に倣え体質」だからというものである。街を歩いていて雨が降り始めると、どんな小糠雨でも、日本人はそそくさと傘を広げ始め、開いた傘の数は加速度的に増えていく。それはまさに、あっという間である。

私なんぞは不精だから、「濡れた傘はいつまでも乾かなくて処置に困るけれど、体は体温があるからすぐに乾く」なんて言って、そのまま歩いているのだが、周囲ではほとんど全員が傘をさしているので、通り過ぎる人たちが私を憐憫の目で見るようになる。「この人、傘持ってないんだ。かわいそうに」ってな感じである。

いや、私は傘を持ってないわけじゃない。それどころか私は、いつもバッグの底に折りたたみ傘を忍ばせている人である。それは、朝の天気予報によって持ったり持たなかったりという判断をするのが面倒なので、常に入れっぱなしにしてあるのだ。つまり基本的に面倒くさがりなだけなので、持っているけど、取り出してさすのが億劫なのである。

「別に、少しぐらい濡れたって構わないんだから、放っといてよ」と思っていても、そのうちに周囲からは憐憫を通り越して、「雨なのに傘をささない変わり者」という、奇異の目で見られるようになってしまう。そうなると、私も一応日本人なので、さすがにちょっと居心地悪い。

さらに何人かの団体で歩くケースになると、仲間内で一人だけ雨に濡れている者がいるというのは見過ごせないことであるらしく、ご親切なことに、無理に傘をさしかけられて相合い傘を強要される。

「いえいえ結構です。ちゃんと傘、持ってますから」と、バッグから折りたたみ傘を取り出すと、「なんだ、ちゃんと持ってるのに、どうして使わないの?」ってな感じで、「かなり変な人」と思われる。

このシチュエーションは、感覚的にさらに居心地悪い。日本という国で暮らす者として余計なストレスを感じないためには、雨が降ってきたらすぐに素直に傘をさす方がいいようなのである。いくら面倒であっても。

というわけで、日本人がすぐに傘をさしたがるのは、横並びをよしとする文化のなせる技でもある。要するに、「回りを見ると、みんなさしてるから」 というのが、隠された一番大きな理由なのだよ、きっと。かの有名な 「沈没船ジョーク」 みたいだが。

 

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コメント

こんばんは。
私も少々の雨では傘をささないので(やはり携帯傘はカバンに常に入っているのですが)、傘をさしている人を見て、どちらかというと「あいつらアホちゃうか」と思ってしまう方です。
でも、一番awkwardな状況は、思いのほか徐々に雨が強くなってきて、今更のタイミングで傘を出さざるを得なくなった時ですね。ま、一度だけしかその経験はありませんが、傘を出すタイミングが難しい(-。-;

投稿: 亀之助 | 2012年10月 7日 19:41

亀之助 さん:

>でも、一番awkwardな状況は、思いのほか徐々に雨が強くなってきて、今更のタイミングで傘を出さざるを得なくなった時ですね。

それ、わかります ^^;)

「はいはい、俺の負けだよ、恐れ入りました!」 ってな感じですね。

投稿: tak | 2012年10月 7日 21:46

俺もビニール傘を使うことが多いです。
折り畳み傘も持っちゃいるんですが。
風が強いと壊れちゃいますしね。

投稿: hiroyuki | 2012年10月 7日 22:28

 実はあのビニール傘、環境にはあまりよろしくない代物であるようです。

 普通の傘は燃やせば骨だけが残り金属部分を再利用できますが、ビニール傘はビニールが融解してしまい分別できず、挙句に有害ガスを出したり、処理機をしばしば詰まらせてしまったりするのだとか。
 このため大半の自治体ではやむを得ず、ビニール傘はビニール傘だけに取り分け、無処理でそのまま埋め立てているそうです。

 視界の邪魔にならない理想的な傘だとは思われますが、「使い捨ての」傘としては、あまり好ましくない製品なのかもしれません。

 ちなみに傘の需要のお話ですけど、
 4.日本では雨が降ったくらいで休むことは勿論、遅刻の理由としてすら認められない、という社会風土の要請もあるかと。

投稿: kanata | 2012年10月 7日 23:50

hiroyuki さん:

日本には 「使い捨て傘」という市場ができてしまったんですね。

投稿: tak | 2012年10月 8日 16:40

kanata さん:

まさに、エコではないですね。

私は車に備え付けたビニール傘を何年も使っていますが、その他の用途ではあまり使う気になれません。
(これも、積んであるだけで、滅多に使わないので何年ももっているだけという話です ^^;)

何しろ、本文で書いたように、ちょっとの雨では傘をささないし、本降りになったら、バッグの中から折りたたみを取り出しますので、ビニール傘を使う機会がほとんどないのです。

たまに、台風や大嵐の時に壊れるのを前提として使うことがありますが、最近のビニール傘は案外丈夫で、壊れにくいですね。
そんな時、出先の傘立てに立てておくと、大抵誰かにもって行かれてしまいます。

一昨年、ビニール傘は世界に誇るフリーウェアと書いたことがあり、それはそれで OK だと思いますが、雨が降り続いているうちに、いくらビニール傘でも他人のものを持ち去るというのは、いけません ^^;)

https://tak-shonai.cocolog-nifty.com/crack/2010/07/post-8b46.html

ただ、大風で壊れることを前提としてビニール傘を使うというのは、ご指摘の通り 「日本では雨が降ったくらいで休むことは勿論、遅刻の理由としてすら認められない」 ためですね。

投稿: tak | 2012年10月 8日 16:53

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