雪道歩行は、テクニック云々より滑りにくい靴をはくこと
「雪や氷の上を歩いても滑りにくい安全な歩き方」という YouTube の動画が話題になっている。スキーのインストラクターが、わざと底がツルッツルの靴を履いて、雪の上を歩いてみせている。
このインストラクターは、「テレビで言われてるように爪先で歩こうとすると、滑ってしまいます」と言っている。確かに、爪先で歩くと後ろになった足で地面を蹴る時につるっと滑る。彼が言うには、足を体よりも前方に出して歩くといいというのである。
この動画のコメント欄には本日の 14時 30分現在で 6件のコメントがついているが、そのうち 4件は否定的で、残りの 2件も肯定的というわけではなく、単なるジョークである。一応雪国生まれの私としても、「このビデオをまともに信じたら、アブナいよ」と言わざるを得ない。
まず、このビデオで語られているテクニックは、スキーヤーの発想が勝ちすぎている。つまり、地面はきれいに降り積もった雪で、その上を行く自分の体は、自然に前に前に移動しているということを前提に語られている気がする。この前提でいえば、確かに足も前に前に出して行かなければ、重心がくずれる。
そしてこのビデオは、意図しての事かどうかは知らないが、ほんのわずかな下り坂で撮られているので、ほっとけば体が前に進むという条件に合致する。そのため足も前に前に出して行く歩き方で、結果オーライなのだ。しかし平らな雪道では、人はおっかなびっくり歩きがちなので、その状態で足を積極的に前に出したら、尻餅につながる。
ちなみに、爪先で歩くとスリップしがちというのは、半分本当で半分ウソだ。具体的に言えば、雪道で爪先から着地する人なんてまずいない。つるっと滑るのは、体の後ろになった足の爪先で地面を蹴る時だ。
しかしこれはこれで、「後ろで爪先が僅かに滑るけど、尻餅にはつながらない」ということが言える。私なんか、後ろ足に多少つるっという感覺のある方が、かえって安心したりする。それは、とりあえずその一歩における尻餅の可能性を切り抜けたという証明だからだ。
さらに実際の雪道は、このビデオにあるように新雪が積もっているという生やさしい状況ばかりではない。最も危ないのは、アイスバーンになってしまっている状態だ。アイスバーンでこのビデオの歩き方をしたら、もんどり打って尻餅をつく。尻餅どころか、ひどい時は体が水平になったように落ちてしまうこともある。
このビデオのインストラクターは、「損をしないでエコです」(2分 20秒あたり)と言っている。ちょっとしたスリップによるエネルギーのムダを避けて、効率的に前に進むために、積極的に足を前に出すことを勧めているわけだ。これこそが、私が「スキーヤーの発想が勝ちすぎている」という所以である。
実際の雪道で重要なのは、多少エネルギーのムダをしても、尻餅をついたりしないことの方なのだ。尾てい骨を痛めたりしたら、大変なことになる。もんどり打って体が水平に落ちたりしたら、大腿骨を痛めかねない。年寄りがそんなことになったら、後は寝たきりになって、頭までぼける。
アイスバーンになってしまったら、どんなにテクニックが上達しても、底が平らな靴では滑る。さらに、ビルの入り口の鏡のように磨かれた大理石や、工事中で鉄板が敷かれているところなどに少しでも雪が積もったら、少しも滑らずに歩くのは不可能に近い。
結論を言えば、「雪が降ったら、底が平らな靴で歩くなんてバカなことはしない」ということに尽きる。雪国生まれは何かというと、「都会の人間は雪道の歩き方が下手だねえ」と言いたがるが、実際には彼らが滑らずに済むのは、テクニックより靴のおかげなのだ。雪国の靴は、靴底が滑りにくいようになっている。
写真は、私のもっている雪道用のブーツの底。滑りにくいギザギザがついている上に、かかとのところに折りたたみ式のスパイクがある。とくに滑りやすい道では、このスパイクを起こしてやる (右側が、スパイクを起こしたところ)。これで安心だ。
これは車の運転でも同じだ。いくら雪国生まれでも、ノーマル・タイヤで雪道を走るのは辛い。雪国のドライバーが、全員プロ並の雪道走行テクニックをもっているわけではないのに、結構安全に走れるのは、テクニック以前に、まずスタッドレス・タイヤのおかげなのである。
だから、都会の人間も雪道で滑って病院に担ぎ込まれたくなかったら、冬の間だけでも滑りにくい靴を履いて、雪が降ったらそれで慎重に歩くことだ。
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コメント
さすがtakさん! あっしら江戸のもんが突然の大雪で困らないように、今のうちに対処法を伝授してくださるんでげすね!ありがてぇ!
江戸の街は、雪が降らないことを前提にして作られてやすから、雪が降るとしっちゃかめっちゃかでげすからねぇ。
あっしの直接の知り合いじゃないんですがね、せんに江戸に大雪が降った翌日、凍結した道で転倒して骨折、血管が損傷して血栓ができ、そいつが心の臓に詰まって急死されたかたがいらっしゃいましたからねぇ。
江戸もんも、ご紹介の靴じゃなくても、なんか普通の靴につけるチェーンかスパイクでも一つ二つ用意しといたほうがよござんすよね。雪で死んじまっちゃ、つまんねぇでげすしね。
フリークライミングにも使えやすしね(おいおい)。
投稿: 下衆兵衛 | 2013年12月21日 23:16
下衆兵衛 さん:
雪道の転倒で死ぬ人もあるというのは、まさに本当ですね。
雪が降ったら、「テクニックより装備」です。
フリークライミングはできませんが (^o^)、手軽に装着できる滑り止めなども、ググったらいくらでも出てきますからね。
投稿: tak | 2013年12月22日 23:10
この動画の歩き方は重心が後ろに行きがちで、いかにも怖い感じです。「悪い歩き方」の見本は、確かに後ろ足が滑っているのは分かるけど、ビデオの意図とは逆にむしろ安心して観ていられる。
だいたい、特に都市部の降雪状況だと、「柔らかく積もっている」「凍っている」「溶けて濡れている」「乾いている」という状況が入り交じっているのだから、足許をよく見て歩かないと危なくてしかたありません。
>「実際の雪道で重要なのは、多少エネルギーのムダをしても、尻餅をついたりしないことの方なのだ」
このへんが実に的確な指摘だと思います。
投稿: 山辺響 | 2013年12月24日 11:08
山辺響 さん:
やっぱりそう感じますよね。
投稿: tak | 2013年12月24日 13:32