フツーの日本人にとっての英語の必要性
相変わらず英会話教材の CM がお盛んである。あの「石川遼クンも使っている」という触れ込みの教材の CM なんか、毎日毎日、聞き飽きるほどだ。こんなに聞き飽きるほどなんだから、何かワンフレーズだけでも「使える言い回し」を繰り返し流してくれたらいいのにと思うが、それは絶対にやってくれない。この会社、案外「ケチ」である。
石川遼クンが英語をしゃべれるのは、これだけ米国で過ごす時間が長くなっているんだから当たり前のことで、彼の英会話の上達が主として例の「聞き流すだけ」の教材の賜物というわけじゃないことぐらい、ちょっと考えればわかる。彼の周りは嫌でも英語だらけなんだから。
でもまあ、結構多くの日本人が、楽して、つまり「聞き流すだけ」というぐらいの努力で、英語がペラペラ話せるようになったら 「カッコいいだろうな」なんて思っている。まあ、ちょっとしたファッション・アクセサリーだ。
しかし実際問題として、英語がペラペラ話せることなんて、この国においてはそれほど求められているわけじゃない。英語で会議する会社なんて、100社に 1社もないだろう。それどころか、2年も 3年も海外駐在したという人が英語ペラペラかというと、全然そうじゃないことの方が多くて、「よくまあ、これで通用してたなあ」と驚いたりする。
はっきり言って、この国でフツーに生きている限り、英語をペラペラ話す機会なんて、ほとんどないし、ちょこっと海外駐在をしたぐらいでも、英語で丁々発止の議論をする力が求められるというわけでもないようなのだ。ということは、どんなにお金をかけて英語を勉強したところで、よほど運が良くなければ報われることなんてない。
私は 25歳頃から、結構真面目に英語に取り組んだ。それまでも日常会話ぐらいは全然困らなかったが、急に News Week をスラスラ読みこなしたいなんてことを思ってしまったのである。それはたまたま、英語をマジに使う仕事についてしまったので、掛け値なしに必要になったからでもある。
日常会話に困らないレベルの人間が News Week を読みこなしたり、海外でビジネス・トークをしたりするためには、とりあえずは「ボキャブラリーを増やす」努力が必要だ。こればかりは、「聞き流す」だけでは無理で、結構小難しい英文を浴びるほど読み、書き、積極的に会話し、同じ単語や言い回しを覚えては忘れ、忘れては覚えるという作業を繰り返すしかない。
私も一時は、ボキャブラリーが 12,000 以上はあったようで、結構まともに英文雑誌を読めていた時代があった。その頃は、外資系の団体に勤めていたりして、実際に毎日英語で仕事をしていたので、リアルに必要だったのである。そうでもなければ、いくらボキャブラリーが増えたところで、そんなに役に立つというわけじゃない。
だからそうした仕事から離れて「フツーの日本人のおっさん」に戻ってしまうと、単語なんてどんどん忘れる。今は多分、7,000~8,000 ぐらいのボキャブラリーしかないだろうと思う。「あ、この単語知ってたはずだけど、忘れちゃった」なんていうのがやたら多い。多いけれど、なんとなく過去の遺産の想像力で補えたりするから、まだいいのだが。
で、自分も「フツーの日本人のおっさん」に戻ってしまったから、英語なんて必要ないかというと、あながちそんなこともない。普段の暮らしでずいぶん重宝する。少なくとも、新しい概念を 「たんなる記号みたいなカタカナの専門用語」 ではなく、「ちゃんと意味のある英語」としてフツーに理解できるというだけで、かなりありがたい。
とくに PC なんて根がアメリカ人だから、英語由来の専門用語が多い。「チュートリアル」だの「ドメイン」だの「スプレッドシート」だのを、英語と無関係なカタカナの「IT 専門用語」として覚えようなんて思ったら、そりゃあストレスだ。高齢者が PC を覚える際の一番のネックが、この「カタカナ語」である。これに抵抗がないというだけで幸せである。
私は時々、新しい外来語はカタカナ表記をやめて、アルファベットそのままで表記するようにしたら、当初は大変だろうが、やがて日本人の英語に対する抵抗はかなり減るんじゃないかと夢想することがある。少なくとも「日本で選挙に関心を示すのは、主として年配者」と言ったつもりなのに、なぜか場が気まずくなるなんてこともなくなるだろう。
先日飛行機で九州に行った時、機内アナウンスが、中国人によくあるような子音のはっきりしない「フガフガ発音」で、 "flight" が徹頭徹尾 "fright" と発音されるので、かなりムズムズした。あれって、社内で指摘してくれる人がいないのかなあ。ただでさえ英語って、子音をムニャムニャフガフガ発音されると、何言ってるかわからない時があるよね。
見たところ乗客は日本人ばかりなんだから、下手な英語のアナウンスなんて止めとけばいいのに。あれでは、まさに英語は (あまり趣味のよくない) ファッション・アクセサリーでしかない。
| 固定リンク
「言葉」カテゴリの記事
- 日本人の英語力って、下から数える方が圧倒的に早い(2025.02.07)
- 「正念場」という言葉の深い意味(2024.12.30)
- 「豚殺し/ロマンス詐偽」ー 中身は同じというお話(2024.12.26)
- 和菓子、薬、滑舌訓練等々 ・・・ 「外郎」を巡る冒険(2024.12.11)
- 「図に乗る」というのも、突き詰めるのは難しい(2024.12.01)
コメント
俺も3年間上海にいましたが、
中国語はまったくしゃべれません!
