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2013年10月 7日

「ババシャツ」考 - なぜ若い娘が平気でババシャツを着るのか?

今日は妙に蒸し暑さがぶり返しているが、一昨日あたりはかなり冷え込んで、11月上旬の寒さということだった。最近は天候が極端化しているので、冬は結構寒い。この寒さも地球温暖化の現われの一つというからややこしいが、とにかく防寒対策が必要になって、ユニクロあたりではヒートテック肌着がもう売れ始めているらしい。

ところでこの世には、「ババシャツ」という防寒肌着がある。当初は中高年の女性向けということだったが、昨今はウォームビズの広がりとともにかなり一般化し、若い OL でもフツーに着ているらしい。それどころか 10代の女の子でも「今日は寒いから、ババシャツ着てきちゃった~」なんて、平気で言う。

あれだけ若づくりが好きで、オバサンに見られるのを嫌う女性たちが、「ババシャツ」という言葉に限っては驚くほど寛容なのである。これが私にはとてもいぶかしく感じられていた。最近は「お洒落なデザインのババシャツ」というのも登場しているというが、それにしても「ババシャツ」という言葉を忌避しない心理的飛躍は、いったい何なのだ?

アパレル製品のマーケティングでは、「40代の女性のためのお洒落なホームファッション」なんていう謳い文句で、実際には 60代のシニア層に売るというのが一般的である。考えようによってはとても欺瞞的な手法だ。

これは、「私はそんなおばあさんじゃありませんから」と思いこむ消費者心理にビミョーに迎合しているのである。還暦過ぎた女性が服を買う時には、現在の自分ではなく、20年以上前の自分が発動しているのである。

ところがババシャツは違う。正面切って「ババ」と謳い、しかもスラングの域を完全に脱して、市民権を得た名詞になっている。通販サイトでも堂々と「ババシャツ」というカテゴリー名で訴求している(参照)。

これはどういうことなのか。ウチの娘(20代)に聞いてみると、「それって、すごく感覚的なことだよね」と言う。「気分的には、自分は『こんな年相応のシャツを着ているおばあさん』じゃなくて、『ババシャツというものを着ている私』という感じかな」

なるほど、かなり感覚的だが、少し見えてきた気がする。若い女性にとっては、ババシャツはかなり「相対化」された商品のようなのだ。

喩えていえば、多くのアメリカ人は日常的に薄口のコーヒーを好むが、それがあまりにも当たり前なので、それを「アメリカン・コーヒー」という名称で呼ぶ発想がない。しかし地球の裏側まで来てしまうと、薄口のコーヒーを特別に「アメリカン・コーヒー」の名で注文したりする日本人がいる。

「ババシャツ」は年配の女性にとっては「当たり前の防寒肌着」なので、敢えて「ババシャツ」なんて呼ばない。フツーの「シャツ」である。しかし若い女性にとっては「異文化」だから、「ババシャツ」と呼んで差別化する必要がある。こうしてきちんと相対化しているから、「自分」と 「ババ」は決してイコールにならない。

つまり「ババ」という接頭語を付けているからこそ、相対化が保証されるのだ。あくまでも「ババシャツというものを着ている私」であって、中身まで「ババ」なわけじゃない。逆に、これを単に「シャツ」とか「肌着」とか言い出すようになると、いつの間にか「同期」が成立する。

ウチの田舎の名物お菓子「馬糞まんじゅう」とか、奈良の名物チョコ菓子「鹿のふん」みたいなもので、没イメージの名称でも、はっきりと相対化しちゃうことで不思議に不愉快にならないどころか、訴求度満点のものに昇華しちゃうことがあるのだ。

 

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コメント

10月9日水
午後0時20分~午後0時45分
ひるブラ「カワイイ&カラフル 海から来た“京風”~山形県酒田市~」

山形県酒田市は、江戸時代中期から北前船の寄港地として栄えた。
京風の文化や品々が持ち込まれ、この地で融合・独自の発展をとげた。
イマドキ女性を惹き付ける魅力に迫る。

【ゲスト】生方ななえ
【コメンテーター】渡辺徹
【司会】土橋大記
~山形県酒田市から中継~


番組表で見かけたのでお知らせ。

投稿: 岩淵 | 2013年10月 7日 17:12

岩淵 さん:

情報ありがとうございます。

ただ、恐れ入りますが、ブログのコメントは、関連した内容でお願いします <(_ _)>

投稿: tak | 2013年10月 7日 18:40

「ババシャツ」、これは私の出番ですねぇ。

還暦を過ぎていますが、
仕事上、友人にはイラストレーターやデザイナーが多くいます。

そんな仲間うちの会話では
「ババシャツ着てる」「パッチはいてる」「もう、おばさんは付いていけない」...、
結構使っていることばです。

みんなそれなりの外観してますので(それなりって何だ?)、
歳より若く見えることは確かですが、
思うに、「ババシャツ着てる年齢なのに、若く見えるでしょう」
と言うことなのかもしれないなぁと。

