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2013年11月14日

茨城県板東市の「神田山」という地名の読み方

茨城県板東市に「神田山」という地名がある。昔は猿島郡(さしまぐん)神田山村だったが、明治 22年に大口村、猫実村と合併し、神大実村(かみおおみむら)」 となった。何のことはない、それぞれから 1文字をとってつないだだけの地名である。こういうの、昔からあったんだなあ。

その後、昭和 30年に周囲の 8町村と合併して岩井町となり、平成の大合併で板東市となった後も「神田山」という地名は存続し、今でも国道 354号線を行くと、「神田山」という名の交差点がある。これを私はずっと「かんだやま」と読むのだと思っていた。素直に読んだら、フツーはそうなるだろう。

ところが 15~6年前にこの近くに住む友人の家を訪ねることになり、電話で道順を聞くと、「そっちからだど、354号線をずっと来て、『かだやま』交差点を右折して……」 と言う。

「ちょっと待って、『かだやま』 ってどこ?」
「ああ、『神田』に『山』って書く交差点があるだろ」
「あぁ、あるね。でもあれって、『かだやま』って読むんだったの?」
「うん、『かだやま』ね」

その交差点の信号には、漢字で「神田山」と表記されているだけで、ローマ字表記はないのである。それで彼があまりにあっさりと「かだやま」と言うので、それ以来私は、板東市の「神田山」は「かだやま」と読むのだとばかり思ってきた。

ところがこの夏にちょっとした調べものをしたついでに、板東市の「神田山」の本当の読み方は「かどやま」だとわかったのである(参照)。私は茨城県に引っ越してきて以来、「神田山」を 10年ぐらい「かんだやま」と誤読し、その後 15~6年にわたって「かだやま」と誤読してきたわけだ。

それにしても、どうして私の知人は「かどやま」を「かだやま」なんて誤読していたんだろう? 地元の住人のくせに、本当の読み方を知らなかったんだろうか? この謎を聞こうにも、彼は早死にしてしまってもうこの世にいないので、確かめようもない。

しかしつい最近になって気付いたのである。あの辺りの人たちは大抵、「神田山」を「かだやま」と言うのである。しかし本来の読みを知らないわけでは決してなく、意識の中では「かどやま」と、きちんと認識しているようなのだ。正確に言うと、彼らが「かどやま」と発音すると、フツーの耳には「かだやま」と聞こえるのである。

それどころか、自分で言うとどうしても「かだやま」に聞こえる発音になるばかりでなく、私に「あれって、『かだやま』って読むんだったの?」と聞かれても、「うん、『かだやま』ね」と答える。

これって、「かどやま」の発音の中の 2音目の 「ど」 が、その前後に連なる「あ列」の発音に引きずられて、「だ」に変化してしまうのだとしか考えられない。

そして発音が「かだやま」に変化した後でも、当人はあくまでも「かどやま」と言っているつもりなのである、さらに、他人が明確に(あいまい母音なしに)「かだやま」と発音するのを聞いても、それが「神田山」の文脈である限り、何のことなく「かどやま」と聞こえるようなのだ。

うちの田舎の庄内人が、「寿司」と言っているつもりで「すす」と言い、「梨」と言っているつもりで「なす」と言い、「父」と言っているつもりで「つづ」と言うのも、こんなようなものなのだろうか。「言文一致」などと簡単に言うが、発音のレベルまで踏み込んだら、完全な一致なんて、かなり難しいのである。

 

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