「アレルギー」の語源と、世間が本当にググらないことについて
最近、知人と四方山話をしていて花粉症の話題になった時、彼は「そういえば、知ってる? 『アレルギー』って言葉は、ドイツ語で『よくわからない』という意味なんだってね」と言いだした。
それを聞いて私は直観的に、「どこで聞いたか知らないけど、それは確実にガセネタだと思うよ」と言った。「アレルギー」は確かにドイツ語だろうが、「よくわからない」なんていい加減な言葉を医学用語にするのは、あの理屈っぽいドイツ人のメンタリティからしてあり得ない。
「いやぁ、確かにそう聞いたけどなあ」といぶかる知人を尻目に、私はさっさとポケットから iPhone を取り出し、「アレルギー 語源」のキーワードでググってみた。答えはすぐに出たが、いつものように、念のため複数サイトで確認した (参照 1、参照 2、参照 3)。
手短に言うと、「アレルギー」という言葉は、1904年に Clemens Peter Freiherr von Pirquet というオーストリアの科学者/小児科医が、ギリシャ語の "allos"(奇妙な)と "ergon"(反応)という 2つの単語を組み合わせて、ドイツ語風にアレンジした造語なんだそうだ。
上述の「参照 2」のリンク先は、なんだかもっともらしいサイトだが、造語した人物の名を「C・V・ピルケール」としている。しかし "Pirquet" はどう読んでも「ピルケール」にはならないだろうなあ。それに恐縮ながら、ちょっと悪文が目立つ。
いずれにしても、オーストリア人がギリシャ語を組み合わせてドイツ語風に造語したというのが、ちょっと奥深いところである。もしかしたら、「奇妙な反応」という意味が伝言ゲーム的に広まっている間に混乱して、「よくわからない」なんてことになってしまったのかもしれない。
ちなみにこれと似た話で、かなり広く信じられている「カンガルー」が「わからない」という意味のアボリジニ語だなんていう説も、実はガセネタなのである (参照 1、参照 2)。人に聞いたことを安直に信じすぎることについて、私は先月 12日の「20歳を「はたち」というわけ」という記事でも「困ってしまう」 と書いている。
知人は、「いやぁ、スマホってすごいね。すぐに調べられるんだもんね」と感心していたが、すごいのはスマホではなく、「軽い気持ちでググってみる」という姿勢である。その証拠に、自分だってスマホのユーザーのくせに、都市伝説をあっさり信じてしまっているではないか。
もう 4年前になるが、「世間がそれほどググらないのは」という記事を書いた。インターネットの普及で、ちょっとググリさえすれば大抵のことは調べがつく世の中になったというのに、世間の人はググるより先に人に聞いて済ませたがる。ところが人に聞いて得た知見の多くは不正確なものでしかない。「アレルギー」や「はたち」の語源のように。
私ぐらいに何かというとすぐにググってみたがるのは、案外珍しいみたいで、「どうしてそんなに調べたがるの?」なんて聞かれることがある。「だって、わからないままだと気持ち悪いじゃん」と答えるのだが、その気になればすぐに調べられる道具をもっているくせに、調べずに済ませていられることの方が、私には信じられない。
まあ、とはいっても、私だって興味のないことまでググるなんてこともない。ということはつまり、世間の興味の幅って、ものすごく狭いのであって、私は特別「物好き」ということなのかもしれない。
【6月 23日 追記】
Clark さんから、ギリシャ語の "allos" を「奇妙な」と訳すのは無理があるとのご指摘のコメントをいただいた。
私はギリシャ語がさっぱりわからないのに、この肝腎の部分をググらずに済ませていたことを恥ずかしく思い、改めてギリシャ語/英語の対訳サービスでググってみた。並のサイトでは "allos" に対応する英単語は見つからないと言ってくるが、こちらのサービスで、"allos" に対応する英語は "other" であると出てきた。
となると、元々の意味は 「別の反応」 ということになる。ものすごく意訳すると「奇妙な反応」ということになるかもしれないが、ここは慎ましく、「通常とは違った反応」ということにしておく方がよさそうな気がする。
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コメント
私は、以前は、リビングのテーブルに辞書や事典を置いて、
TVや新聞を見ていて疑問に思った言葉などを調べるのに
しょっちゅうお世話になっていましたが
今では、MacBookがその代わりをつとめています。
最近、夫はそれをあてにして、「○○って何だ?」と
独り言の振りをして言うようになりました。
でも、ググるって便利だよなぁと実感しています。
投稿: さくら | 2013年6月19日 19:35
辞書の活用は、さくらさんの仰るのと同じく、アタクシの家でもありました。
方や今は片手に端末で、辞書以外の(余計な)情報まで得ることができるようになり、最初に調べたかったことが何だったか忘れちゃったぃ、みたいなことがときどきあります。(大概酔ってますが…。)