TVで、高齢の人に「歳いくつ?」と聞いたら
「いくつに見える?」と返されてるのをよく目にしますが、
案外、あれと同じかもねと思い至りました。

実際の年齢が明かされた時、
往々にして、年相応に見える場合が多いんですけどね。


投稿: さくら | 2013年10月 8日 11:11

さくら さん:

なるほど。

若い女性にとっては、「ババシャツという、年齢相応とは言えないものを身に付けている、若い私」 で、年配になったらなったで、「ババシャツ着てる年齢なのに、若く見えるでしょう」 ということになるわけですね。

いずれにしても、「異文化として相対化する」 ということがポイントなのですね。

投稿: tak | 2013年10月 9日 15:28

>>takさん
その節は大変失礼いたしました。
遅くなりましたがお詫び申し上げます。

当時はメールや Twitter が使えなかったため、つい横着してブログのコメント欄を利用してしまいました。
今後はこのようなことは行わないよう、節度ある利用を心がけたいと思います。

ついでといっては何ですが、私の趣味の範囲ですと蔑称の俗語化という例では「インディアンバイク」が挙げられますね。
近年減り続けているオートバイ乗りの中でも元祖アメリカンバイク、それも特に高価な部類なので絶対数が少ないのですが。
それでもインディアンは(色々と問題はあれど)アメリカ最古のオートバイメーカーで、数年前には「世界最速のインディアン」という実話を基にした映画が日本でもそこそこヒットし、TV地上波でも何度か放送されたことがあるので認知度はあると思います。
個人的にはハーレーダヴィットソンやドゥカティよりも魅力ある造形のバイクだと思うので挙げてみました。

投稿: 岩淵 | 2013年10月16日 23:57

岩淵 さん:

うぅむ、"Indian" というのは 「蔑称」 と捉えていいのでしょうか?

むしろ、「勇猛果敢」 みたいなイメージから名乗られたような気がするのですが。

投稿: tak | 2013年10月17日 23:01

>>takさん

詳しい記憶は定かではありませんが、私は学生の時に蔑称ということで教わりましたね。(たぶん中学英語の授業)
といっても教科書的な教えではなくて、授業中の閑話だと思いますが。
「ブラックコーヒー飲んでニガーは禁句」とか「ピースサインを手の甲を向けてしてはいけない」といった話も一緒にされてた気がします。
それと、昔から読んでいて最も好きな漫画のひとつに「修羅の門」及び「修羅の刻」シリーズがあるのですが、その作中でアメリカ原住民とその子孫が迫害・差別されるシーンでもインディアンという呼称が使われていまして、近年再販された新装版を読んだ際にはそのシーンに、「ネイティブ・アメリカンではなく敢えてインディアンという呼称を用いる」旨の注釈が入っていたりと、規制単語のような扱いを受けています。

総合して私はインディアンと言う呼称は蔑称だと認識しています。

しかし、takさんの言う勇猛果敢というイメージも分かります。
「ジェロニモ」のような個人名は有名ですね。
映画にもなってその派生で米軍のパラシュート降下の掛け声になったのは有名な話です。
逆にウサマ・ビン・ラディン暗殺時のターゲットコードとして使われた事で、大統領が非難されたりもしていましたが。
他にも先に挙げた「修羅の刻」でも、仁と義に基づく勇敢な戦士として描かれています。

投稿: 岩淵 | 2013年10月19日 03:29

岩淵 さん:

"Indian" という言葉自体は、とくに蔑称というわけではありません。もろに蔑称だとしたら、「インド人」 という意味で使えなくなっちゃいますから。

人によっては差別的な意識で使う場合もありますが、公式的には本来は 「インド人」 を指す言葉であり、Native American を指すのは明らかな間違いということで、politically incorrect ということにされているのだと、私は解釈しています。ややビミョーではありますがね。

その昔にバイク屋さんが名乗った際の心情としては、(ある意味、多少開き直って) 「勇猛果敢」 というイメージを取ったのだと、私は思います。

ピースサインの裏返しは、中指を立てるのと間違われやすいってことなのかもしれませんけど、実際にはあまり気にする人はいないんじゃないかなあ。どうなんだろう?

投稿: tak | 2013年10月19日 11:54

>>takさん
あぁ「インド人」は失念していましたね。ならば Indian が蔑称でないというのも納得がいきます。
紛らわしいですし、そうと思って使っても相手に受け取られなければ意味が無い。
いや、すっかり得心が行きました。

ちなみにオートバイメーカーのインディアンの命名の由来は、創業者の2人が自由に馬を駆るインディアンに憧れを持っていて、その魂を自分たちの作るオートバイにも込めたいと願って付けたのが由来です。
当時1901年はインディアンとの戦争から間もない頃の話で、そんな時代に「インディアン」という名前を自由と冒険の代名詞として名付けた彼らのヒストリーはフロンティアスピリットの現れで感服する思いです。

もうひとつ、ピースサインの裏返しはイギリスでのサインで、アメリカが中指1本ですね。

投稿: 岩淵 | 2013年11月 8日 15:13

岩淵 さん:

この辺で落としどころが決まったようですね。
ありがとうございました。

投稿: tak | 2013年11月 8日 19:07

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