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2013年10月 6日

誰だって「脳で食べる」ものなのさ

毎日新聞日曜版 9月 29日付の 「楊逸(ヤン イー)の味わう」 というコラムに、「脳で食べる時代」というのがある。"いつか 「戦後日本人食生活の変化」 についてのリポートを読んだことがある" という書き出しだ。(楊逸さんは、中国生まれの芥川賞作家だ。念のため)

そのリポートによると、戦後しばらく(昭和 20年代から 30年代半ば)は、腹を満たしさえすればいいという、いわば「胃で食べる時代」だったが、高度成長期は「舌で食べる時代」となり、そして経済大国となってからは、日本人の繊細な美学が料理にも及んで「目で食べる時代」になったのだそうだ。

楊逸さんは、「目で食べる時代」の先駆者は、かの北王子魯山人だという。魯山人が活躍したのは上述の分類でいえばまさに「胃で食べる時代」だったわけで、深く考えればこの 3つの時代分類はナンセンスになってしまうのだが、まあ、それについてはしつこく触れないことにする。

彼女はその後の変化について、"昨今の健康ブームに乗って、ここ十数年、「脳で食べる」へと進化し続けている" と書いている。その心は、カロリー計算しながら食べる時代になったことなのだそうだ。このオチ、申し訳ないけど、即物的すぎてちょっとこけた。

「胃で食べる時代」「舌で食べる時代」「目で食べる時代」という分類については、"「戦後日本人食生活の変化」 についてのリポート" にあったというのだが、検索してみると琉球新報の 10月 3日付「金口木舌」というコラムにも似たようなことが書いてある(参照)から、多分、最近出されたマーケティング・リポートかなんかだろう。

そしてこの分類、どこかで聞いたことがあると思い、再びググってみると、2007年 7月に発表された記事に 「胃で食べる 20代、目で食べる 30代、舌で食べる 40代、頭で食べる 50代」 という言い回しを発見した(参照)。そういえばこれ、当時流行ったみたいで、健康関連の番組などで何度か聞いた憶えがある。

さらに、2008年の日経「春秋」には、「米国人は胃で食べる。中国人は舌で食べる。日本人は目で食べる」というのが載ったらしい(参照)。なるほど、これはウケやすい表現だ。

どうやら、件のリポートというのは、こうしたことを土台にして、日本の戦後に表面的に当てはめただけみたいなことのようだ。だって、「目で食べる」ということについては、日本人は最近に限らず、それこそ魯山人が現われるよりずっと前からしてきたことなのだし。

そして楊逸さんが新しいことのように書いている「脳で食べる」というのは、既に「頭で食べる 50代」という言い方でずっと前から言われていることと同じである。

そして「脳で食べる」ということについていえば、人間は誰でも大昔から、脳で食べているのである。というのは、実は「舌で食べる 40代」というのは幻想で、味覚を司る舌の「味蕾」という感覚器官は、20代を頂点としてどんどん衰えてしまい、60代に至っては半分ぐらいになってしまうのだそうだ。

だからグルメを気取る中年紳士も、実は純粋味覚ではなく、記憶による「脳内データベース」を駆使して食べ物を味わっているのである。そんなようなことを、私は 10年以上前に書いていて(参照)、6年前にもそのレビュー的なことを書いている(参照)。

食べることに限らず、人間は皆、脳で見て、脳で聞き、五感のすべては結局、脳で解釈しているのである。この視点からの食文化論だったら、何千字でも書けるはずだ。

 

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コメント

ム~ン、これだけ価値観やライフスタイルが多様になったのに、「~の時代」とか言ってしまうセンスは勘弁デスネ~。

投稿: ルイ・フェルディナン・ゲスマリオ | 2013年10月 6日 23:32

ルイ・フェルディナン・ゲスマリオ さん:

>ム~ン、これだけ価値観やライフスタイルが多様になったのに、「~の時代」とか言ってしまうセンスは勘弁デスネ~。

こういうの、広告屋さんが好きなんですよね。

テキトーにこねくりあげて、いかにも新しいことのように発表して、ウケなければすぐに自分でも忘れてしまいます。

6年前に電通が、いかにも新時代の新潮流のように発表した 「鏡衆」とか 「情動化社会」 って言葉、覚えてますか?

https://tak-shonai.cocolog-nifty.com/crack/2007/12/post_42a5.html

投稿: tak | 2013年10月 7日 10:08

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