(*´ω`*)b グッ
投稿: ひろゆき | 2013年7月14日 20:25
ひろゆき さん:
え?
そりゃ、もったいないですよ。
投稿: tak | 2013年7月14日 20:27
飛行機の中のアナウンスなんて、いっそのことマシンに任せてしまったほうがいいですね。言うことは決まってますので。
東急電車の車内の英語放送はとても聞きやすく感じがいいです。JRも綺麗な英語で放送してたと思います。
(東急のは昔人気のあったギタリストでクロードチアリさんという方がいらっっしゃいましたが、その方の娘さんで、クリスティーヌ・チアリさんという方の声だそうです)
閑話休題。航空機内の英語放送をマシンに任せてしまったら、彼らのプライドが許さないんでしょうね。
投稿: ハマッコー | 2013年7月15日 01:47
ハマッコー さん:
>閑話休題。航空機内の英語放送をマシンに任せてしまったら、彼らのプライドが許さないんでしょうね。
う~ん、プライドをもつほどの実力かなあ ^^;)
投稿: tak | 2013年7月15日 10:14
fright と発音したのはこの会社の人たちですか。
http://www.engrish.com/category/signs/page/33/
投稿: ハマッコー | 2013年7月20日 00:02
もう一つの大きい方の会社でした(^o^)
投稿: tak | 2013年7月20日 13:28
アルファベットそのままで表記しても耳がLとRを区別しないんじゃおんなじ事かなぁと言う気がしますが。election。スペリング知っててヒアリングすると違うもんですかね?
シとスが曖昧な東北人でも綴り字知ってた上でNHK聞けば標準語ペラペラみたいな感じかしら。
とかいって、以前音韻の教科書見てたら盛岡方言の母音が6種類とかでおどろきました。シとスが合流してたんじゃないのか?
その本では名古屋方言の母音は8種類でしたけどね!
投稿: Cru | 2013年7月22日 22:46
Cru さん:
>election。スペリング知っててヒアリングすると違うもんですかね?
スペル知ってるから、明らかに区別がつくということも多少あるんでしょうけど、基本的には、知ってようが、知っていまいが、違う音なんだから、違って聞こえて当たり前なんですよね。
逆に、スペルだけ知って本当の発音を知らない方が、区別がつかなくなるでしょう。
明らかに fright と言ってるのに、固定観念で flight だと思って聞いていたら、区別できないかも。
要するに、日本人の耳の場合は、カタカナが邪魔して、違いがわからなくなってるんじゃないかなあ。
Flight と fright は、カタカナ感覚を遮断すると、いやでも違いがわかります。だって違う音なんだから。
問題は、英語をカタカナで聞く感覚から、きちんと離れられるかどうかです。
それから、日本語でも名古屋や盛岡だけではなく、「あいうえお」 で表現しきれない母音が各地にありますね。
我が庄内弁は、母音は 7種類あるなあ。ただ、庄内でもほとんどの人は自分たちの言語で母音が 7種類もあるとは気付いていませんね。これも仮名表記が邪魔しているせいだと思います。
名古屋弁は今では単純になっていて、かなり年寄りの言葉でないと、母音は 8種類もないと思います。(6種類は、確実にありますが)
それから広島方面の「ウ」 の音も、中年以上の人に限られるかもしれませんが、かなり特徴的ですね。口をつぼめて鼻に抜けるというか。
投稿: tak | 2013年7月22日 23:25
tak-shonaiさんこんばんは~かくいう私も12年前にアメリカの親類に会いに行く前に3ヶ月間はその商品、5万円のそれを買いまして、聞き流しました。アメリカでは、どなたの言葉も、一言も聞き取れなかった悲しい思い出があります。うふ
投稿: tokiko | 2013年8月16日 16:37