韓国語と東北弁のイメージが似ていることを巡る冒険
19日付の「韓国語の濁音」という記事で、韓国語も日本の東北弁も、単語の最初の音節を除き、単語の途中の音は濁音に訛るという共通点があると書いた。
例えば、東北弁は「酒とさかな」が「さげどさがな」になりやすい。そして、言ってる本人は「第二音節以後は濁音として発音する」なんていう法則性を意識しているわけでもなんでもなく、ただ無意識に、その方が言いやすいから、結果として濁音になっている。このあたりも、韓国人が清音と濁音の区別ができないということとよく似ている。
ふと気付くと、東北では地名でも第二音節以後が濁音、半濁音となることが多い。我が山形県でも、「山形(やまがた)」「米沢(よねざわ)」「小国(おぐに)」「寒河江(さがえ)」 尾花沢(おばなざわ)」「新庄(しんじょう)」「遊佐(ゆざ)」などなど、枚挙にいとまがない。
山形県以外でも、秋田県の「角館(かくのだて)」、青森県の「五所川原(ごしょがわら)」など、探せばいくらでもある。その程度の濁音化は、とくに珍しいことじゃなくて、取るに足りないことと言われるかもしれないが、これを九州辺りと比較すると、やはり特徴的であることがわかる。
九州の地名でいえば、例えば福岡県の「宗像(むなかた)」「福津(ふくつ)」、大分県の「日田(ひた)」「宇佐(うさ)」などは、東北の常識でいえば、それぞれ 「むながた」「ふくづ」「ひだ」「うざ」 などと発音したいところである。その方が自然で言いやすい。しかし、九州では濁音化しない方が自然のようなのだ。
このあたりで、東北にだって濁音化しない地名がいくらでもあると指摘されそうである。例えば私の生まれた「酒田」は「さかた」であり、隣の「鶴岡」は「つるおか」 、お隣の秋田県でも「秋田」は「あきた」、青森県でも「弘前」は「ひろさき」だと指摘されるだろう。
しかし、ここが問題なのである。実は最大のキモといってもいいぐらいの重要ポイントなのだ。平仮名で「さかた」「つるおか」「あきた」「ひろさき」と表記される地名でも、土地の人間のネイティブな発音ではそれぞれ「さがだ」「つろぉが」「あぎだ」「ひろさぎ」と訛るのだよ。
このあたりのところは、文字データだけでは気付かれないところである。だって、JR の駅名表示にしたって、「酒田」の下には "SAKATA" と書いてある。土地の人にフツーに発音させれば "SAGADA" なのに。まさに、韓国語では清音と濁音が区別されないというのと同様の構造である。
酒田の人間でも、関東以南から来た客人に対してよそ行きの言葉で接する時は「ようこそ『さかた』へ」なんて言うが、仲間内では「さがだ」である。つまりよそ者に対する時には、清音と濁音の区別がつくが、身内同士になると、あっという間にその区別のつかない(というか、「全然気にしない」といった方がいいかもしれない)人に戻っている。
音韻学的なモードのスイッチが、ごく自然に入ったり切れたりする。それは明治以来の「標準語教育」によるところが大きいだろう。それがなかった韓国人は、このモードのスイッチ操作がとても苦手なようなのである。
音韻学的にみるとどうやら、韓国語と東北弁の発音センスは、かなり共通しているとみていいだろう。もっとも最近の酒田の若い連中は、かなり共通語で育ってしまっているので、「さかた」なんて、正しいようでいて実はイレギュラーな発音をしていて、せっかくのモード変換能力を放棄していることが、実に嘆かわしい。
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