「浸透圧の原理」 に関する誤解
「サイエンスあれこれ」 というブログの 4月 16日付「浸透圧の原理」という記事を読んで、私はびっくりこいた。浸透圧というのは、水が高きから低きに流れるような単純な現象ではないというのである。これに関する限り、私は今日まで完全に間違っていたようなのだ。
これは私が極端な文系(このことについてのきちんとした掘り下げは、こちら を読んでいただくとして)だからというわけではなく、大方の人が誤解しているだろう。なにしろ、Wikipedia の説明からして間違ってるというのだ。
Wikipedia の説明は、ものすごくかいつまんで言えば、半透膜で隔てられた溶液は、「拡散の原理」によって、溶媒分子が[高]→[低]へと、平衡状態に達するまで移動するためだとしている。(詳しくは Wikipedia のページへどうぞ。いつ変更されるかわからないけど)
しかし、米・バードカレッジ物理学教授 Eric Kramer 氏によれば、この説明は間違っているんだそうだ。というのは、水の拡散だけによる力は、浸透圧の 1/2 から 1/6 程度の力しか生み出さないことが明らかになっているからだ。
実は浸透圧の原動力は、「拡散の原理」(両者の平衡が取れるまで高きから低きに流れるイメージ)にあるのではなく、溶質のランダムな運動、すなわち「ブラウン運動」なのだそうだ。
半透膜の穴は、溶質が通過するには小さすぎるので、ブラウン運動で動き回る溶質の分子は、半透膜にぶつかるたびに跳ね返されてしまう。しかし単に跳ね返されるだけでなく、その跳ね返された勢いで、周りの分子も一緒に引っ張ってしまう。これは溶質の周囲の粘性によるのだという。
この過程における勢いで、半透膜の向こう側から穴を通して顔を出しかけた溶媒分子を引っ張り込んでしまうんだそうだ。濃度の高い方がブラウン運動が活発で、半透膜に盛んにぶつかっては、反対側から溶媒分子を引っ張りこむので、結果として半透膜の両側の水溶液は濃度の平衡が取れてしまうというのである。
つまり水溶液で言えば、溶け込んでいる物質の分子が、繰り返すけれど「高きから低きに流れるように」半透膜の向こうに飛び出してしまうんじゃなく、逆に、跳ね返される勢いで、半透膜の向こうから水の分子を引っ張り込んでしまうのだ。
おもしろいのは、物理学の世界では 60年以上も前の 1951年の時点でこの原理が明らかにされていたにも関わらず、生物・化学系の研究者の間では、今でも誤解が多いという事実なのだそうだ。だから、文系の私が誤解してきたのは、別に恥ずべきことでもない。
Kramer氏は 「物理学者が60年以上もの間、化学者とこの問題について十分な話し合いを持たなかったことは驚きに値する」 とコメントしている。「一見して当然すぎるほど当然の現象」ほど、思い込みを修正するのはむずかしいということなんだろうね。
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コメント
…難しいですな
(´・ω・`)
投稿: ひろゆき | 2013年4月17日 22:26
ひろゆき さん:
そんなに難しくないですよ。
跳ね返る時に、半分顔を出していた水の分子を引っ張り込むということです。
投稿: tak | 2013年4月18日 00:07
なるほどぉ。
確かに単なる拡散じゃあ浸透「圧」は発生しなさそう。塩分濃度が濃い方に水分吸い上げられて圧力上がるみたいな。
投稿: Cru | 2013年4月20日 22:43
Cru さん:
済みません。コメントに気付くのが遅れて、レスが今頃になってしまいました。
>塩分濃度が濃い方に水分吸い上げられて圧力上がるみたいな。
恐縮ながら、ここ、意味がよくわからず、結局、あまりまともにレスできずということになってます。
投稿: tak | 2013年6月20日 18:01