夫婦別姓論議を巡る冒険
夫婦別姓に関して、いろいろ議論されているが、大まかには「夫婦は同姓であるべきだ」という保守派と、「選択的別姓が認められるべきだ」というリベラル派の対立が主軸となっていると思う。で、意識調査をするとどちらも 30数パーセントの支持を得て、拮抗している。
ここではっきりさせておく必要があるのは、「夫婦別姓を容認する」という立場の人のほとんどは、「夫婦はおしなべて元々の名字を名乗るべきだ」と主張しているわけではなく、「別姓の夫婦がいてもいいんじゃないの?」と言っているだけなのである。だから法律的に夫婦別姓が認められたとしても、全ての夫婦が別姓になるわけではない。
現状の社会では、夫婦は同姓である方が何かと便利なことが多いから、多くのカップルは結婚したら同姓を名乗ることになるだろう。ただ同姓を強制されることがなくなるというだけである。
私は個人的には、夫婦は同姓である方がいいと思っている。社会的にもその方が何かと便利で、家族としても同姓の方が一体感を生じやすいし、何よりも、子供が混乱しなくて済む。夫婦が別姓である方がいいという積極的な理由を、私は見つけることができない。
それでも、そこはそれ、人にはそれぞれのこだわりがあって、「私は結婚したからといって、相手の『家』に従属するわけじゃないんだから、元の名字のままで一生を過ごしたい」と主張する人がいても、それはそれで、否定するには忍びないという気がする。「だったら、勝手にすれば?」と思うのである。それでどうなっても知らないけどね。
ただ、男の子がいない家庭が、娘を嫁にやっても元の名字のままでいてくれて、生まれた子供のうちの 1人でもそれを継いでくれたら、「お家断絶」しないで済むから、夫婦別姓に賛成するなんていう人もいるが、それはいかがなものかと思う。
名目的な「家」というものを大切にするあまり、「家族」の中に実質的な「家」が 2つあるという変則事態を容認することになる。これでは、私がよく言う「健康のためなら命も惜しくない」というパラドックスに陥ってしまうではないか。
というわけで私は「個人的には夫婦同姓を支持するが、どうしても別姓でいたいという人にまでそれを強制するのは忍びないので、『夫婦別姓』 を消極的に容認してもいい」という立場である。なんだかどっちつかずのようだが、結婚というのは基本的に 2人でするものなので、自分の主張だけに固執するわけにもいかない。
というわけで、「絶対同姓派」「別姓容認派」「絶対別姓派」の 3つの主張があるとして、それぞれの組み合わせでどうなるかというのを、以下にマトリックスで考えてみた。
男性\女性 | 絶対同姓派 | 別姓容認派 | 絶対別姓派 |
絶対同姓派 | 同姓 | 同姓 | 調整余地なし |
別姓容認派 | 同姓 | (ほぼ) 同姓 | 別姓 |
絶対別姓派 | 調整余地なし | 別姓 | 別姓 |
ご覧のように、「絶対同姓派」同士の結婚は何の問題もなく「同姓」に落ち着き、その裏返しとして「絶対別姓派」同士の結婚は、これも何の問題もなく「別姓」に落ち着く。そして「別姓容認派」は相手の主張に引きずられるだろうし、「別姓容認派」同士の結婚といっても、実際には同姓に落ち着くことが多くなるだろうと考えられる。
問題は「絶対同姓派」と「絶対別姓派」のカップルで、これはもう調整の余地がない。しかしそもそも、こんな基本的な部分で価値観が一致しない者同士が結婚を望むなんていうこと自体が稀なケースだろうから、あまり心配する必要もないと思うのである。
世間では「絶対同姓派」と「別姓容認派」が圧倒的多数で、「絶対別姓派」は極少数だろうから、結果としては、同姓の夫婦の方が圧倒的多数になるだろうと考えられる。というわけで、保守派が言うほど日本中で「伝統的な家族の価値観が崩壊することになる」というような心配は、ないんじゃなかろうか。
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コメント
私は別姓容認派です。もし自分が結婚したときに同姓/別姓が選択できたとしたら、絶対に別姓にしていました。夫が私の姓になることは夫の父に反対されました。
結婚後も働き続ける女性にとって、姓を変えることがいかに面倒くさいものか。その面倒くささは、結婚する時の諸手続だけではありません。また、諸手続は結婚する時だけではありません。資格試験受験時、資格取得時、社会人大学院への進学時など、いちいち戸籍抄本を取り寄せねばなりませんでした。
私はサラリーマンではありますが、所属組織でなく自分自身のスキルを売りにして仕事をしているので、名前というものは信用が化体した商標みたいなものになっており、オイソレとは変えたくないのです。
離婚して元の姓に戻ったのに、姓が変わったというだけで結婚したのかと勝手に思われて「おめでとうございます」といわれるウザさ、そのウザさを避けるために今では何の関係もない元夫の姓を名乗り続ける憂鬱、そういったものから自由になりたいと思うのです。
事実婚という選択もありましたが、それはそれで、特に子供を持つと別の面倒くささがあるので、ボツにしました。
