iPS 細胞臨床適用記事の教訓
例の日本人による iPS 細胞の臨床適用という記事は、どうやら「世紀の(というにはお粗末な)大誤報」ということに落ち着きそうだ。
私はこのニュースを 12日の産経朝刊で知ったのだが、その発端は 11日付読売新聞の 「スクープ記事」 だったらしい。読売新聞はこのことについて、哀れさを醸し出すような言い訳記事を発表している(参照)。
この件についての私の疑問は、次の 3つに集約される。
- 森口尚史という人は、なんでまた嘘とすぐにバレるようなことを、マスコミに語ったのか?
- 読売新聞の記者は、森口氏にインタビューした際、どうして「いくら何でも、怪しすぎ」と疑わなかったのか? もし記者が疑わなかったとしても、編集デスクの段階で、「あまりにもリスキー」という常識的な判断ができなかったのか。
- 読売の「スクープ」記事が載ってから、どうして多くのメディアが「疑いもなく」後追い記事を報じてしまったのか。
最初の疑問について一つだけ言えることは、虚言癖の人というのは、これといった目的もなく嘘を言いたくてたまらないもののようだということである。すぐにバレるような嘘でも、それを吹聴することによって一時的な陶酔を得ることの方が大切と思っているかのようなのだ。
これについては、私は 6年前の民主党のいわゆる「偽メール事件」の際に、「虚言癖のオジサン」というタイトルで書いているので、興味があったらご一読いただきたい。今回の森口氏という人も、要するに「虚言癖のオジサン」の一人なんだと思うのである。この手の人は、案外どこにでもいる。
それよりも一番の問題は、読売新聞社内部の判断のまずさである。まず森口氏に直接インタビューした記者には、「iPS 細胞の研究成果は、まだ臨床適用の段階にない」という常識的な知識がなかったのだろうか。もしあったとしたら、森口氏の言うことはにわかには信じがたいだろうから、慎重に裏付け取材をするはずだ。
しかしこの記者は多分、そんな悠長なことをしていたら、11日に開かれる米トランスレーショナル幹細胞学会で当人が公に発表してしまう(実際には、森口氏はバックレてしまったのだが)から、自社のスクープにならなくなってしまうと判断したのだろう。つまり、功を焦ってしまったのだ。
そしてこの原稿を送りつけられた読売本社の編集部も、常識的に考えたらリスキーではあるが、スクープを取りたい一心で、「えいや!」とばかりに載っけてしまったんだろう。ハーバード大学やマサチューセッツ総合病院に確認を取ろうにも、英語でさっさと話を運べるやつが手近にいなかったのかもしれない。
私だったらとりあえず、マサチューセッツ総合病院に電話して「ヨミウリという日本のメジャーな新聞社だが、当社の役員がドクター・モリグチの治療を受けたいと希望している」とでも言ってみるだろう。そうすれば、「当病院には、モリグチという名のドクターはいない」と返事されるだろうから、一発で怪しいとわかるはずだ。
発端は、わけのわからないオッサンの妄言。そしてスクープ取りたいとの欲に目がくらんだ読売の記者と編集部。さらに「横並び」でないと気が済まない日本のマスコミ体質。今回の誤報騒動は、この 3つの要素の合わせ技によるものだったのだろう。
ただ、これはもしかして、長い目で見れば案外「いいこと」だったのかもしれない。「マスコミの言うことは、とりあえずまともに信じちゃダメ」という教訓を、他ならぬマスコミ自身が与えてくれたのだから。
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コメント
そう考えるとなんだか可哀そうですね。
悪気はなかったんでしょうが。
投稿: hiroyuki | 2012年10月13日 14:07
hiroyuki さん:
>そう考えるとなんだか可哀そうですね。
>悪気はなかったんでしょうが。
虚言癖の人というのは、本当に「悪気がない」みたいなのです。
悪気なく人騒がせをするからタチが悪い ^^;)
投稿: tak | 2012年10月13日 21:40