カッコよく快速タイピングできるようになりたいという幻想
最近知り合ったばかりのオッサンが、「tak さん、パソコンのキーボード打つの、速いですか?」 と聞いてきた。
「まあ、速いですよ。私より速い人はいくらでもいますけどね」
「ブラインドタッチ、できますか?」
「できますよ」
「どうやって練習したんですか?」
「特別に練習なんてしたことないですよ。どうせ仕事なんだから、ひたすら実戦です」
確かに私はタイピングの練習なんて、まともにしたことがない。20代の頃に英文タイプを使い始めた時、ひたすらホームポジションに指を置くことを心がけたが、それだって、仕事で使いながらの話である。当時はタイプを打つとリボンと紙を消費したから、単なる練習だけなんて、もったいなくてできなかった。
「仕事で使いまくれば、そのうち慣れますよ」
「いやぁ、私は仕事でキーボードを打つのが遅いんで、困ってるんですよ」
「だったら、ますます仕事に集中すればいいじゃないですか。仕事以外に余計な練習するなんて、時間の無駄ですよ」
「いやあ、きちんとした練習しないと、速くなれないんじゃないかという気がするんですよね」
「きちんとした練習って?」
「例えば、ホームポジションとか」
この人、ホームポジションに指を置くのは、練習の過程でないとできないものだと思っている。普段の仕事でホームポジションを心がければいいとは、決して考えないようなのだ。
「仕事をしながらホームポジションに慣れればいいじゃないですか?」
「いや、ホームポジションに気を取られると、ますます遅くなっちゃって……。やっぱりパソコン・スクールとかに通った方がいいかなあ」
思うにこの人、快速タイピングをしなければいけないほどの仕事はしていないのだ。多分必要に迫られていない。人差し指タイピング以上のスキルは、とくに求められていないのである。
その上で、「10本指全部使って、ブラインドタッチができたら、カッコいいだろうなあ」と思っている。それだけのことだ。これって、何かに似ている。そう、仕事の上では別に英語をペラペラしゃべる必要なんてないのに、「俺も外人と英語で会話できたら、カッコいいだろうなあ」 と、漠然と思っているのと同じだ。
それで、特別な教材を買ったり、高い授業料を払って英会話スクールに通ったりする。そうすれば 「楽して自動的に英会話が上達する」と思いこんでいる。ところがそうした人たちの多くは、途中で挫折する。それは、とくに必要に迫られているわけではないからだ。単に「楽してカッコよくなれる」という幻想を抱いただけなのである。
今回登場した知人も、パソコン・スクールに通ったぐらいでは、快速タイピングができるようにはならないだろうなあ。周囲を見ても、パソコン・スクールに通った経験のある人のほとんどは、今でも人差し指タイピングで、基本操作にも四苦八苦しているが、パソコン操作の上手な人でパソコン・スクールに通ったという人は、見たことも聞いたこともない。
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コメント
使わなきゃならないといつの間にか…ですよね
英語もそうなのかあ…
(´・_・`)
投稿: hiroyuki | 2013年1月31日 19:33
hiroyuki さん:
>使わなきゃならないといつの間にか…ですよね
>英語もそうなのかあ…
そうですよ。
あるいは、必要でなくてもよっぽど好きになってしまうか、どっちかです。
投稿: tak | 2013年1月31日 20:19
快速タイピングなんて考えたこともない。でもいつの間にか指がそこに行ってる。
そんなことにためにパソコンスクールに行くって…お金がもったいない。何も印字されてないキーボードがあるようなので、それを買って実際に使えば、間違いなくタッチタイピングは上達する。
外人力士は実に自然な日本語を話す。それは日本語を話さなければ生きていけない環境だからでしょう。生き残っていくために必要なら、その能力は身につく。
投稿: ハマッコー | 2013年1月31日 20:59
ハマッコー さん:
ピアノとかバイオリンとか、あるいはフィギュアスケートとかの分野で、それでお金が取れるほどの技量を持ちたいというなら、そりゃあ、きちんと習った方がいいでしょうが、パソコンなんて、金を出して習うようなものじゃありませんね。
投稿: tak | 2013年1月31日 21:08
格好良くなりたい、ということは、習うというよりも、ファッション的な感覚なんでしょうかね?
投稿: もりけん | 2013年1月31日 23:52
「何もしてないわけじゃない。こんなにお金をかけた」と安心したい人がいて、そこにつけこむ商売人が全力でカッコよさを仕立て上げるのですから敵いません。
ところで私は、人差し指2本で高速タイプする人を2人知っています。ブラインドではありませんが、打楽器奏者のような動きで、かなり速いです。一人は30代、もう一人は60代です。2人とも研究者なので日々かなりの量をタイプしますが、問題ないらしいです。人差し指タイピングも極めればカッコいいです。
投稿: emi | 2013年2月 1日 05:44
もりけん さん:
つきつめれば、ファッションなんでしょうね (^o^)
投稿: tak | 2013年2月 1日 11:55
emi さん:
>「何もしてないわけじゃない。こんなにお金をかけた」と安心したい人がいて、そこにつけこむ商売人が全力でカッコよさを仕立て上げるのですから敵いません。
なるほど ^^;)
>人差し指タイピングも極めればカッコいいです。
米国のジャーナリストに多いですね。
昔、タイプライターの時代に、力の弱い小指で打つと文字がかすれてしまうので、原稿の正確を期すために、全部力任せに人差し指で打ったのだという説がありますが、定かではありません。
それで人差し指の超高速タイピングを "press typing" というのだと聞いたこともありますが、これも定かではありません。(何だか、怪しい気もしています ^^;)
米国のトレードフェアのプレスルームなんかに行くと、実際に人差し指でものすごい速さで打っている記者がかなりいて (PC の時代だから、打鍵の強弱は関係ないだろうに)、「ふぅん」と思ったものでした。
あれって、米国のある種のプロフェッショナルの伝統なのかも。
(Bill Gates もそうだという、もっぱらのうわさですし)
投稿: tak | 2013年2月 1日 12:16
ほう、結構いるんですか。知りませんでした。
手の指を全部使って打つのを'10-finger typing' というのに対し、人差し指タイピングを'11-finger typing'というらしいです。笑。
投稿: emi | 2013年2月 1日 13:39
emi さん:
11-finger typing とは知りませんでした (^o^)
投稿: tak | 2013年2月 1日 18:19