ソースで天ぷらを食う文化
大分前に岡山に出張した際に、仕事先で昼食に仕出し弁当を取ってくれた。かなりゴージャスな弁当で、食いきれないほどのおかずが付いていたのを覚えている。ところがその弁当には天ぷらがついていたのだが、醤油がない。例の小さなビニール袋に入ったソースが付いているだけだ。
思わず「ありゃ、醤油がないな」と呟いたら、その日クルーを組んでいたカメラマン(大阪在住)が、隣でものすごく意表を突いたことを言う。
「tak さん、西日本では、天ぷらはソースをかけて食べるんですわ」
あまりに衝撃的な発言だったため、つい「え? ウソ!」と反応してしまった。一瞬からかわれているんじゃないかと思ったが、周り中「天ぷらにソースで、当たり前じゃん。何がおかしい?」みたいに平然としている。
無茶苦茶な違和感を覚えながらも、郷に入ってしまった限りは郷に従ったつもりで、ソースで天ぷらを食ったのだった。まあ、不味くはなかったけどね。
あれから妙に気になって、西日本出身の人間に会うたびに「天ぷらにソースかける?」 と聞いていた時期があった。すると彼らの多くはごくあっさりと、「かけますよ。変ですか?」と答える。たまに「個人的には天つゆの方が好きですけど、家庭ではソースですね」と言う人もいるが、本当に西日本では「ソースで天ぷら」がごく一般的らしいのである。
これは東日本出身の人間には、かなり衝撃的なことだ。日経のサイトに「食べ物新日本奇行」というのがあって、その連載の記念すべき第 1回が、まさに「ソースで天ぷら」というのを見ても、その衝撃度がわかろうというものだ。
この記事で明らかにされたところでは、「ソースで天ぷら」を食う文化は、完全にというわけではないが、ほぼフォッサマグナを境界にして西側に存在するようなのである。地図をみるとあまりにきれいに色分けされているので、下にこの連載の「ソースでてんぷら (その3)」 というページから転載しておく。
東日本で唯一、埼玉県での「ソースで天ぷら」率が高く、「関東の西日本」的様相を示しているのは、「転勤二世」問題によるのではないかと推測されている。関西から関東に転勤すると、その住まいは地価の安い埼玉県に集中しがちというのである。
さらに、西日本でも香川県の「ソースで天ぷら」率が意外に低いのは、香川県民は、天ぷらはうどんと一緒に食うものと思っていて、つまり 「ソースをかけるより美味い食い方を知っている」と自負しているかららしい。
ちなみに、私の生まれた山形県の 「ソースで天ぷら」 率は、潔くも 0%。さらに学生時代から 30代まで暮らした東京都と、現在居住している茨城県では、10%だった。0%というのが、山形県の他に福島、岩手、山梨の 3県しかないということさえ、私にとっては驚きである。
つまり、「ソースで天ぷらなんてあり得ない」という文化圏で生まれて育ち、高校を卒業してからは 10人に 1人しか天ぷらにソースをかけない東京と茨城でしか暮らしたことのない私が、岡山で衝撃を覚えたのは、あまりにも当然なのだ。
【2022年 1月 25日 追記】
その後のケアをすっかり忘れていたのだが、2件の興味深い関連記事を書いていることを報告させていただく。(今頃になって何なんだと言われそうだが)
ソースで天ぷらを食う人たちは、鉄板系コナモンも好き(2013年 3月 12日付)
「天ぷらにソース」の謎が、また少しほどけた(2021年 5月 6日)
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コメント
なるほど!
俺は九州か埼玉でしか暮らしてないから
逆に衝撃を覚えたのは当たり前ですね!
モジ(((*´ε` *)(* ´З`*)))モジ
投稿: ひろゆき | 2013年3月10日 21:45
下衆兵衛でゲス。こてこての江戸っ子(?)でゲス。
あたくしも天麩羅、好物ですがね、もともとは室町のころ、南蛮から来た食い物らしいんで、ソースでもいいんじゃないでゲスかね。
あたくしも、せんに飯屋で天麩羅にまちげえてソースをかけちまったことがありやすが、一瞬、「うっ!」と思いやしたが、なかなか、これはこれでうめえでゲスな。
とくに揚げたてだったら、香ばしい香りがして、飯が進むでゲスな。
ま、カツなんかと同じ、粉つけて揚げたもんでゲスから、好き好きでゲしょうな。
こないだ、人形町の蕎麦屋で飲んだんでげすが、「鳥天」やら「板わさ」やら「カツ煮」で酒をのみ、締めに蕎麦をたぐる。やっぱし、これが一番でゲスな。
え?「鳥天」には何をかけたかって?