結婚や家族のカタチに多様性が認められるようになってほしいと願っています。
投稿: hemp | 2013年2月19日 00:50
hemp さん:
私は本文でも書いたように「夫婦別姓容認派」ですが、容認する理由に、ご指摘の煩雑さがあるということを触れないでしまいました。
それは自分が男性で、結婚しても元の名字のままなので、あまり切実に感じなかったということもあり、少々反省しています。
投稿: tak | 2013年2月19日 00:58
いつも楽しく拝見させていただいております。私は夫婦別姓については否定派です。
明確な反対理由は子供の姓です。1人しかできない場合、子供の性別による分け方など子供の姓をめぐる双方の親を巻き込んだ諍いを内在する結婚が増えることは問題だと思います。
また、容認・積極派のあげる論点の多くは制度上の問題と社会通念上の問題を混同しているように思えます。例えば、自らの息子が女性側の姓になることを反対する親が息子夫婦の夫婦別姓を受け入れるでしょうか。職場や社会での旧姓使用に煩雑な部分があれば、その簡略化を求めれば済むことではないでしょうか。
また、制度上、別姓が可能となれば煩雑な手続きは減るのでしょうか。配偶者や子供と姓が異なることにより、また、婚姻関係の継続がより不明確になることにより、諸手続きにおける面倒が増える場面も多いのではないでしょうか。
表で示されている「絶対別姓派」は、結婚にあたり自分の姓を変えたくない人なのでしょうか。それともお互い従来の姓を維持すべきという人でしょうか。個々の結婚観と制度の議論が混同されることが多くの消極的容認派を作り出す原因かなとも感じます。
「多様性を認めて欲しい」だけでは社会的に長く運用されてきた制度を変えるには弱いと思います。多様性の観点では、結婚を機に新たな姓を作ること、同性婚、重婚なども議論の俎上にあがると思うのです。
制度変更の際の社会的なコストは消極的容認派の方の想像以上だと思います。
投稿: tetoo | 2013年2月19日 07:52
tetoo さん:
>明確な反対理由は子供の姓です。1人しかできない場合、子供の性別による分け方など子供の姓をめぐる双方の親を巻き込んだ諍いを内在する結婚が増えることは問題だと思います。
結婚の際に別姓を選ぶ限りは、そのあたりまで想定して事前にクリアしておくべきだと思っています。周囲がとやかく言ってもしょうがないので、自己責任です。
>例えば、自らの息子が女性側の姓になることを反対する親が息子夫婦の夫婦別姓を受け入れるでしょうか。
こればかりは、「親がどう思おうと、仕方がない」という世界になるでしょうね。多少のぎくしゃくはあるでしょう。
それも想定した上で別姓を選ぶなら、そこまでとやかく言わないというのが、私の立場です。
>また、制度上、別姓が可能となれば煩雑な手続きは減るのでしょうか。配偶者や子供と姓が異なることにより、また、婚姻関係の継続がより不明確になることにより、諸手続きにおける面倒が増える場面も多いのではないでしょうか。
それはあるでしょうね。
それを想定した上で、別姓を選択するならすればいいと思っています。
本文中で、"「だったら、勝手にすれば?」 と思うのである。それでどうなっても知らないけどね" と書いているのは、そういう意味合いです。
>「多様性を認めて欲しい」だけでは社会的に長く運用されてきた制度を変えるには弱いと思います。多様性の観点では、結婚を機に新たな姓を作ること、同性婚、重婚なども議論の俎上にあがると思うのです。
私は、多様性は基本的に当然として認められるべきで (ただし「野放図」とは区別してお考えください)、認める理由に強い弱いはないと考えています。
問題とすべきは、「認めない理由」の方で、それが強ければ規制すればいいと思うのです。
さらに夫婦同姓という制度は、それほど長く運用されてきたわけではありません。明確には明治以後からです。
その前までは、武士の世界でも 「何のなにがし」という夫がいて、妻は 「その妻」 という位置づけだったようです。
(「女性の社会進出」 というコンセプトが想定外という時代なので、この辺はかなりあいまいですが、基本コンセプトが、「相手の家に入る」 ということでしたから、必要とあらば便宜的に夫の姓を使うという程度だったようです
ただ、繰り返しますが、私個人としては「夫婦同姓」が好ましいと思っていて、別姓を選択するのは、「それなりのリスクを想定しての覚悟があるんでしょうね」と確認すべきだと思います。
覚悟があるなら、端からとやかくいうべきでもなかろうと。
投稿: tak | 2013年2月19日 09:41
俺は同姓のほうがいいかなあ…
いやって言われたらそれでもいいですけど
(´・ω・`)
投稿: ひろゆき | 2013年2月19日 21:54
私は Takさんと同じように 容認派というか、「理解できない派(笑)」
自分達夫婦のことは 自分達できめればよいとして、あかの他人の夫婦に対して 同姓であって欲しいと願うメンタリティーが 想像力を超えちゃっています。
ひろゆきさん:
いやって言われたら, 相手の姓を名乗ればよいだけじゃないの?
