人民元切り上げ圧力を、他人事だから呑気に考える
米国の大統領候補者、オバマ氏とロムニー氏が、揃って人民元切り上げに向けた圧力を強める姿勢を示していることに対して、中国は当然ながら反発姿勢をみせているようだ。
2人の候補者の主張が対立せずに、ほぼ共通しているようにみえる事案というのは、多分この「人民元切り上げ圧力強化」ということだけだろうから、これは米国内ではよっぽど、反対意見の出ようのない一致した主張なのだと思われる。
考えてみれば、いや、それほど考えるまでもなく、そりゃそうだと納得される。これだけ経済的に力を増している国の通貨が、何十年も実質的にほぼ固定相場制のままで推移しているのは、「反則」以外の何物でもない。
翻って、日本円の対ドルレートを考えてみよう。私の子供の頃は、「1ドル = 360円」という固定相場制の時代だった。この体制は 1949年から 71年までの 22年間も続き、おかげで、日本製品の輸出は絶好調で、高度成長の真っ只中にあった。ちょうど、今の中国と同じようなものである。
1971年、私が大学に入った年の末から、ニクソン・ショックによって移行したスミソニアン体制により、1ドル = 308円 となったが、その影響は案外あっさりと吸収された。しかし 1973年 2月からは変動相場制に移行し、以後は多少の上がり下がりはあっても、長期的に見れば明らかに円高の方向に進んできたのである。
1977~78年頃頃、円は一時的に 180円を突破して、「日本経済は壊滅的な打撃を受ける」なんて言われたが、その後は一時的に円安傾向に戻り、しばらくは 1ドル = 200円から 250円ぐらいの相場で動いていた。
ところが、私が日本の繊維業界を対外的に報道するという仕事をしていた 1980年代も後半に入ると、プラザ合意をきっかけにあれよあれよという間に円高が進んだ。おかげで私の商売は成立しなくなった。なにしろ、円が高すぎて日本の繊維製品の輸出なんて、夢物語みたいなことになってしまったのだ。
以後、私のビジネスは紆余曲折しながら現在に至る。もうそろそろ、半分は隠居みたいな暮らしに入りたいのだが、まともな蓄えができなかったから、なかなかそうもいかないのである。
1986年頃には、1ドル = 150円台にまで円高が進んだ。今でこそ、このレベルでは円安扱いにされてしまうが、当時は「未曾有の円高」だった。マスコミは「日本経済は死ぬ」と騒ぎ立てたが、どこでどううまくやったか知らないが、何とか生き延びた。
この頃は、米国に出張した時なんか、いろいろな品物の値段がものすごく安く感じられて、買い物が好きじゃない私まで、靴だの本だの美術作品だのを気軽に買いまくったものだ。「買わなきゃ損」みたいな感覚だったしね。
しかし円高の勢いはこんなところでは済まない。1990年代の半ばに 1ドル = 100円の大台を突破し、一時は 70円台という「超円高」になった。いくらなんでもこれでは行きすぎだというので、その後は上がったり下がったりの繰り返しになったが、最近はまたしても 70円台という状態になっている。
フツーに言ったら、このレートは無茶である。私の個人的印象では「1ドル = 100~120円」ぐらいが、ちょうどバランスのいいところだと思うのだが、70円台というのでは、米国人が日本に来たら、ものすごく物価の高い国に思えるだろう。実はデフレなのに。
こんな具合だと、プラザ合意の前の感覚では、日本経済はこの間に何度死んだか数え切れないほどだと思うのだが、それでも死なずに済んでいるのだから、不思議なものである。経済というのは本当にわけがわからない。ごちゃごちゃやっている間に、なんとかなるものである。
話を中国の人民元切り上げの件に戻すと、何だかんだと言っても、人民元がこのまま長期的に「実質固定相場」のままで維持されるというのは、考えにくい。中国政府も介入に手心を加えざるを得ない状態になるだろうから、人民元の対ドルレートは確実に上がっていくだろう。他人事だから、呑気にそう考える。
そうなると、「中国の安い労働力というのは、過去のお話になってしまう。問題は、中国が過去に日本がもちこたえて見せた時のような「わけのわからない底力」を発揮できるのかどうかということだ。どんなものなんだろうなあ。
下手すると、人民元がチョー高くなって、中国が世界中の不動産と株と軍備を買い占めるなんてことにならないとも限らず、それもまた困ったものなのだが。
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コメント
あれよあれよという間に円高になっちゃいましたね。
個人的には100円ぐらいの感覚です。
世代によるんでしょうね。
投稿: hiroyuki | 2012年10月19日 16:19
hiroyuki さん:
>個人的には100円ぐらいの感覚です。
円もデフレが進んだから、そのくらいがちょうどいいのかもしれませんね。
投稿: tak | 2012年10月20日 17:43