ガラスは液体で桐は草本というお話と、知ったかぶりの危うさ
世間の常識を覆すもっともらしいトリビアとして代表的なのが、「ガラスは液体」、「桐は草本」というお話である。「えっ、そうだったの? 知らなかった!」 という反応が高レベルで期待される。
しかしこのお話、ちょっと前までは大いばりでひけらかしても大丈夫だったが、最近ではかなり様子が違ってきている。科学的知見というのは絶対的なようでいて、実は時代とともに案外ひょこひょこ変わる。
大昔の「天動説」は言うに及ばず、科学者の間の「定説」というのは、いつ変わってしまうか知れたものではないのである。現在の知見を無闇に信頼しすぎるのは、危なくてしょうがない。「いろいろな説があって、実はよくわかっていない」というのが、最も信頼できる説明だったりする。
まず、「ガラスは液体」というお話である。この説の根拠は、ガラスは分子構造的には、液体と同じランダムさを持ち、つまり結晶化していないので、固体ではなく「超高粘度の液体」と見るべきということだった。実際にある時期まではこの説は結構な説得力をもっていたようなのだ。
しかし現在では「昇温によりガラス転移現象を示す非晶質固体。そのような固体となる物質。このような固体状態をガラス状態と言う」ということに、一応は落ち着いているようだ。だから「知ってる? ガラスって液体なんだよ」と知ったかぶりをする奴は、古い知見をアップデートしていないのだとバレる。
(ちなみにこの辺のことを取り扱った小難しい「科学的な」ウェブページには、「固体」を「個体」とミス変換しているのがやたらとたくさんあって、その中には安直なコピペと思われるのも少なくなく、ちょっと腰砕けになった)
もう一つ、「桐は草本」という話。桐は木のように見えるけど本当は「ゴマノハグサ科」(「ゴマノハエ」ではない)に属する「草」で、「木と同じように加工できるから、漢字でも『木へんに同じ』と書くんだよ」と、知ったかぶりをする人が、昔はかなりいた。
実を言えば、「ガラスは液体」という話に関しては、「そりゃ、定義のしかたの方がおかしい」と疑った私も、「桐は草」と聞かされた時には、「そうだったのか。だから桐の箪笥や桐の箱は、あんなに軽いのか!」と、感動的に信じてしまった一人である。
ところが最近では、「草か木かというのは、植物分類学的にはあまり意味のない話」ということになっていて、「大多数の専門家が同意するような明瞭な植物学的な定義は提唱されていない」というのが、本当のところらしい。
ということは、「桐は木か草か」という議論自体がナンセンスということであり、Wikipedia の「キリ」という項目にも、「古くから良質の木材として重宝され」という記述はあるが、草本とか木本とかいうことは全然シカトされてしまっている。
つまり「桐が草か木か」なんてことを気にするのは馬鹿馬鹿しいということで、 フツーに木材として利用されているのだから、一般的には「木」と考えて何ら問題はないということだ。あえて意表を突いたことを言って知ったかぶりをしても、「その考えは古いんだよね」と言われて一発でアウトになる。
ああ、知ったかぶりをするというのは、何だかんだで本当に危ないことなのである。当ブログとしても、よっぽど気を付けなければいけない。
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コメント
>ガラスは液体
∑( ̄□ ̄lll)まじでーっ!
その知識が古くなる前に知りたかったです
投稿: hiroyuki | 2012年11月11日 19:50
hiroyuki さん:
何が固体で何が液体かということは、科学的真理というより人間の捉え方なんだとわかる方が重要なんじゃないですかね。
「分類」 という名の線引きは、かなりの部分、人間の都合ですから。
投稿: tak | 2012年11月11日 22:08
そっかぁ…(´・ω・`)
投稿: hiroyuki | 2012年11月12日 06:59
「ガラスは液体」は、そういうものなのかぁと感動して記憶しておりました(^^)
桐についてはその蘊蓄そのものを知らなかったなぁ。
投稿: 山辺響 | 2012年11月12日 10:22
山辺響 さん:
ガラスが液体ということに関する反応って、いろいろあるものですね。
桐が草ということに関しては、一時、永六輔さんも力説しておられました。
桐の生長した姿はどう見ても 「木」 ですが、苗木のうちは、「なるほど、草かもしれん」 と思わせる佇まいで、確かに紛らわしいです。
投稿: tak | 2012年11月12日 10:42
> 「分類」 という名の線引きは、かなりの部分、人間の都合ですから。
本当にそうだと思います。 人間って分類できると安心するみたいですね。分かったような気がして。これには進化した過程が関係しているんでしょうけど(もっとも基本的なところで敵味方、有害無害、とかでしょうか)。
ご存知かも知れませんが、「ガラスは超高粘度の液体」説には続きがあって、古い西洋の教会のステンドグラスなどで下の方が厚くなっているのはガラスが実は液体であって長い年月の間に重力で形が変化したもの、というのがまことしやかに語られており、科学の先生でもこれを今だに信じている人がいたりします。でも、計算によると重力でここまで厚くなるにはものすごい年月(忘れましたが何百万年とか?)がかかるとのことでした。
所詮私の知識なんてほとんど全部受け売りなので、takさんみたいに勉強を続けなきゃ、です。
投稿: めぐみ | 2012年11月23日 22:02
めぐみ さん:
>人間って分類できると安心するみたいですね。分かったような気がして。
まさに、その通り。
どんなに上手に分類しても、本質は別のところにあると思ったりしています。
ステンドグラスの下の方が分厚くなるためには、地球がもっとずっと大きくて、人間が生きていくのも大変なほどの、ものすごい重力を生じていなければならないんでしょうね ^^;)
投稿: tak | 2012年11月24日 23:01