最近の小学校の授業では、(調べたところに)付箋いっぱいの辞書を作ることがワークとなっている風潮があると聞きますが、調べることがステータスになっちゃってるんじゃないか、と、「テレビ見ながら辞書ひいた」オッチャンとしては、なんか回り道をしているんじゃないかという、変な感覚が残りました。
さくらさん、横入り失礼いたしました。
投稿: 乙痴庵 | 2013年6月19日 20:56
うーむ、私もよくググりますが、その結果は頭から信じないようにしてます。「多分、こういうことなのだろう。、もしかしたら違うかもしれない」といったスタンスです。
以前、私の仕事に関する技術的知見がどこまで正しく説明されているのだろうかという興味からググってみましたが、なんと90%が間違った解説でした。次の5%は間違ってはいないが自信なさそうな解説で、最後の5%がキッパリと正しく解説されているという状況でした。それでメシを食っている人(企業)が書いたページのみが正しい解説をしていたという結果でした。
Web上では間違った知識が一気に拡散してしまういう危険性を、常に意識しておかなければならないと思います。
投稿: ハマッコー | 2013年6月19日 22:07
さくら さん:
紙の辞書の、薄いページを必死にめくりながら調べるより、ググる方が確かに速いですよね。
私は辞書でも、iPhone にインストールしたのを引くようになり、紙の辞書は 1年に 2~3回ぐらい、漢和辞書を引くぐらいのものです。
(漢和辞書は、iPhone にまだ入っていないもので ^^;)
投稿: tak | 2013年6月20日 18:07
乙痴庵 さん:
>今は片手に端末で、辞書以外の(余計な)情報まで得ることができるようになり、最初に調べたかったことが何だったか忘れちゃったぃ、みたいなことがときどきあります。
それ、私もあります。どんどん余計な方に逸れて行ってしまって (^o^)
>最近の小学校の授業では、(調べたところに)付箋いっぱいの辞書を作ることがワークとなっている風潮があると聞きますが、
へえ、びっくりです。
何べん調べても忘れてしまう英単語なんかを、次に調べる時なんかは便利でしょうけど、付箋が増えすぎたら、かえって不便になったりして ^^;)
投稿: tak | 2013年6月20日 18:12
ハマッコー さん:
>うーむ、私もよくググりますが、その結果は頭から信じないようにしてます。「多分、こういうことなのだろう。、もしかしたら違うかもしれない」といったスタンスです。
そうですね。正しいという保証はないです。
浸透圧の原理について、Wikipedia の説明も間違ってるらしいですから。
https://tak-shonai.cocolog-nifty.com/crack/2013/04/post-d364.html
>Web上では間違った知識が一気に拡散してしまういう危険性を、常に意識しておかなければならないと思います。
その通りですね。
かの池田信夫氏が 「今回の原発事故で死者は 1人も出ていない」 と堂々と書いて、政権党の政調会長までそれを信じてしまったり。
投稿: tak | 2013年6月20日 18:19
webは間違った情報が多いというより、多様な意見や見方が容易に得られるという点が、自分は利点だと思ってます。言葉の用法など、間違いが慣用となっていく事も多いですし。
一方で豆知識や百科事典的な知識では便利ですが、それ以上の内容でwebを過信し過ぎる人とは最近会話に困ってしまう事が多いです^^;
投稿: clark | 2013年6月20日 21:04
clark さん:
>一方で豆知識や百科事典的な知識では便利ですが、それ以上の内容でwebを過信し過ぎる人とは最近会話に困ってしまう事が多いです^^;
「アレルギーは 『よくわからない』という意味のドイツ語が語源」 と、ネットに書き込んでみたら、会話に困ってしまうことが続出するかもしれませんね ^^;)。
投稿: tak | 2013年6月21日 10:23
単純に訂正しやすい間違いばかりなら良いのですが^^;
ちなみにallosはプレーンに「他の(other)」を意味する語なので、「正しいもの」と対置して「変わった」となる場合もありますが、一語で「奇妙な」と訳すのは少々怪しい気がします。
同じ「他の」を意味するheterosは「奇妙な」と訳す場合がありますが。
投稿: Clark | 2013年6月23日 01:21
Clark さん:
>ちなみにallosはプレーンに「他の(other)」を意味する語なので、「正しいもの」と対置して「変わった」となる場合もありますが、一語で「奇妙な」と訳すのは少々怪しい気がします。
ほほう、そうでしたか。
ギリシャ語はさっぱりわからないのですが、この部分をしっかりほかで確認するのを怠っていました。お恥ずかしい。
改めて確認すると、"allos" の英訳は "another" と出てきました。
(翻訳サイト: http://www.kypros.org/cgi-bin/lexicon)
とすると、「別の反応」ということになりますね。
ご指摘、ありがとうございました。
投稿: tak | 2013年6月23日 22:07
allos(他が) + ergon(働き) は「他者が作用する」という意味かと。
投稿: kazist | 2018年8月 3日 11:29
kazist さん:
