漱石文学って、もっと読まれてもいいと思うのだが
今をときめく村上春樹は、夏目漱石が好きで川端康成が苦手なんだそうだ(参照)。私は村上春樹は 『ノルウェイの森』 でお腹一杯になってしまって、それ以降の作品は読んでいないが、夏目漱石が好きというのは、なるほどわかるような気がする。
中学生の頃、漱石に夢中になった。あまり親しみすぎたもので、『坊ちゃん』 を読むぐらいは日本人の常識で、少なくとも 3人に 2人は読んでいるものと信じていた。『吾輩は猫である』はちょっと長いけれど、初めの方ぐらいなら誰でも読んでいるものと思っていた。
ところが高校に入った頃に気付いたのだが、『坊ちゃん』を読んでいるのは、クラスの半分もいないみたいなのである。『猫』に至っては、1割もいない。私の通った高校は一応「進学校」と言われていたから、日本全体でみたら、『坊ちゃん』を読んだ者はおそらく 10人に 1人もいないんじゃないかと気付いた。
ましてや、『猫』は 50人に 1人もいないだろうし、私の大好きな『三四郎』なんて、100人に 1人もいないだろう。道理で「トチメンボー」とか「菜めしは田楽と一緒に食うもんだ」とか「ストレイシープ」とか関連のジョークを言っても、全然受けなかったわけだ。
固いものを食って歯が欠けたという人に、「シイタケでも欠けるというぐらいだからね」と応じると、「まさか」とマジで否定され、それどころか、tak-shonai はいい加減なことばかり言う男と思われる。
いやしかし、『猫』に登場する水島寒月君は、シイタケで歯が欠けたのだよ。だから「そんな話もあったね」ぐらいに軽く受けてもらえばいいのだが、それが通じない。もっとも、水島寒月のモデルといわれる寺田寅彦は、実際にシイタケで歯が欠けたという説もあるので、こちらもマジで応じてもいいのだが、それもどうも無粋だ。
歌舞伎や古典落語をベースにしたジョークはなかなか通じにくい世の中になったにしても、漱石の小説に乗っかったジョークぐらいは国民的に通じてもらいたいものだが、それもなかなか叶わない。シェイクスピアの長台詞でジョークになる英国が、本気でうらやましい。
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コメント
俺は大学時代に落研に入ってましたが、
古典落語を理解するには多少の教養が必要だったり
するようになっちゃいましたからね…
(´・ω・`)
投稿: ひろゆき | 2013年5月28日 23:22
ひろゆき さん:
落研でしたか。
落語は結構勉強になりますからね。
現代人の教養は、浮世床に出てくる八っつあん、熊さん、吉っつあんと変わりませんね。
投稿: tak | 2013年5月29日 00:41
全面的に同感! といっても「猫」は一回しか読んでません。「三四郎」「坊ちゃん」「それから」あたりは二三度読んだはず。昨年だか「虞美人草」を初めて読んで、けっこう感動しました。
投稿: 山辺響 | 2013年5月29日 09:30
そんなに漱石って読まれていないのかーって考えてみたら確かにそうかもしれませんね。
若い頃に読んだ「門」や「それから」「こころ」などなど、最近は青空文庫で無料なので、kindle でぼちぼちと読んでます。
紙版を買っても安いんですけどね。本をなるべく増やしたくない上に無料って凄いと恩恵に預かっています。
今ではもう使われなくなった会話での言葉遣いなんかも含めて、とっても面白いのになー。
投稿: はにゃ。 | 2013年5月29日 10:51
山辺響 さん:
漱石は、やっぱりすごいなあと思うのです。
彼の表現する世界とともに、あの文体も、日本の近代をつくりましたよね。
私ごとき者でも、あの文体にはものすごく影響されてますから。
投稿: tak | 2013年5月29日 19:01
はにゃ。 さん:
そうですね。青空文庫でただで読めるんですから、もっと読まれてもいいですよね。
>今ではもう使われなくなった会話での言葉遣いなんかも含めて、とっても面白いのになー。
これ、かなり魅力ですよね。
投稿: tak | 2013年5月29日 19:03