« 「みんなの党」のくせに、ずっとワンマン党首でやってきたから | トップページ | ニフティが身売りするらしいので »

2014年4月 9日

一流バイオリニストでもストラディバリウスを聞き分けられない

Slashdot が「一流バイオリニストでもストラディバリウスと最近のバイオリンは聞き分けられない」と伝えている。二重盲検法(厳密な目隠しテスト)で視覚的な予断を排除した上で、ストラディバリウス、ガルネリ(ストラディバリウスと並び称される古典的名器)、現代に作られたトップレベルのバイオリンを用意して、一流バイオリニストに弾き比べしてもらったところ、その違いを判別することはできなかったという。

この記事の元になったのは、Sience というサイトの  "Elite Violinists Fail to Distinguish Legendary Violins From Modern Fiddles"  (一流バイオリニストも伝説のバイオリンと現代のものとの区別をつけられない)という記事だ。黒いゴーグルを装着してバイオリンを弾く奏者の写真入りで紹介されている。

記事によると、一流バイオリニストたちは目隠しテストではどれがストラディバリウスであるかを言い当てることはできなかったが、総じて現代のバイオリンの方を好んだのだそうである。ちなみに現代のバイオリンは、数億円のものもあるというストラディバリウスと比べると、1桁か 2桁安い。素晴らしいコストパフォーマンスではないか。

この記事を読んでまず思い出したのが、2年近く前に書いた「高いワインは、本当においしいのか?」という自分の記事である。カリフォルニア工科大学の神経経済学者アントニオ・ランゲル准教授の「人はワインの味を味覚ではなく値段の高低で判断していることを実証した」という研究成果を紹介したものだ。

ランゲル准教授の研究によると、同じワインを飲んでも、それが高価なワインだと信じている時には、快感の認識に関わる脳の領域の活動がより活発になる。つまり「このワインは高いんだよ」と聞かされたら、それだけで「おいしい」と感じてしまうというのである。

つまり、人はワインの美味しさを純粋に味覚的に判断しているわけではない。魅力的なサイドストーリーの助けによって、「美味しさ」を感じているのである。目隠しテストをすると、ワインのエキスパートといわれる人たちですら、最も安いワインを「おいしい」と感じるのだそうだ。

似たようなことで、人は「これはストラディバリウスだよ」と言われると、いい音に聞こえてしまうということは、十分にあり得るだろうと思うのだ。ということは、「16世紀後半に作成されたバイオリンが最高の音を出す」というのは、もしかしたら壮大な都市伝説かもしれないということである。

ストラディバリウスを超えるバイオリンは、もはや作ることができないとまで言われる「伝説」に、私は少なからぬ疑問を抱き続けてきた。というのは、バイオリン以外の弦楽器では、古い楽器は音が劣化するというのが常識なのである。いくら伝説的名工の作であるにしても、バイオリンだけは、400年以上前の楽器が最高の音を出すなんて、「本当かなあ?」と疑いたくなる話だ。

そりゃあワインと違って、楽器の場合は高級品と安物の違いは歴然としてある。多分、素人でも、ある程度音楽を聞きつけている人にはわかるだろう。安物は安物の音しか出さない。しかし高級品同士で聞き比べたら、その違いは容易にはわからないだろうと思う。

おもしろいのは、この実験ではバイオリン奏者たちはストラディバリウスを聞き分けることはできなかったが、総じて新しい楽器の方を好んだという事実である。楽器の場合、高級品同士で比較すると、ワインの場合の安いワインが好まれるというのと、似た現象が生じるのだ。

ただ、今回報じられたニュースにも、盲点はある。それは、短い時間での弾き比べで比較していることである。楽器というのは弾き込まないとその違いが意識されないということがある。弾き込んで初めてその楽器の本来の音が出てくるというのは、確かにあるのだ。

そしてもう一つ、この実験では、奏者が音を判断しているということがある。楽器の音の良さを感じるのは、実は奏者ではなく聴衆である。弾き手に聞こえる音と、聞き手に聞こえる音は違うはずだ。ましてや、顎の下という不自然な位置で鳴る楽器の音は、弾き手には不自然に聞こえているとしてもまったく不思議ではない。だからバイオリニスト自身が判断するというのは、あるいはメソッドとしては不適切だったかもしれない。

ただ、いずれにしても、古典的名器といわえるストラディバリウスと、現代の名器の間には、これまで言われてきたほど大きな差異はないというのは、確実に言えると思うのである。楽器演奏者の所有する楽器というのは、かなりステイタス・シンボル的な意味がある。一流演奏者になってしまうと、音の良さとかいうよりも、それなりに高い楽器をもっていないと、とりあえずカッコがつかないのである。

 

|

« 「みんなの党」のくせに、ずっとワンマン党首でやってきたから | トップページ | ニフティが身売りするらしいので »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

お正月にやってる芸能人格付けチェックを思い出しました!
へ(´∀`ヘ)へ))カサカサ

投稿: ひろゆき | 2014年4月10日 23:30

ひろゆき さん:

「芸能人格付けチェック」 って、知らなかったのでググってみたら、今年の 1月 3日放送の動画が見つかりました。

http://www.dailymotion.com/video/x193t3t_%E8%8A%B8%E8%83%BD%E4%BA%BA%E6%A0%BC%E4%BB%98%E3%81%91%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%AF2014-1-3_fun

おっしゃってるのは多分、これのことでしょうね。

楽器の音の違い、録画で聞いても 「なんでこれがわからんかなあ」 というぐらい、明確な違いですね。

でも、比較対象が普及品だったから一目瞭然、いや、一耳瞭然でわかるんで、最高級品と比べたらわからないかも。

投稿: tak | 2014年4月11日 10:51

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 一流バイオリニストでもストラディバリウスを聞き分けられない:

« 「みんなの党」のくせに、ずっとワンマン党首でやってきたから | トップページ | ニフティが身売りするらしいので »