ギリシャ語の知識がないので、決定的なことは言えませんが、とりあえず "allos" は名詞ではなく形容詞のようですので、「他者が作用する」というセンテンスとして解するのはどうなのかなと。
それから 「他者が作用する」 というのは、当たり前すぎてわざわざ言うまでもないような気もします。
投稿: tak | 2018年8月 3日 20:11
古い記事にコメントすみません。見つけちゃいましたので。
私は塾・家庭教師業ですが、辞書大好きです。家庭教師として訪問すれば、まず国語辞典、英和辞典(+和英辞典)があるかを確認し、無ければブックオフで100~300円くらいのものを押し付けるほど好きです(我が家にはそれぞれ5冊ずつほどストックがあります)。
「ググらない」にも通じますが、調べ学習をしない子供はとても多いです。中学生ともなればたいがいスマホを持っていますが、そしておそらくは親にスマホを買ってもらう時に必ずと言っていいほど「勉強に役立つ!」と主張していますが、実際にスマホで勉強不明点を調べる子供は皆無です(一方でYouTubeを3時間見たりLINEを500通したりはします)。またネット上の情報は大人向けのため、例えばカブトムシでググって出てくる結果の1番目はwikipediaですが、これは8歳児には理解できないなど、年齢に応じた情報として的確ではないのです。
辞書の付箋ですが、2回目のための目印ではなく、とにかく達成感を植え付ける・調べて付箋が増えることが嬉しい・調べ学習の習慣をつける、というサイクルができることを目的としています。コレ画像検索してみてください。どっさりですから(笑)。
逆に辞書を全く引かない子は、中学以降勉強が本格的になってきたときとても不利です。定期試験で深夜まで勉強してもわからないことはそのまま、教科書や資料集など紙の本を開いたときに言葉を探す速度が遅い(又は見つからない)、数学の”辞書式配列に並べる”ができない、などなど。
辞書の世界もとても面白いです。takさんがもしご存じなければ、「新明解国語辞典の恋愛」や小説『舟を編む』などはとても面白いと思います。
投稿: らむね | 2018年8月 4日 00:00
らむね さん:
辞書を持ってない子がいるとは、ちょっと驚きです。私は子どもの頃 「辞書を読書」 してました。(今でも時々してます)
最近は、国語辞書、英和/和英辞書は、iPhone アプリの 「大辞林」 と "Wisdom English Japanese Dictionary" に完全に置き換えて、紙の辞書は処分しましたが、「携帯漢和中辞典」「例解古語辞典」(どちらも三省堂)、「くずし字解読辞典」 (近藤出版社)、「英語類義語活用辞典」(研究社) は、紙の辞書がまだ現役です。
(漢和辞書は、手書き認識を活用したデジタル辞書の方が使いやすいかなという気もしていますが、まだインストールしてません)
「辞書 付箋」 で画像検索して、腰を抜かしそうになりました。でも考えてみれば、辞書好きの子に付箋活用しろと勧めたら、全てのページに複数の付箋が付いてしまいそうですね。
「新明解国語辞典」は、語義がちょっとあざとい気がして、買っていません。でも 「恋愛」 の項なんかは、読み物として面白いかもしれませんね。
『舟を編む』 は気にはなっていますが、読んでません。
投稿: tak | 2018年8月 4日 15:15
思い込んでいて書き込みましたが、そうですね。
考えなおしました。
「異なる反応」と読むのが素直ですね。
「通常の正常な働き」があって、それとは「異なる働き」と理解した方がいいですね。
ergonが働きという意味であることに僕は引きずられすぎました。物が働くと思ってしまった。
働くのは免疫ですね。
免疫の異常について学者が考えているのですから、そう理解すべきでした。
失礼いたしました。
投稿: kazist | 2018年8月 6日 00:28
kazist さん:
>「通常の正常な働き」があって、それとは「異なる働き」と理解した方がいいですね。
そうですね。専門外なので決定的なところはわかりませんが、とりあえず素直に読み取ればそうなるかと思います。
投稿: tak | 2018年8月 6日 07:13
はじめまして。
記事を拝見させていただいて、もしかしたらと思ったのでコメントいたしました。
知人の方はアトピーの話をしていたのかもしれません。アトピーはギリシャ語を組み合わせた単語で「特定されていない」「奇妙な」といった意味を持ちます。アレルギーに関連した言葉なので間違えてしまったのかもしれません。ちなみに、こちらもググればすぐ出てきます。
もうすでに答えが出ていて今更な話でしたらすみません。
私自身、調べ物をすることが好きなので記事にはとても共感しました。せっかく情報社会に生きているのなら分野をまたいで広く知識をつけたいものですね。
投稿: 浅香 | 2020年5月19日 02:30
浅香 さん:
コメントありがとうございます。
「アトピー」の語源は知りませんでした。なるほど、「アレルギー」とごっちゃになってる可能性はありますね。
ちなみに私はドイツには 3〜4回行ったのにドイツ語はからきしダメで、「アレルギー」も英語読みで「アラージー」の方がピンと来たりしちゃう病気です ^^;)
投稿: tak | 2020年5月19日 19:41