今さらながら、「真実」と「事実」のニュアンスの違い
STAP 細胞関連の論文に関する疑義が巷の話題だが、その中身に関しては、私のような門外漢には難しすぎて、口を挟む気になれない。そうでなくても万能細胞の研究開発には、興味はあるが、人類にとって是非とも必要なものとは思っていない。人類があまり勝手に操作したら大変なことになるから、高いハードルでプログラムされているのかもしれないし。
昨日、車を運転しながらラジオを聞いていたら、この問題に関して聴取者から寄せられた意見を紹介するコーナーがあった。その中で、「自分の知人にも科学者がいるが、彼らは研究において『真実』のみを大切にする。『真実』かどうか疑わしいものを根拠にすることはありえない」という意見が紹介された。
これを聞いていて、私は「うーん、この人、もう少し言葉の選択に気をつけるべきなんじゃないかなあ」と思ったのである。この人の文脈の中では、「真実」という単語がそぐわない。ここは「事実」というべきところである。
で、この人の指摘の中にある「真実」という単語を「事実」に置き換えれさえすれば、至極もっともな指摘で、文句の付けどころがないぐらいである。ただ、もっともすぎて面白くもなんともないので、「そんなの、当たり前じゃん」と言われるだけの話だ。「真実」なんて単語を使うから、自分でずいぶん高尚なことを言っているように錯覚してしまう。
「事実」と「真実」の違いに関しては、いろいろな人がいろいろなことを言っているが、私としては、「事実」というのは時空内の個別の事項であると思っている。個別の「事実」を積み重ねて論理的にとことん突き詰め、さらに鋭い直観の助けをも借りてようやく見え隠れしてくるのが、 「真実」というものなんじゃないかなあ。「真実」って、それくらい重いものだ。
ほかに、今では古典的用法になってしまったような気もするが、「真実の友」とか「真実、お前と添ひ遂げたいのぢゃ」みたいな、主観的かつ心情的な言い方もあり、そこはそれ、パラダイムによって使い分ければいい。ただ、「真実」という単語にはこうしたニュアンスも含まれるので、科学者の研究の根拠という意味で使うのは、ますますそぐわないだろう。
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コメント
こんにちは。
> 科学者の研究の根拠という意味で使うのは、ますますそぐわないだろう。
まったくその通りですね。
私の考えとしては、
「事実」は人の意思を介さないもの。事象。現象。
「真実」は人が納得したもの。
…と思っています。
「事実」はいくら積み重ねても真実にはなりません。
事実のままです。
逆に「真実」は、事実すらなくても、自身や他者が
そう思うならば成立するものだと思っています。
『○○が私にとっての真実である』という
言い方があるくらいですから、
真実とは「人間の思い込み」くらいに考えています。
…ですので、相手から「真実」という言葉が出てきたら
私は反射的に疑ってしまいますねw。
投稿: るー | 2014年3月13日 13:00
るー さん:
>相手から「真実」という言葉が出てきたら
>私は反射的に疑ってしまいますねw。
たしかに、「真実」の安売り屋さんには、気をつけた方がいいですね。
投稿: tak | 2014年3月13日 15:01
40年ほど前になりますが、ある大学の先生に、商品説明?の折りに「絶対なになに、、、」とお話しましたら、
「絶対とは百万分の1くらいの確率に対応する、いい加減なことを言うな」って。それ以来「絶対」って言葉、使わなくなりました。真実もそんな感じでしょうか。
お話の研究者、「『真実』 のみを大切にする」、どんな
研究されているのか興味がありますねぇ。
投稿: coolbaby | 2014年3月13日 19:05
coolbaby さん:
>絶対とは百万分の1くらいの確率に対応する
へぇ! ずいぶん緩やかな 「絶対」 ですね。
それだと、「そんな人は絶対にいない」 と言われるような人が、日本に 100人以上いてもいいことになります。
私は自ら認めるアスペルガー一歩手前ですから 「絶対」 とは、とにかく文字通り 「絶対」 なのだと思っています。
それで、「降水確率 ゼロ・パーセント」 なんていわれると、ちょっと居心地悪いです。
「もしちょっとでも降ったら、どうしてくれるんだ」 と。
>お話の研究者、「『真実』 のみを大切にする」、どんな
>研究されているのか興味がありますねぇ。
そうですね。どんな研究なんだろう ? (^o^)
投稿: tak | 2014年3月13日 19:26
英語では"truth"と"Truth (capital T)"を区別していますね。聴取者のおっしゃる「真実」はおそらく大文字の方(一般的な日本語訳は「真理」かな)のことだと思いますが、もし科学がそれだけを追究していたら、幅は狭いしちっとも発展しないでしょうね。
私の知人にも科学者がいますが、彼らのやっていることは家族や知人にはさっぱり伝わらず、本人たちも伝える努力をほとんどしていません。私のやっていることも彼らには伝わりません。そういうもんです。
投稿: emi | 2014年3月13日 21:06
emi さん:
大文字で始まる "Truth" は、経験から、「宗教的、哲学的な意味合いなんだろうな」 と思っていて、まあ、これで大きく間違ってはいないんでしょうね。
ただ、日本の英語教育では、そんなことは教えられたことがないので、普通の人はそんな違いがあるなんてことも知らないと思います。
>私の知人にも科学者がいますが、彼らのやっていることは家族や知人にはさっぱり伝わらず、本人たちも伝える努力をほとんどしていません。
彼らが 日常的に「真実」 を研究してるんだったら、しつこくつきまとってでも聞き出したいですけどね (^o^)
投稿: tak | 2014年3月13日 22:31
真実と事実
な~るほど。わかりました。
STAP細胞がほんとうにできたのならいいですよね。
現在、大騒ぎしてる証明の段階の(へたなこと)があったとしても、すぐにうつくしい形で論文を直せると思うから。
待ちましょう~
投稿: tokiko6565 | 2014年3月15日 08:02
tokiko さん:
>現在、大騒ぎしてる証明の段階の(へたなこと)があったとしても、すぐにうつくしい形で論文を直せると思うから。
誤解を招く言い方かもしれませんが、今の騒動はほんの少し 「いじめ」 の要素が混じっているのではないかと思っています。
ただ、小保方さんが大学の後輩だからといって、肩を持ってるわけではありません ^^;)
投稿: tak | 2014年3月15日 08:27