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2013年8月29日

ネスレ日本の 「レギュラーソリュブルコーヒー」 というもの

ネスレ日本が、「インスタントコーヒー」という呼称を廃して、今後は「レギュラーソリュブルコーヒー」ということにするんだそうだ(参照)。"Soluble" は「溶ける、溶けやすい」という意味の形容詞である。

"Soluble coffee" というのは、特段新しい言葉というわけではない。これまでも英語圏内では、"instant coffee" "soluble coffee" "coffee powder" などが、同じ「インスタント・コーヒー」を指す言葉として使われてきた。同じ袖のない服を「ベスト」と言ったり「チョッキ」と言ったりするようなものだ。

一方、「レギュラーコーヒー」という言い方は結構複雑だ。日本でいうところの「レギュラーコーヒー」は、「インスタントじゃないよ」ということを示すために、本家本元の方にわざわざ余計な形容詞を付けた言葉で、本当かどうか知らないが、UCC による造語と伝えられている。つまり、和製英語なのね。

ところが、米国にも "regular coffee" という言葉がある。ただそれは、インスタントかどうかという問題ではなく、主としてシュガーとミルクを入れるかどうかの問題のようなのである。ニューヨークのコーヒー好きの間では、ミルクあるいはクリームと、角砂糖 2個を入れて飲むのが "regular coffee" だと言われているらしい(参照)。

ところが、地域によっては逆に "regular coffee" はブラックのことだったりする。あるいは、エスプレッソに対して、アメリカ流の淹れ方をしたコーヒーだったりもするらしく(参照)、かなり錯綜している。

だから米国人に、「日本では、インスタント以外は全部『レギュラーコーヒー』です」と説明したら、「へぇ! 日本の『レギュラー』という言葉は、めちゃくちゃテキトーなんだな」と、びっくりされるかも知れない。エスプレッソだろうがそうでなかろうが、砂糖やミルクが入っていようがいまいが、同じ言葉で扱われるのだから。

上述のリンク先では、ニューヨークでは世界のあちこちからやってきた人たちが、自分の国の飲み方こそ「レギュラー」だと思っているので、ややこしくなるのだろうというようなことが述べられているが、そこに日本流が加わったら、わけがわからなくなる。

ここで本題に戻るが、上述したことを前提にして「レギュラーソリュブルコーヒー」という言葉を改めて眺めてみると、「一体、何じゃ? それ!」と言いたくなるわけなのである。はっきり言って、わけわからん。目先の新しい言葉を使って、口先だけで言い含めるマーケティングは、私の趣味じゃない。聞いてる方が恥ずかしい。

とくに、「レギュラーソリュブルコーヒー」なんて、言いにくくてたまらない (Slashdot には、「飲み物なのにかんじゃう」という座布団 3枚もののコメントまであった)から、市場には浸透しないだろうね。「要するに、インスタント・コーヒーなんでしょ」というばかりである。

【追記】

上述の 「日本では、インスタント以外は全部『レギュラーコーヒー』 です」ということに関して、「インスタントと缶コーヒー以外は……」と言うべきかなとも思ったが、まあ、缶コーヒーは日本独特のもの(外国でも、まったくないということもないらしいが)なので、いいかなと。

そのうち、ニューヨークで日本人が力を持ち始めたら、「缶コーヒーこそレギュラーコーヒー」なんてことになったりして。とはいえ、私は 「コーヒーと缶コーヒーは全然別物」と思っているが。

 

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