そりゃ塩でゲスよ(おいおい)!
投稿: 下衆兵衛 | 2013年3月10日 22:23
大阪ではカレーの上にソースで3回円を描いて食べる人が多いですね。喫茶店でカレーを注文するとソースも一緒に出てきますね。
天ぷらにソースをかけて食べる人に「なんでソースなの?」と訊いたら「天ぷらにはソースやんけ」と言われました。
大阪人の味覚は、日本一繊細だと思いますが、カレーと天ぷらになると、なんでそんな大雑把な食べ方をするんだろと今だに謎です。
投稿: ハマッコー | 2013年3月11日 01:41
ひろゆき さん:
それは、「逆衝撃」でしたね (^o^)
投稿: tak | 2013年3月11日 08:58
下衆兵衛 さん:
>一瞬、「うっ!」と思いやしたが、なかなか、これはこれでうめえでゲスな。
それは、頭が柔軟ということで、素晴らしいことですね。
問題は「美味い/不味い」じゃなくて、「馴染み」にこだわってしまうということですから。
>「鳥天」やら「板わさ」やら「カツ煮」で酒をのみ、締めに蕎麦をたぐる。やっぱし、これが一番でゲスな。
私は蕎麦屋の卵焼き(だし巻き玉子)が好きですので、これも加えたいところです (^o^)
塩をふるのは通ですね。
投稿: tak | 2013年3月11日 09:02
ハマッコー さん:
>大阪人の味覚は、日本一繊細だと思いますが、カレーと天ぷらになると、なんでそんな大雑把な食べ方をするんだろと今だに謎です。
カレーも小麦粉入れますからね。
大阪人は、小麦粉となるととたんに B級になるような気がします。お好み焼きとか。
投稿: tak | 2013年3月11日 09:05
>私は蕎麦屋の卵焼き(だし巻き玉子)が好きですので、これも加えたいところです (^o^)
そうなんでゲスよ!なんかもの足りねえなと思ったんでゲスが、卵焼きを忘れてたでゲス!
そう思ったら、急に卵焼きが食いたくなってきたでゲス!
卵焼きって言えば、おっかあがいつも弁当に入れてくれた卵焼きはうまかったでゲス!
今度蕎麦屋でのむときゃ、いの一番に卵焼きを頼むでゲス!
投稿: 下衆兵衛 | 2013年3月11日 21:27
下衆兵衛 さん:
だし巻き玉子は、出汁の混ぜ方によるんでしょうけど、蕎麦屋によって微妙に味の具合に違いがあって、なかなか奥深いものがありますね。
投稿: tak | 2013年3月11日 22:00
富山は東部と西部で別の県並に違います。
東部では天ぷらにソースなんてきいたことありません。
とんかつにはソースをかけます。
投稿: 情報提供者 | 2013年9月 2日 18:33
情報提供者 さん:
ほほう、そうですか。
情報提供ありがとうございます。
富山はかなり微妙な位置にあるんですね。
投稿: tak | 2013年9月 2日 21:30
とても魅力的な記事でした。
また遊びに来ます!!
投稿: 履歴書の就職 | 2013年9月10日 11:10
履歴書の就職 さん:
余計なコメントを残さないなら、来るなとは言いませんけどね。
例によって、リンク先を編集させて頂きました。
投稿: tak | 2013年9月10日 11:31
今四国放送でしょうゆvsソースやってますが、ソース優勢ですよ
両親が東の出身の我が家ではしょうゆか塩での食べ方が当たり前だったので衝撃的でした
早速惣菜屋で天ぷらを買ってきて試してみようかな
投稿: とおりすがりのニートちゃん | 2013年12月 2日 11:33
とおりすがりのニートちゃん さん:
やっぱり西日本はソース優勢なんですね。
投稿: tak | 2013年12月 3日 00:57