Takさんも言われているように 絶対別姓派って かなり少数派でしょうから それも いやって言われる可能性(「あなたと同じ姓を名乗りたくない」)は 極小ですから心配はないですよ。
投稿: Sam_Y | 2013年2月19日 22:55
あるコラムニストが、「同姓か別姓か」という問題の立て方はおかしくて、「同姓強制か非強制か」と言うべきだと主張しています。
以下、私事です。私の妻はバツイチなのですが、離婚後まだ付き合っていなかった頃に一緒に呑んでいて、姓を変える面倒さを縷々述べて、「二度と結婚しない、結婚するなら別姓=事実婚」と言ってました。
で、その後無事に付き合って結婚することになり、↑のような発言を覚えていたので、「じゃあ君の方の姓にしようか」と言ったんですが、「私の姓はもう十分いるから(義兄一家)」と、結局私の姓になりました(^^; 数のバランスかよ!?
投稿: 山辺響 | 2013年2月20日 10:06
ひろゆき さん:
要するに、消極的容認派ですね。
投稿: tak | 2013年2月20日 14:34
Sam_Y さん:
>あかの他人の夫婦に対して 同姓であって欲しいと願うメンタリティーが 想像力を超えちゃっています。
「規範としてそうあるべき」ということなんでしょうけどね。
「望ましい」と考えるのと、「いやだ」という人にまで押しつけるのは、ちょっと違うかなという気がしますね。
投稿: tak | 2013年2月20日 14:37
山辺響 さん:
>「同姓強制か非強制か」
つきつめれば、そういうことになりますよね。
日本の「戸籍制度」からすると、同姓の方が話が楽ということになるんでしょうけど。
>数のバランスかよ!?
「この人と一緒になるなら、名字を変える面倒くささもガマンできそう」 と思われたんでしょうね。
投稿: tak | 2013年2月20日 14:41
>「この人と一緒になるなら、名字を変える面倒くささもガマンできそう」 と思われたんでしょうね。
そういうことにしておきます(^^;
ただ、私の姓より妻の姓の方が電話などで聞き取ってもらいやすいので、結婚後も、店などの予約では私も妻の姓を名乗ったりしています。聞き返されて言い直すのがめんどくさいので(笑)
投稿: 山辺響 | 2013年2月21日 09:38
山辺響 さん:
融通無碍 (^o^)
投稿: tak | 2013年2月21日 16:06
実際困っているので早く認めてほしいです。
技術系の仕事をしており特許を出願することがよくあるのですが、
名前が変わると検索が出来なくなって困ります。
ずっと同じ組織で働くなら旧姓使用も出来ますが、(それはそれで手続きが面倒・・)
会社を変わると以前出願した特許はカウントされなくなってしまいますので。
毎回「旧姓は○○なのでそちらで探してください」とも言えませんし。
論文を書くような方も同じではないかと思います。
所属組織が変わることはよくあることでしょうし、どうしているのでしょうかね?
学部生時代の恥ずかしい卒論が検索出来ないのだけはちょっと助かってますけど(^^;
投稿: ウサマロ | 2013年2月23日 11:57
ウサマロ さん:
なるほど、そういう不便もあるんですね。
女性の社会進出に、社会のシステム自体が追いついていないですね。
投稿: tak | 2013年2月23日 20:45