ケータイと心臓ペースメーカー その2
"ペースメーカー:電車の 「携帯電話電源オフ」 再検討の動き" という毎日新聞の記事を、ものすごく興味深く読んだ。鉄道会社では、電車内であれだけうるさく流される「優先席付近では携帯電話のスイッチをお切りください」というアナウンスを廃止する方向で、検討が進んでいるのだそうだ。
このきっかけは、今年 1月に出された総務省の指針である。実験によると、携帯電話が心臓ペースメーカーに影響を与える距離は、最大でも 3センチだった。このため総務省は余裕含み(最大値の 5倍というのは、「余裕」というには大きすぎる気もするが)で「15センチ程度離す」と指針を改訂した。
実際には、これまでケータイ電波の影響でペースメーカーが深刻な影響を受けたという信頼できる報告は、世界で 1件もないらしく(報告されていたら、もっと大問題になっているはず)、専門医師も「胸ポケットに携帯電話を入れて抱き合うなどの特殊な状態が続く場合を除き、電波に干渉される可能性は極めて低い」と指摘している。
とまあ、このように、ケータイの電波のペースメーカーへの悪影響なんてのは、それについて言うだけストレスの元になるという、悪影響の方が大きいようなのだ。前述の専門医師も「車内の放送は装着者に過大な恐怖を与え、(中略)不安で電車に乗れないなど生活が制限される事態が起きている」と、逆効果の方を指摘している。
この問題でのトラブルは案外多く、優先席付近でメールをチェックしていただけで、ペースメーカー装着者に「私を殺す気か!」と、どえらい剣幕で詰め寄られたりして、それだけで済まずに大喧嘩になることもあるらしい。その方がよっぽど心臓に悪い気がするのだが。
この問題に間して私は、8年も前に「ケータイと心臓ペースメーカー」という記事を書いていて、その中で、さらにその 3年前(つまり 11年前) に書いたこんな文章を紹介している(参照)。
JR の車内アナウンスであれだけしつこく「携帯電話のスイッチをお切りください」というのは、ペースメーカーに影響があるのかないのかは定かではないが、もし何かあった時に、「私どもは 携帯電話については車内アナウンスで十分に注意していたのですが…」と言うためのアリバイ工作ではないかと思うのである。
で、今回こんなアリバイ工作は必要ないし、それどころかこのアナウンスのせいで余計なトラブルが発生し、かえって面倒なことになるとわかったので、それじゃいっそ止めちゃおうということになっているようなのだ。
ところが一方で、 ペースメーカー装着者の集まりの日本ペースメーカー友の会では、「影響はないと会員に周知をしているが、周知は行き届いていないし、古くからの装着者の不安を拭いきれない。電源オフは継続してほしい」と主張しているという。ちなみに同会のサイトには携帯電話の使用に関して、次のように案内されている。(参照)
操作する場合は、ペースメーカーの植込み部位から22cm以上離して操作してください。
自分のサイトで(大きすぎる数字ではあるが)22センチ離せば自ら操作してもいいと案内し、さらに「影響はないと会員に周知をしている」としながら、電車の優先席付近での「電源オフは継続してほしい」というのは、いかにも奇妙な論理だが、そこはそれ、人間は理屈の生き物ではないので、なかなかむずかしい。
現実に、「そばでケータイを使われると、心臓にドッキン!と大きな衝撃を受けて、命の危険を感じる」と主張するペースメーカー装着者もいる。テレビやエアコンのリモコンには無頓着で、ケータイの時だけ「心臓に大きな衝撃」なんていうのは、「気のせい」と思うほかない。
しかし、実際に衝撃を感じさせてしまうぐらい、これまでのアナウンスメントは、逆効果の方が大きかったようなのだ。「病は気から」というぐらいのもので、「気のせい」ほど厄介なものはない。
こういう話を聞くと私は、「子宮外想像妊娠」 というジョークを思い出してしまったりするのである。オカマさんには案外多いらしい。
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