アップルの株価低迷を巡る冒険
Wired の "「アップルの革新的ヴィジョン」が「負の資産」に" という記事に、「iPhone 5S、5C が発表されても、アップルの株価下落を食い止めることができなかった」ことについて、その原因は iPhone 5S、5C で、何ら新しいものを提案できなかったからだと書かれている。
センセーショナルなのは、「何よりも最悪であり、最も明白なのは、『新しいものに対する消費者の飽くなき欲望』をアップルが満たせなかったことだ」と、最も明白に言い切っている点だ。しかしこれは、ジャーナリズムの業のようにもつ誤解である。消費者の「新しいものに対する飽くなき欲望」なんて、何よりも最悪な思い込みに過ぎない。
私は 8月 14日の「次期 iPhone が発表されるらしいが」という記事で、次のように書いている。
ところで、近頃 iPhone がアップデートされるたびに、マスコミが「画期的な新機能はみられない」とか「期待されたほどの大きな変化はない」とかいうお約束みたいなコメントを発するのが、私はかなり気になっている。
1ユーザーとしては、あまり大きく変化されたりしたら戸惑ってしまうから、「あまり変わりはありませんが、全体的には動作がちょこっと速くなって、安定性が高まり、ちょっとしたところで便利になりました」 程度が一番ありがたい。その一番ありがたい変化とも見えない変化を「期待はずれ」みたいに言われたら、こっちが困るのである。
こうした私の危惧がしっかりと的中してしまったのが、今回の Wired の記事だ。ちなみに iOS アップデートについて書いた 9月 25日の記事で、私は次のように書いている(参照)。
基本的な使い心地に大きな変化はないので、ほとんど戸惑わずに操作できる。これはありがたいことである。Windows 8 みたいに、アップデート したとたんにベテラン・ユーザーがいきなり初心者レベルに叩き落とされてはたまらない。
「新しいものを追いすぎる」ことで墓穴を掘ってしまったのが、マイクロソフトの Windows 8 である。今回のアップルは、それと比べればずっとマシだ。とはいえ、株価低迷でもわかるように、アップルのイメージが低下しているのも事実である。ただしそれは「新しいものを提案できていないから」ではなく、「アップルらしいテイストが失われつつあるから」だ。
私は上述の 9月 25日の記事で、iOS 7 におけるユーザー・インターフェイス・デザインの変化について、次のように書いている。
このあたりのことは、単なる「機能」では割り切れないことで、基本的な「テイスト」という範疇のことなのである。iOS 7 で、iPhone というデバイスの「テイスト」は、大きく変わり、「思い入れのある道具」から 「単なる便利グッズ」になってしまった。
このチャラいインターフェイスをみて、「ああ、スティーブ・ジョブスは本当に死んでしまったのだなあ」と、しみじみ実感した。
アップルの株価が低迷しているのは、新しいものを提案できていないからではなく、端的に言えば、スティーブ・ジョブスが死んでしまったからである。それ以外にない。
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